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ガンダム原画、安彦良和のすごさ 美術館レベル「動きまで絵に」

ガンダムの作画監督、安彦良和さんの原画は、「皮膚の温かみや匂いまで感じさせる」と言われ、美術館レベルの作品と評価されています。

キャラクターのデザインを手がけた安彦良和さんによる主人公アムロ・レイの原画。人間らしい表情やしぐさが登場人物に現実味を与え、ステレオタイプのロボットアニメではない臨場感を生み出した=(C)創通・サンライズ
キャラクターのデザインを手がけた安彦良和さんによる主人公アムロ・レイの原画。人間らしい表情やしぐさが登場人物に現実味を与え、ステレオタイプのロボットアニメではない臨場感を生み出した=(C)創通・サンライズ

目次

 機動戦士ガンダムの作画監督、安彦良和(やすひこ・よしかず)さんはアムロやシャアなど、多彩な登場人物を描き、新しいアニメの表現を生み出しました。その絵は、「皮膚の温かみや匂いまで感じさせる」と言われ、美術館レベルの作品と評価されています。戦闘シーンでは、「ぶっ殺してやる!」という目をしながら描いていたという安彦さん。演技者として、キャラクターの気持ちになりきり、絵に向き合っていたそうです。

「機動戦士ガンダム」の作画監督をつとめた安彦良和さん
「機動戦士ガンダム」の作画監督をつとめた安彦良和さん 出典: 朝日新聞

ヤマトからガンダムへ「多様な人々を描く」

 1947年、北海道生まれの安彦さんは、「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザインと作画監督を担当。マンガ家としても活躍し「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」「虹色のトロツキー」「ヤマトタケル」などを発表しました。

 「さらば宇宙戦艦ヤマト」の作画も担当していた安彦さんにとって、「ガンダム」は特別な存在でした。ヤマトには、民間人はほとんど登場しません。一方、ガンダムには、戦災孤児や廃虚で泣き崩れる母子のような、戦争に巻き込まれた人々の生き様が描かれます。

 安彦さんは、この「多様な人々が生きる一つの世界を描く」というコンセプトに共感し、ガンダムの作画監督を引き受けました。

 主人公のアムロは、何でもできてリーダーシップもあるヒーローではありません。時にガンダムに乗ることすら拒む存在として描かれます。上官であるブライト艦長に殴られた時に言った「おやじにもぶたれたことないのに」のセリフは有名です。

 アムロについて安彦さんは、こう語っています。
 「カッコ悪い。だから顔も目鼻立ちが整っていないし、髪もクセっ毛。アニメーターは描きにくかったんじゃないかな」

アムロやシャアなどガンダムの登場人物も引き合いに講演する安彦良和さん=2013年8月
アムロやシャアなどガンダムの登場人物も引き合いに講演する安彦良和さん=2013年8月 出典: 朝日新聞
とみの・よしゆき 1941年、神奈川県生まれ。虫プロダクションに入社し「鉄腕アトム」などの演出を担当、その後フリーに。1979~80年放映の「機動戦士ガンダム」では原作・総監督を務め、劇場版3部作も手がけた。ほかに「伝説巨神イデオン」「ガンダム Gのレコンギスタ」など。
2014年7月9日:アニメよ、大胆に飛べ 機動戦士ガンダム展:朝日新聞
安彦良和(67)がガンダムの作画監督を引き受け、ヤマトの制作現場を離れたのは、「多様な人々が生きる一つの世界を描く」という物語の意図に魅了されたからだった。ヤマトには民間人はほとんど登場しない。だが、ガンダムは、戦争で廃虚と化した故郷を前に泣き崩れる母子を描いた。戦災孤児の少女は弟らを養うために軍のスパイとなり、命を落とす。軍人、民間人を問わず、戦争に巻き込まれた人々が懸命に生き延びようとする群像劇を目指した。
(ヤマトをたどって:9)ガンダムが描いた冷たい現実:朝日新聞デジタル
主人公アムロは、従来のロボットアニメのヒーローらしくない。上官に殴られたら「もうガンダムなんか乗ってやるもんか!」。カッコ悪い。だから顔も目鼻立ちが整っていないし、髪もクセっ毛。アニメーターは描きにくかったんじゃないかな。
2014年7月9日:アニメよ、大胆に飛べ 機動戦士ガンダム展:朝日新聞

「本人に自覚はないようだけど、天才です」

 安彦さんの原画を絶賛するのは、ガンダムの総監督である富野由悠季さんです。

 「本人に自覚はないようだけど、天才です。当時の彼の鉛筆画は美術館に飾るレベル。描かれた人物が醸し出す空気感、みずみずしさ、皮膚の温かみや匂いまで感じさせるし、次の動作を予感させる『動き』が一枚の絵に入っている」(富野さん)

 当時は、安彦さんのすごさに気付かなかったという富野さん。「制作中、彼の絵を机に積み上げて、たまったら捨ててた。見る目がなかったし、消耗品だと思っていた。恐ろしいことに、もっとうまい絵描きと出会えるだろうなんて思ってもいた。後になってすごさに気づいた」と言います。

 富野さんは「物語の中で要求されている芝居を正確に表現している。限られた時間の中で、膨大な量の絵をこのレベルで描いた」と、その実力を認めています。

ガンダムの富野由悠季総監督=2014年8月
ガンダムの富野由悠季総監督=2014年8月 出典: 朝日新聞
本人に自覚はないようだけど、天才です。当時の彼の鉛筆画は美術館に飾るレベル。描かれた人物が醸し出す空気感、みずみずしさ、皮膚の温かみや匂いまで感じさせるし、次の動作を予感させる「動き」が一枚の絵に入っている。なおかつ、物語の中で要求されている芝居を正確に表現している。限られた時間の中で、膨大な量の絵をこのレベルで描いた。
君は感じることができるか 総監督・富野由悠季さんに聞く 機動戦士ガンダム展:朝日新聞デジタル
でも世の中は平凡な人がほとんどだから、本当に分かるのは100人のうち1・8人くらいかな? 僕も「平凡な人」の一人だった。「ガンダム」制作中、彼の絵を机に積み上げて、たまったら捨ててた。見る目がなかったし、消耗品だと思っていた。恐ろしいことに、もっとうまい絵描きと出会えるだろうなんて思ってもいた。後になってすごさに気づいた。
君は感じることができるか 総監督・富野由悠季さんに聞く 機動戦士ガンダム展:朝日新聞デジタル

「アニメーターは、演技者にならないと」

 ガンダムの制作中、安彦さんは、キャラクターの気持ちに入っていきながら描いていたそうです。

 「今の若いアニメーターの原画を見ると、演技が下手だな、と思うことがある。アニメーターは絵のうまい下手以前に、演技者にならないと」(安彦さん)

 昨年から各地を巡回している「機動戦士ガンダム展」には、安彦さんの原画も多数、出品されます。昨年のインタビューでは「カッコよく言えば、僕らは未成熟で、青くさくて、『表現したい』という思いだけでやっていた。35年たって原画や資料を見てもらうというのは、正直恥ずかしいばかり」と話していた安彦さん。

 富野さんは「映像やセル画では均質な線になってしまうが、原画の勢いのある生の線を現物で見れば、すごさが分かると思う」と話しています。
     ◇
 「機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM」は2015年7月18日~9月27日まで(会期中無休、10:00~20:00、入館は19:00まで)、東京・六本木の森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催。

関連リンク:「機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM」公式サイト
「ガンダム展」の安彦良和さんの原画を展示する部屋には、目の部分を拡大した垂れ幕がかかっていた=2014年7月、大阪市港区の大阪文化館・天保山
「ガンダム展」の安彦良和さんの原画を展示する部屋には、目の部分を拡大した垂れ幕がかかっていた=2014年7月、大阪市港区の大阪文化館・天保山 出典: 朝日新聞
 カッコよく言えば、僕らは未成熟で、青くさくて、「表現したい」という思いだけでやっていた。35年たって原画や資料を見てもらうというのは、正直恥ずかしいばかり。「当時の思いの丈は分かって下さい」「時代のダイナミズムを感じて下さい」なんて言って逃げておくしかない。
 今の若いアニメーターの原画を見ると、演技が下手だな、と思うことがある。アニメーターは絵のうまい下手以前に、演技者にならないと。僕はまず、目から描いてキャラクターの気持ちに入っていった。例えば「ぶっ殺してやる!」という目をしていたら、そういう顔や勢いのあるポーズに自然となるものです。
 最近のアニメーターは、キャラクターの顔を設定通りにキレイに整えることばかり気にしているみたい。いいじゃない似てなくたって、元気があれば。日本のアニメの良さは、時に「どうかな」と思えるような表現に踏み込む大胆さ、勢い、野心。富野さんはちょっと「やり過ぎ」のところもあったけどね。いまアニメには、そんな元気こそ必要なんじゃないか、と思う。
2014年7月9日:アニメよ、大胆に飛べ 機動戦士ガンダム展:朝日新聞

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