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「政治家、逃げ切れると思っている」 保育園ブログ、駒崎さんの心配
保育政策のエキスパートであるNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは、「保育園落ちた 日本死ね!!!」の匿名ブログを引用し、政策提言を繰り返しています。待機児童問題は前進するのでしょうか。(聞き手 朝日新聞地域報道部記者・田中聡子)
――生の声が国に届いたはずなのに、いま政府が出してきている対策には、小規模な保育所の定員を増やすとか「保活」の体験談を集めるとか、場当たり的な感じを受けます。
官僚や国会議員には、細かい情報を吸い上げる仕組みがほとんどない。審議会とかで集めた要望を「足して40で割る」みたいな状況です。
「建築基準法が一定以上の面積の施設に防火設備の設置を求めているから、保育所の物件を見つけにくいんです」と具体的に提示して届ける現場経験者が必要です。その数が多いほど、より使いやすい政策につながるでしょう。
昔は新聞やテレビに取り上げてもらうしかなかったけど、いまはブログを書いて拡散すれば可視化されるので、やりやすくなっていると思います。
――現場の体温が政策に反映されてきたと。
いや、いまはそういう草の根ロビイングが始まったばかり。昔はロビイングというとお金や票を持った業界団体のものだったけど、いまは個人がネットを通じて社会のあり方に声をあげていける環境になっている。今回のブログは極端だけどそのいい事例でした。
――草の根ロビイングが根付くと、新聞にはやることがなくなるでしょうか。
基本的に政治家はネットよりも新聞を見ています。新聞はネットと競争しなくていいんです。今回の保育園問題も、ネットだけなら政府はなんの痛みも感じなかったはずです。
ネットは一番最初に話を拾ってくる「炭坑のカナリア」的な存在です。ネットが「うっ、臭い」と感じたものを、テレビと新聞が背景や事実関係をきちんと調べて報道すればいい。
――ブログで待機児童問題への政策提言を続けているのは、それが自分の役割だから?
ブログのような感情と僕のような提言の両方が必要です。あのブログがバズったのは、ちゃんと怒ってるからなんですよね。怒りには伝播(でんぱ)力がある。でも怒りにまかせるだけでは憎悪になる。
僕は、「個人の問題じゃなくて、構造を直さないといけないんだよ。でも怒り続けてね」と伝えることを意識しています。正しく怒ってもらうために、データやファクトを示しているんです。
――放っておくと、本質からずれてしまうということですか。
僕のツイッターでも、「この問題をシングルイシューにしてくれ」とお願いしました。待機児童の議論は「反原発」「反安保」など反体制的な運動にからめ取られやすい。そうなった瞬間、たとえ待機児童問題に共感していても、一気にひいてしまう人たちがいる。
何をやろうが「安倍さんだからだめ」という論調のメディアもある。個別に褒めるときは褒めて、批判する時は思い切り批判する方が、政治家には響く。
――最近、一時の盛り上がりがなくなってきていませんか。
実際に国会議員から「もう収束してきたね」と言われました。政治家は話題にならなくなれば、いまのまま逃げ切れると思っています。夏に選挙があるため、いまは政策の扉が開いています。選挙が終わったらぱたんと閉じます。それまでに公約に入れさせるぐらい怒り続けなければいけない。
――選挙対策じゃないですか……。
いいじゃないですか、選挙対策でも。いまがチャンス。
「保育園ブログに負けたのは?」は4月16日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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