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文枝師匠とコケて40年、実は同じ椅子! 新婚さんいらっしゃい!

「新婚さんいらっしゃい!」で文枝さんが見せる「椅子コケ」。実はあの椅子、40年近く同じものを修理しながら使い続けています

「新婚さんいらっしゃい!」司会の桂文枝さん(左)と山瀬まみさん
「新婚さんいらっしゃい!」司会の桂文枝さん(左)と山瀬まみさん 出典: 朝日放送提供

目次

 日曜の昼下がり、思わず見てしまう「新婚さんいらっしゃい!」。桂文枝さんの司会で1971年に始まり、来年1月で丸45年を迎えます。先日は「同一司会者によるトーク番組の最長放送」として、ギネス世界記録に登録されました。番組名物といえば、文枝さんが見せる「椅子コケ」。実はあの椅子、およそ40年にわたって同じものを修理しながら使い続けています。たまたま採用された転びやすい椅子が生み出した名演出。番組の美術担当者も「この椅子以外ありえない」と語ります。その歴史を詳しく聞きました。

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ジョーン・シェパードさん時代から


 番組を制作している朝日放送(ABC)によると、現在の椅子が使われ始めたのは1971年から1978年のどこかの時点。放送開始時の美術部担当者(すでに退職)に確認しても、わからなかったそうです。

 番組宣伝部に保存されている写真で過去の番組スタジオセットを確認したところ、1971年1月に月亭可朝さんと桂三枝さんの2人司会でスタートした時は、違う椅子が使用されていました。

 2代目アシスタントの梓みちよさん時代(1971年7月~)の椅子も、形はよく似ているものの別物で、3代目アシスタントのジョーン・シェパードさん時代(1978年3月~)は現在の椅子が写っていたそうです。

桂文枝さんの椅子
桂文枝さんの椅子 出典: 朝日放送提供

美術部の佐々さんに聞きました


 海外や地方で収録する際にも、必ず現地に持ち込まれるという、あの椅子。身の軽い文枝さんが派手にコケると一緒にゴロンゴロンと転がっていく、あの演出を助けるための工夫があるのか? なぜ同じものを使い続けるのか? 朝日放送美術部の佐々文章さんに詳しく聞きました。

 ――まずは、どんな椅子なのか教えてください

 「デザインとしては、1960年代後半から万国博覧会が開かれた1970年前後の時期特有の優雅な曲線フォルムをしており、この頃の流行デザインの家具であったと想像できます。最近でも『カリモク60』など1960年代の家具がリバイバルで流行していますが、『新婚さん』の椅子はリバイバルも何も関係なく、およそ40年にわたり現役です」

 ――何脚あるんですか?

 「文枝師匠・山瀬まみさん・出場者である夫・妻の計4脚です。いずれも約40年間同じものを使い続けています。4脚とも同じデザインですが、文枝師匠は文枝師匠の椅子、山瀬さんは山瀬さんの椅子、と決めており、入れ替えはしていません。なので、約40年前にたまたま文枝師匠用に指名された1脚だけが、約40年間転がり続けるという酷な生涯を送っていることになります」

カナダで収録した際のセット。文枝さんの椅子だけは日本から持ち込んだ
カナダで収録した際のセット。文枝さんの椅子だけは日本から持ち込んだ 出典: 朝日放送提供

コケを補助するための工夫は


 ――どれくらいの頻度でメンテナンスしているんですか

 「ある程度使い続けていると、椅子のフレームがゆがみ、生地が汚れてくるので、3~4年に一度ほどフレームの補修や塗装、生地の張り替えなどをしています。現在のパール調の生地は2011年からです。この椅子は今となっては再び入手することは絶対に不可能なので、今後も長く大事に使っていきたいと思っています」

 ――文枝さんの見事なコケを補助するための工夫がされているのでしょうか

 「椅子に何ら特殊な加工はしていません。これは1970年前後に流行したフォルムによる偶然の産物としか言いようがないのですが、椅子の底を見ると断面も円形に近い曲線になっています。椅子の下部分がFRP(繊維強化プラスチック)成型のパーツとなっており、この素材の硬さも椅子の転がりやすさにつながっています」

 ――「椅子コケ」が生まれたきっかけは

 「最初に師匠がコケた後、たまたま椅子も一緒に転がったのか、あるいは椅子が転びやすい形状なので面白がって師匠がコケることを思いついたのか、今となってはわかりません。おそらく前者だと思いますが、師匠・番組ディレクター・美術担当者の誰一人として、この演出を狙っていたわけではありません。たまたま採用した椅子が思わぬ効果を発揮して全国の視聴者の爆笑ポイントとなり、それ以後は『この椅子以外ありえない』となったわけです」

「椅子コケ」を生み出す椅子の構造
「椅子コケ」を生み出す椅子の構造 出典: 朝日放送提供

地方や海外での収録にも持ち込み


 ――買い替えようとは思ったことは

 「番組美術担当として、椅子が古臭く感じたことは幾度となくあり、新しいものに変えてしまおうと家具屋さんやインテリアショップを必死に探し回ったこともありました。当然のことですが、本来椅子とはどんなに安いものでも高級品でも『お尻の下でしっかり安定しているべきもの』です。転びやすい椅子なんてありえません。そんなものは欠陥商品です。ただ『新婚さん』の場合は、転びやすいということが逆に絶対に欠かせない条件となってしまい、いくら探し歩いても、そんな商品は見つかりませんでした」

 ――収録で地方へ行く際も必ず持っていくそうですね

 「国内の系列局で年間4~5回は地方公開収録を行っていますが、その際は椅子4脚はもちろん、スタジオセットも全て大型トラックに積んで運んでいき、収録会場でお客様をお迎えしています。海外収録では4脚全てを持って行くと航空運賃がバカにならないので、文枝師匠の椅子1脚のみを持って行き、他の3脚は現地業者に椅子のサイズ・形状・色を伝え、極力近いものを探してもらいました」

 ――そこまでやるんですね

 「渡航時に国際線のチェックインカウンターに預ける際、椅子を外国に持って行く行為が非日常的なので『麻薬などが仕込まれていないか?』などかなり厳しいチェックを受けたこともあります。現地の国際空港に着いて椅子を受け取ったときには『お前さんも無事に着いたね』と安心します」

海外収録の際、文枝さんの椅子だけは日本から持ち込んだ
海外収録の際、文枝さんの椅子だけは日本から持ち込んだ 出典: 朝日放送提供

文枝さんから感想は


 ――椅子について文枝さんから意見や感想などを寄せられることはありますか

 「日常で文枝師匠から特に言及されることはありませんが、海外での番組収録の際には『いつも僕の椅子だけわざわざ日本から持ってきているんですよ』とネタ気味に会場のお客様に説明され、その話を聞いたお客様も『これがあの有名な椅子ね』と興味津々で椅子をご覧になられます。また、他局制作のバラエティー番組などに文枝師匠が出演される際、この椅子も一緒に『出演依頼』される機会が時々あり、梱包(こんぽう)して発送します。そういった番組で文枝師匠が椅子を自分の『戦友』のように語っていただけるときは、美術担当としてたいへん誇らしい気持ちになります」

 ――「椅子のここに注目してほしい」という点があれば教えて下さい

 「たかが椅子です。長年愛着をもって使ってきましたが、何の変哲もない単なるモノに過ぎません。テレビの美術セットや小道具というものは、あくまで出演者を引き立てるための脇役であり、その存在は目立たなくてよいと思います。文枝師匠がいつまでも上手(うま)くコケ続けていただければ、椅子は役目を果たしていることになります。椅子の姿かたちなどを視聴者に意識してもらわなくても、毎週日曜のお昼にテレビで当たり前に流れている空気のような見慣れた光景であればよいと思います」

 ――視聴者にメッセージをお願いします

 「文枝師匠は年齢を重ねられた今でもたいへん上手に椅子からコケていますが、簡単にコケているようで、なかなかの高等テクニックがいります。師匠は自分の身体を痛めないよう、でもテレビで面白く見えるように、『クシャっ』と崩れるようにコケています。若い頃と同じコケ方は無理かもしれませんが、視聴者には『師匠、今日もコケているわ……面白い夫婦がいるもんやなあ』と思っていただければこちらの狙い通りです。椅子がゴロンと転がって、山瀬さんが苦笑しながら戻しにいく『日曜お昼の見慣れた光景』がこれからもずっと続いていくよう、美術スタッフとして支えていきたいと思っています」

 ◇ ◇ ◇

 <新婚さんいらっしゃい!> 毎週日曜午後0:55~1:25、ABC・テレビ朝日系で放送されている番組。毎回2組の新婚カップルが出場し、知り合ったきっかけ、恋愛中のエピソード、結婚式、新婚旅行、新婚生活の様子などを、文枝さんと山瀬さんが聞き出す。

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