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IT・科学

ニューズピックス 佐々木編集長が見つけた「勝利の方程式」

経済メディア「ニューズピックス」は昨年9月からオリジナルコンテンツの掲載を初め、ユーザー数や有料会員を伸ばしてきた。佐々木編集長が確立した「勝利の方程式」とは。

ニューズピックスの佐々木紀彦編集長が語る「勝利の方程式」=古田大輔撮影
ニューズピックスの佐々木紀彦編集長が語る「勝利の方程式」=古田大輔撮影
ニューズピックスが力を入れる「プロピッカー」
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プロピッカ-による「差別化」

--プロピッカーとの契約はどうなっているんですか。

「プロピッカーとは、この期間に最低これぐらいコメントをして、連載も一緒にしてくださいという契約をしています。コメントとパッケージで連載にお金を払う形です。現状の15人ではまだ少ない。大きく増やすことも考えています。例えば、テクノロジー分野とか、エネルギー、流通など様々な分野の素晴らしいプロフェッショナルをどんどんリストアップして、その人たちと契約していこうかと思っています」

「そうすれば、あるニュースがピックされたときに、有名人だけどその分野に特に詳しくない人のコメントや、一般の人のコメントが並ぶのではなく、専門家のコメントをすぐに読めるようになります。例えば、ユニクロのニュースが朝出たら、すぐそこにプロピッカーの人がコメントしてくれるという感じです。タイムリーなニュースにわれわれ編集部が動くだけでなく、一緒につくっていける」

--初期のNPの「自由な世界」という発想とは異なって、編集の「神の手」を入れることになりますね。

「いままでの読者とつくるメディアって、読者を一緒くたにしすぎたところが敗因だと思っています。偉そうに聞こえますが、ある意味で読者を選ぶような発想が必要なんじゃないでしょうか。読者を大事にすることを前提としながらも、一緒にコンテンツを作り上げていく人と普通の読者との差も大事なんじゃないかと」

--確かに、例えばユニクロの記事が出たあとに、流通の専門家やファッションの専門家がすぐにコメントしてくれると読みたいですよね。

「そうです。いまのようにコメント欄が自由競争の状態だと、専門家がNPに登録して、わざわざコメントするインセンティブが十分に働かない。だから、契約して書いてもらう。ワイドショーや報道番組でテレビがコメンテーターと契約してコメントしてもらう形のに似ています。それを自動化する。人が少ない分、NPというプラットフォームを使って読者とともに作っていくところが一番の差別化になるんじゃないかと思います」

東京の「東海岸」と「西海岸」を結ぶ

--初期のユーザーには、サービスの変更を不満に思う人もいます。

「考えないといけないのは、書き込まない人の方がどんどん増えていくということです。我々はつい書き込む人、ヘビーユーザーのことを考えてしまう。でも、そういう人ってかなり少数派だと思うんですよ」

「私たちはいま、東京の『東海岸』と『西海岸』をつなげたいと言っています。ITが好きなスタートアップ系の人たちが多い渋谷、六本木、恵比寿が『西海岸』。NPの読者層はここに偏っていました。でも、『東海岸』、つまり、山手線の東側の丸の内など大手や堅い企業も多い地域に広げていきたい。西を捨てるという意味ではなく、西と東を融合させていきたいんです」

「大手や堅い企業で肩書きがある人たちは、NPへの書き込みはほとんどしていない。書き込みをしないユーザーの割合が今後、増えてくる。そういう人たちにとって快適な空間とは、書き込みがしやすい空間ではなく、そこにいいコメントがある空間です。今までのユーザーやヘビーユーザーを大切にしつつ、新しいユーザーにとってもいい体験となる。その絶妙なバランスが必要です」

有料記事と無料記事の比率は6:4

--有料会員戦略だけでなく、広告収入を考えると読者は多い方が良い。その部分はどう考えていますか。

「大切なのは比率です。有料記事、無料記事を6:4で保つ。読者への間口が広いスポーツ記事なんかは、全部無料にしています。うちには日本でも指折りのスポーツの書き手がいます。彼らが書いたものはどんどん外に出して、新規会員獲得の武器にしたい。それに、メディアは読まれてなんぼ。本当に良い記事は、ただ有料で出すだけでなく、より多くの人に読んでもらうために無料で出すという発想もあります」

--東洋経済オンラインが佐々木さん時代に伸びたのは、外部にもどんどん配信し、ヤフーからの流入でもPVを伸ばしたからだと思います。ヤフーなど外部への配信はどれぐらいしていますか。

「ヤフーに関しては、スポーツとか一部に限ってやっているぐらいです。無料記事はあくまでKPIが拡散なので。できるだけ広く読んでもらうために出しています。有料はNP内だけ。それだとあまりにも閉じすぎるので、最近は午前7~8時は有料記事も無料で読めるようにしています。まだ実現していませんが、一度掲載したまま死蔵状態になるコンテンツをリパッケージして、電子書籍や紙の書籍に2次利用、3次利用していきたいです」

「拡散力はまだまだ弱い。だからこそ、最近ウェブ版をリニューアルしました。ビジネスメディアは、仕事している最中にも読んでもらうのが大事。スマホだけだと、移動中にしか見てもらえませんから、ウェブ版にも力を入れました」

特ダネよりも大事にしているもの

--これまでに特ダネと言える記事はありましたか。

「特ダネと言えるものはないですね。ファクトの部分をストレートニュースで他に先駆けて流したというものはない。そもそも、スクープをとろうということを大きい目標にはしていないです。とれるにこしたことはないですが」

--スクープではない部分で、どの部分を重視していますか。わかりやすく伝えることだったり、興味を持たれるテーマだったり。

「テーマです。新しい時代をつくるもの。例えば、ウーバーとかAirbnbとかをある程度大きく特集したのって、我々が初めてだと思います。世界も含めた世の中の大きな流れを、一番早くとらえてそれをコンテンツとして提供し、ピッカーも巻き込んでイベントも開き、新しいうねりをもたらすことです」

「先月、モータリゼーション2.0というセミナーを虎ノ門で開きました。二百数十人集まって、企業だけじゃなく、政治家の小泉進次郎さんも呼んで、大企業とスタートアップと政を結びつけた。すごく盛り上がって、何か事業が生まれそうなんです。そうやって、先ほども言ったように『東海岸』と『西海岸』をつなげたり、大企業とスタートアップとか、政官財とか、分断されているところをつなぐ。社内的には『知のターミナルになろう』と言っています。自分たちの意見を右だ左だと主張するというよりも、分断された社会をつなぐハブになって、そこから新しいイノベーションが生まれる触媒になりたい」

--「経済メディア」ですが、例えば、TPPやアベノミクス、国家予算など、カバーしていない分野がいろいろあります。人員的な問題ですか。

「人的な問題はありますが、今後、やっていきます。私は学生時代はマクロ経済を学び、留学中は国際政治。マクロが一番好きなんです。でも、ミクロの方が話題として盛り上がる。マクロ経済は大事なんですけれど、そのコンテンツでお金がとれるかというと未知です。お金をとりやすいコンテンツを出せるようになってきただけに、そうではない分野にチャレンジする余裕が少し出てきたところです」

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