IT・科学
ニューズピックス 佐々木編集長が見つけた「勝利の方程式」
経済メディア「ニューズピックス」は昨年9月からオリジナルコンテンツの掲載を初め、ユーザー数や有料会員を伸ばしてきた。佐々木編集長が確立した「勝利の方程式」とは。
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経済メディア「ニューズピックス」は昨年9月からオリジナルコンテンツの掲載を初め、ユーザー数や有料会員を伸ばしてきた。佐々木編集長が確立した「勝利の方程式」とは。
--どういうストック型記事がヒットしましたか。
「いまも続く『イノベーターズ・ライフ』。あれはストック型の最たるものです。たとえテーマがマス相手ではなくても、有料会員はこれを読むために増える。だから、割に合います」
--逆にヒットしなかったものは。
「担当者もいるので、『これ』というのはいいづらいですね(笑)。最初のころの企画は、ネタ切れで記事が出なくなったからやめるというような例もありました。今では企画をやめるときにはKPIを見て、それに達しないからやめるという合理的な指標があります。1年間やってみて学んだのは、テーマ設定も大切ですが、記事の出し方が重要だということです」
--「出し方」とは。
「一言で言うと、単発記事だと課金が難しいということです。私が東洋経済オンラインの編集長時代には、テーマ性を重視した3千字ぐらいの無料記事を毎日10~20本出して、プラス、週刊東洋経済の記者が書いてくれる企業記事がありました。これでPVをかせぐ戦略でした」
「NPでも最初は記事の数をそろえる必要がありましたから、東洋経済オンライン時代と同じように、無料の3千字ぐらいの企画記事をどんどん出しました。PVは上がったんですが、なんのためにやるんだろうという話になった。いろいろ手を出すと中途半端になるし、あの時点では広告もなかったから、PVが増えても無料記事みて有料課金してもらえずに帰られたら意味がない。では、何をつくればいいのかという議論になったときに、シリーズものを始めようとなったんです」
--「シリーズもの」とはなんでしょう。
「毎日連続で掲載する特集のことです。それまでの企画記事は、週に1回とかのペースで連載していました。人はそういうものには有料会員登録しないんですよね。キーワードは3つ。『毎日連載』、『深掘り』、『ストック型』」
「例えば、『イノベーターズ・ライフ』は、連続15回ぐらいあるんです。非常に興味深いイノベーターにじっくり話を聞いて深掘りし、内容が腐らないストック型の記事を毎日配信した。それからこういうタイプの特集がどんどん増えて、テーマでは『ウーバー特集』や『就活大格差』、『モバイル2020』、『コンサル業界』、いまは『グローバル・メディア』です。こうすると読者に喜んでもらえて、有料会員も増えて、かつ毎日きてもらえる。勝利の方程式の一つとして確立しました。これが発見です」
--テーマ設定は経済誌っぽいですね。
「企画会議は毎週やって、みんなのやりたいことを出してもらっています。いまの私の仕事の仕方って、東洋経済オンラインやる前の週刊東洋経済の巻頭特集班だったころに似ています」
--データから見る定量評価だけでなく、定性評価もしていると聞きました。編集長の目から見て、評価が高いコンテンツはどんなものがありましたか。
「一つは『FIFA帝国の崩壊』。世界中の記者や専門家とも協力しながら、FIFAの問題点をわかりやすく、かつジャーナリスティックに描けました。『ウーバーの衝撃』は、シェアリング・エコノミーとユニコーン(※)の筆頭であるウーバーを、日本でもっとも早く深堀りして特集できたことと、国交省側へのインタビューにより日本におけるウーバーの問題点を指摘できた点が良かった。『ざっくりASEAN』は、日本にとってますます重要性の高まる人口6億人の新市場の姿を、日本で屈指のASEANアナリストの手で、分析と実体験を交えて包括的に描けた点です」(※:評価額10億ドル以上で未上場のスタートアップ企業)
--インフォグラフのシリーズにも力を入れていますね。
「デザインものも、いろんなフォーマットを開発しています。最初はインフォグラフィックだけだったんですが、いまはスライドストーリーというスタイルも人気です。Keynoteを使って、いろんな会社の歴史などを紹介するものです。これも有料会員登録がすごくきてます。動画でのインフォグラフィックやマンガ、その他にも今後新しいフォーマットが加わってくると思います」
「一つは毎日連載の特集、二つ目がデザイン。今後出てくる勝利の方程式は、NPという『コミュニティ』から生まれてくるものでしょうね。例えば、実際にやってみて良かったのが、インテグラルの佐山展生さんと堀江貴文さんの対談。有料会員登録がすごく好調でした。NP上で議論を戦わせたスターとスターの対談で、しかもそこにスカイマークという旬の話題ですから、すごく読まれました」
「これらの三つの次に、余裕ができたら、タイムリーな記事にも取り組みたいです。特集だと、その日に話題になったことよりもトレンドを追う形になるので少し出すのが遅れる。より旬なものを追う体力が出てくればいいと思います」
--タイムリーと言っても、第一報の速さを競うのではなく、その日に出たニュースをより詳しく書く方向性でしょうか。
「第一報もとれたら嬉しいですが、そんなに簡単ではない。それに対する解釈をすぐに掲載していく方向です。我々の武器は、自分たちだけでやる必要はないということです。何かというと、各分野の専門家がいるピッカー(ユーザー)のコメントです。中でも、プロピッカー(※)をもっと増やし、専門家集団みたいな形で外部ネットワークを組めないかと考えています」(※:NP編集部が各分野の専門家と契約を結んで、NPのユーザーとなって記事にコメントをする制度)