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芸能人の結婚報道 「一般男性」「一般女性」急増のワケは?
スポーツ紙の熱愛・結婚報道で定番化している「一般男性」「一般女性」という言葉。なぜこれほどまで多用されるようになったのか、調べてみました。
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スポーツ紙の熱愛・結婚報道で定番化している「一般男性」「一般女性」という言葉。なぜこれほどまで多用されるようになったのか、調べてみました。
スポーツ新聞の熱愛・結婚報道などで、近ごろよく目にする「一般男性」「一般女性」という言葉。芸能人のお相手を紹介する際に、「一般の人である」ということを強調する意味で使われています。最近も、タレントの千秋さんが「一般男性」との再婚を発表した直後、お相手がTBS社員だったと報道されて注目を集めました。増殖を続ける一般男性と一般女性。その謎に迫ります。
記事検索サービス「日経テレコン」を利用し、「一般男性+結婚」というワードで日刊スポーツ、スポーツニッポン、スポーツ報知、サンケイスポーツ、デイリースポーツの5紙を検索すると、昨年末までに1243件がヒットします。「一般女性+結婚」では、2352件。「結婚」を検索ワードに足したのは、対象をできるだけ芸能報道に限定するためです。
こうしてあまりに「一般」「一般」と強調されると、「芸能人ってそんなに特別なの?」「一般女性とか言って、どうせ元モデルとかも含まれてるんでしょ」とモヤモヤしてしまう人もいるかもしれません。
結婚報道における最古の一般男性は、2001年10月16日付スポーツニッポンの「奥山佳恵“結婚”へ きょう都内で会見」という記事に登場する、女優・奥山佳恵さんのお相手の男性でした。記事には「関係者によると、お相手は同年代の一般男性だという」とあり、この時点で年齢や職業の記載はありません。しかし、その後の結婚会見を報じた各紙の続報では、男性の実名とともに、33歳(当時)のヘアメークアーティストという肩書が明かされていました。
最古の一般女性は、2002年02月14日付日刊スポーツ「原田龍二 都内で結婚報告 挙式の予定はなく“できちゃった結婚”も否定」という記事で紹介されている、俳優・原田龍二さんの結婚相手の女性とみられます。「昨年12月末に交際10年の一般女性(28)と入籍した」とあり、職業など詳しい氏素性は不明なものの、年齢は記載されていました。
それでは、一般男性や一般女性という表現はいつ頃から増えてきたのでしょうか。
「一般男性+結婚」の件数は2000年代中頃まではほぼ皆無でしたが、2006年に4件と微増。2007年に10件、2011年には125件と3桁台まで上昇しました。近年も2013年…189件、2014年…253件、2015年…295件と高い水準で推移しています。
「一般女性+結婚」の方はというと、やはり2000年代前半は多くて数件にとどまっています。それが2006年に18件に増え、2009年には135件と早くも3桁台に突入。直近の3年を見ても、2013年…307件、2014年…356件、2015年…476件と増殖傾向に拍車が掛かっています。
日刊(1990年~)、スポニチ(1997~2013年2月)、報知(1998年~)、サンスポ(2006年~)、デイリー(2003年~)と、日経テレコンの記事収録期間には各紙でズレがあるため注意が必要ですが、2000年代中頃を境に一般男性と一般女性が急増してきたのは間違いなさそうです。一体なぜなのか、日刊スポーツで四半世紀にわたって芸能報道に携わってきた、笹森文彦編集委員(58)に聞きました。
――どうしてこんなに、一般男性・一般女性が増えたのでしょうか。
「一つには、インターネットやソーシャルネットワークの急速な広がりがあります。特に2010年代以降、タレントさんが結婚や離婚をブログで発表するケースが非常に増えました。『長い間お付き合いしていた人と結婚することになりました。一般の方なので温かく見守ってください』というような。すると、当事者には取材できないし、事務所に聞いても『ブログにある通り、一般の方なので』と言われてしまう。取材の手足をもがれ、手詰まりになってしまうわけです」
「もう一つは社会的なプライバシー意識の高まり。政治であれ経済であれ全部そうですが、芸能界でも個人情報に対する意識が厳しくなっていった。『細かく取材を受けたくない』という人が増えたし、プロダクション側もプライバシーへの配慮を強く訴えるようになりました。結果として、『名前を出さない』というコンセンサスが生まれたのでは」
――個人情報保護法の全面施行が2005年で、翌年あたりから一般男性・一般女性が増え始めています。何か影響はあったのでしょうか。
「影響はあったと思います。芸能事務所からすれば、それまで好き放題書かれてきたわけで、できるだけ報道をコントロールしたいと考えていたはず。うまく法律を利用した面はあるでしょうね」
「ただ、芸能マスコミが横並びで『こうしましょう』と示し合わせたことはありません。流れのなかで、徐々に一般男性・一般女性が増えていったんじゃないかな」
――プライベートな情報についても、昔はもっとおおらかだった?
「1980年代、90年代は、タレントさんたちもそこまで意識せず話してくれました。身長は何センチで、どんな仕事をしていて、どこで出会って…と事細かに。1998年の松田聖子さんの「ビビビ婚」の時も、お相手の歯科医の男性は実名報道でした」
「かつては新郎新婦が一緒に結婚会見していた時代もありましたが、やがて写真を掲示して『この方です』と言うようになり、そのうち似顔絵になった。『誰々似の一般女性』とかね。だけど、『誰々似』と言われた方も迷惑だと思いますよ」
――「誰々」が元カレ・元カノだったりしたらマズイですね。
「ははは。ともあれ、昔は『これも自分がビッグになるための材料だ』ととらえて、言葉は悪いですけどプライバシーを切り売りするようなタレントさんもいました。いまはそうはいきません。お相手の経歴とか風貌というのは一番知りたいところですが、明かされない。なかなか面白い記事が書きづらくなっているのは確かです」
「もちろん、ニュースバリューの問題もあります。超一流タレントが結婚するような場合には、『一般男性』『一般女性』と言われたとしても、取材したうえでお相手の素性を書く判断はあり得るでしょう。また、実名は控えるにしても、『元アイドル』『元テレビ局社員』といった肩書は、わかっていれば当然書きますよね」
――「一般」という言葉の響きから、芸能人ってそんなに「特別」なの?と思ってしまうのですが。何となく一般人を見下しているような……。
「『一般』とつけるのは、単に芸能界・業界の人ではないという意味であって、バカにするような意図はまったくありません」
「タレントさんからすれば『一般の人・普通の人だから追いかけないでください』ということでしょうし、我々メディアからすると『だから深く掘り下げて書くことができないんですよ』という、読者向けのエクスキューズでもある。『一般』という言葉には、『氏素性は出せませんが、推察してください』という思いが込められているんです」
笹森さんへのインタビューから浮かび上がってきた、タレントと芸能ジャーナリズムとのせめぎ合いの歴史。それにしてもいま一つ釈然としないのは、一体どこからどこまでが「一般」なのか、という問題です。
「一般」が一般的になるなか、「プロ彼女」という言葉も生まれました。「元モデルや元アイドルで、一時は華やかな世界を志したものの早々にあきらめ、虎視眈々と有名人との結婚を狙っている女性」を指します。名前を検索しても過去の経歴などの情報は見当たらず、一般人に紛れ込んでいるのが特徴です。
スポーツ紙に躍る「一般女性」にも、こうした「プロ彼女」が一定数含まれている可能性があります。この言葉の提唱者である、漫画家・文筆家の能町みね子さんに見解を伺いました。
「一般女性のなかには、プロ彼女もかなりいると思います。『一般』という言葉に守られているから、マスコミに追及されることもない。ある種の自衛策なんでしょうけど、ちょっとズルイですよね」
「報道する側も、一般男性・一般女性を便利使いして、言い訳にしている部分がある。萎縮するあまり、『一般』の範囲をどんどん広げていくのは疑問です。職業ぐらいは書いても問題ないのではないでしょうか」
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