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コントやトークに役立つ「脱出ゲーム」バイト〝芸人マダミス〟も企画
ピン芸人・さきぽんさん

昔からお笑いと謎解きが好きで、現在は「脱出ゲーム」でバイトをしているピン芸人のさきぽんさん。「大好きな脱出ゲームをお客さんにも楽しんでもらいたい」という思いから生まれた工夫が、一人コントやトークで役に立っているといいます。そんなバイトと、新たに立ち上げたプロジェクトについて聞いてみました。(ライター・安倍季実子)
「小さい頃から謎解きが大好きで、いつかそれを仕事にしたいと思っていたんです」と語るのは、芸歴8年目を迎えるさきぽんさん。
現在は、謎解きをして閉じ込められた部屋から「脱出」をはかる体験型施設の「東京密室新体験脱出ゲーム」でバイトをしています。
バイト歴はまだ2年目ですが、今年に入ってバイトリーダーを任され、日々バタバタと奮闘中です。
仕事内容は幅広く、受付業務からはじまり、ゲーム前のルール説明、部屋へのご案内、ゲーム中のトランシーバーを使ったヒント出し、そしてゲーム終了後のリセット作業まで。スタッフ全員がローテーションで、すべての業務を担当します。
「うちの店舗は1日数回決まった時間にゲームがスタートする公演制で、週末はフル稼働状態になり、1日中動きっぱなしです」
最近は、知らない人同士が協力しながら、テーブル上で謎を解く「ホール型」が増えていますが、さきぽんさんのバイト先は、予約したグループが1つの部屋を貸し切って家具や小物を動かしながら進めていく「ルーム型」といいます。
さらにその中でも、ドアの開閉や音・照明の演出など、電子ギミックを活用した臨場感のある「上海型」と呼ばれるタイプに分類されるそうです。
「例えば食堂がテーマの部屋では、実際に食堂のようなセットが組まれていて、店内の小物を使いながら謎を解いていきます。完全貸し切り制なので他人の目を気にする必要はありませんし、部屋の中も細かく作り込まれているので、没入感がすごいんです」と魅力を語ります。
脱出ゲームという「非日常」を提供する仕事だからこそ、大切にしていることがあるというさきぽんさん。
「初めて脱出ゲームをする方にとっては、『また行きたい』と思ってもらえるかどうかがかかっています。だからこそ、どれだけ楽しんでもらえるかを常に考えながら働いています」
最もやりがいを感じる瞬間は、お客さんが笑顔で部屋から出てくる時だといいます。
「ドアの前で成功ボードを持って待機して、ドアが開いた瞬間に『大成功です!おめでとうございます!』と声をかけて、一緒にお祝いするんです。お客さんが『ヤッター!』と笑顔で飛び出してくる瞬間、全身からあふれ出す楽しさが伝わってきて、私まで泣きそうになるくらい、胸がいっぱいになります」
一方で、失敗してしまったお客さんにも、最後まで楽しい気持ちで帰ってもらえるよう気をつけています。
「『脱出には失敗してしまったけど、この問題をこんなに早く解けた人はいない』など、いいところを褒めるようにしています。そうして、楽しい思い出を持ち帰っていただいて、また脱出ゲームをしてほしいので」と話します。
脱出ゲームでのバイト経験は、芸人活動にもかなり役立っているといいます。
「ルール説明には5分くらいかかるんですが、これがトークのいい練習になるんです。単調な説明だけだと、お客さんの集中力が続かないこともあるので、お客さんの気を引くように、ワクワクするような言葉選びや話し方を意識しています。芸人として舞台でトークする感覚と、けっこう近いものがあるなと感じています」
また、ゲーム中にトランシーバーでヒントを出す場面では、言葉だけで伝える必要があります。この「言葉だけで人に伝える力」は、一人コントにも通じる技術だといいます。
「人に何かを伝える時に、ちょっとした『間』があると、『次、何を言うんだろう?』って、聞いてる人の集中力が高まるんです。今やってる恋愛妄想系の一人コントでは、その『間』がすごく生きてると思います」
さらに、脱出ゲームの現場は、「人間観察の宝庫」でもあるそう。
「制限時間が迫ってくると、人の本性ってけっこう出るんですよ。最初は優しくて感じのいい人が時間がなくなるとピリピリし始めたり、彼女の前でかっこつけてた彼氏が急に諦めモードになったり(笑)。それを見た彼女がちょっと引いてたりして(苦笑)。こういうのを、こっそりネタのヒントにしてます」
そんなふうに、謎解きの世界と芸人としての経験がつながっていく中で思いついたのが「芸人マーダーミステリープロジェクト」です。
マーダーミステリーとは、参加者それぞれが推理小説の登場人物になりきって進めるゲームです。
「キャラクターシート」に書かれた性格、過去、事件当日のタイムスケジュールなどを参考にしながら、そのキャラクターになりきります。
「人狼ゲームとも少し似ているのですが、マーダーミステリーでは各キャラクターが異なる目的を持っています。例えば、犯人は自分の罪を隠したいと思う一方、無実の人物の中には何らかの秘密を抱えている人もいれば、まったく別の目的を持っている人もいるという感じです」とさきぽんさん。
「時には情報を隠したり、話をごまかしたりしながら駆け引きをしていくのは、やってる本人たちはもちろん、見てる側もめちゃくちゃ面白いんですよ!この楽しさをたくさんの人に味わってもらいたいので、『芸人マダミスプロジェクト』を立ち上げました」
一回目の公演は7月22日、新宿バティオスで開催予定です。現在はテストプレイを重ねてシナリオをブラッシュアップしつつ、完成度を高めています。
「登場人物全員が主役だと思えるようなストーリーにしたくて、細かいところまで何度も練り直しています。また、矛盾が出ないように頭をフル回転させながら、毎日深夜まで作業してます。たまにウトウトする日もありますが、それでもやっぱり謎解きが好きなので、めちゃくちゃ楽しいです!」
今後の展望について、さきぽんさんは「夏の初公演を成功させることが最優先」と語ります。
秋以降も公演を継続し、マーダーミステリー普及と認知拡大を目指しています。また、誰でもサクッと楽しめるアプリのリリースも計画中なんだとか。
芸人としては、自分の雰囲気に合った芸風を見つけることが課題です。
「実は、2~3年前まではぽっちゃりしていて、芸風もそれに合わせたものだったんです。今は以前よりもスッキリしたので、どんな笑いが向いているのかを模索中です。そして、芸人マダミスプロジェクトと芸人の二足の草鞋を履いて、ゆくゆくは『謎解きといえばさきぽん!』と思ってもらえるような芸人になりたいです」
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