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あふれる変人愛、ドラマ念力家族 原案は短歌、NHKが挑んだ新境地
原案が短歌という、世にも珍しい連続ドラマ「念力家族」。ひょうひょうとした空気感からは、「変な人」を受け入れてくれる懐の深さが伝わります。
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原案が短歌という、世にも珍しい連続ドラマ「念力家族」。ひょうひょうとした空気感からは、「変な人」を受け入れてくれる懐の深さが伝わります。
原案が短歌という、世にも珍しい連続ドラマ「念力家族」がオンエア中です。念で相手を吹っ飛ばせる長女は恋に悩み、心を読み取れる画家志望の長男は人生を模索中。ひょうひょうとした空気感からは、「変な人」を受け入れてくれる懐の深さが伝わる、不思議な安心感があります。
(記事の見出しは、ドラマに登場した歌集「念力家族」の短歌から)
ドラマ「念力家族」の原案は、同名の歌人の笹公人さんの短歌集です。ドラマは、歌集から選ばれた一首を起点に、一話完結で描かれます。舞台となる念力家の5人、祖父と両親、長男、長女、次女は、それぞれ念力が使えます。
担当したNHKチーフ・プロデューサーの坂田淳さんは、20を超える企画書の中から選んだ理由を「『念力家族』という単語を見た瞬間決めました」と振り返ります。「なんていうか、念力っていう言葉のすごくドメスティックな感じ。これは日本の話だぞっていう。それに家族がくっついて、サイキックサザエさんみたいな、そんなイメージがわいてきたんです」
企画を練ったのは、フリーの脚本家の佐東みどりさんです。「念力を使っているのに、全くそれが役に立っていない。念力が日常の中にある、そういう世界観が、すごく面白いなって思いました」。
登場人物の説明は一切、ありません。いきなりテレパシーでの会話から始まり、朝食に出た生焼けの魚を母親が念力で黒こげにします。
「番組が10分というのが一番の理由」という坂田さんですが、そこには短歌をドラマ化した際の工夫もあったようです。「そもそも、原案は短歌なので、細かい設定は全く書いていない。そして、短歌の空気感みたいなところにドラマを近づけようという思いもありました。あんまりいろいろな説明をするのはやぼじゃないかなって」
長女・玲子の部活では紙飛行機を真剣に飛ばしていたり、玲子の憧れの山田先輩は常に食パンをむき出して持っていたり…ドラマには、随所に突っ込み所がちりばめられています。
これらの描写は、坂田さんが実際に見たり、聞いたりしたエピソードが元になっています。「僕らの日常にも変なことってないですか? パンは知り合いの目撃談なんですが、カラオケで並んでいた高校生のグループが本当にパンを一斤持っていたそうなんです」
念力を使える念力家のメンバーですが、子育てや恋愛、将来の夢など、普通に悩む姿が描かれます。
「念力は使い過ぎないよう気を付けました」と坂田さん。「何でもかんでも念力でやったら、簡単に解決しちゃう。念力を持っていたって、スーパーマンでもなくて、つまんないものにも悩む。見ている人が、自分に近いところがあるんだと、感じてほしい」
宇宙人を呼べる次女・奈々は、クラスで孤立気味です。そんな奈々に、UFOや宇宙人が大好きな同級生の男子、純が「変人、かっこいい」と声をかけます。
この場面、佐東さんは「笹さんの短歌には不器用だけど、変人を肯定しているところがにじみ出ている。それを映像にしたかった」と言います。
一方の笹さんは「(談志師匠の言う)業の肯定ですね。私自身、変人が平気だっていうのはあります。みんな逃げちゃう人とも一緒にいられる」と明かします
ドラマへの反応で一番多いのは「面白かったけど、どう言ったらいいかわからない…」というものだそうです。
坂田さんはドラマに込めた思いをこう語ります。
「特殊な能力で世界を救うような話ではありません。変な人だけど、普通にいていいし、念力が使えるけど、つまんないことに悩みながら生活している。そんな家族の姿を通じて、ちょっと気が楽になればいいなあと思っています。あまり偉そうなこと言えませんけど」
「念力家族」は2003年、1000部限定の単行本として通信販売されました。反響の大きさから2004年に一般書籍化。今回のドラマ化に加え、文庫版も2015年5月に朝日新聞出版から出版されました。
数奇な運命をたどっている「念力家族」。笹さんは「ドラマになっても、歌のムードを大切にしてくれて、歌集が好きな人もドラマにはまっています。そんな歌集は珍しいんじゃないでしょうか」と話しています。
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ドラマ「念力家族」は毎週月曜午後6時45分から6時55分にNHK Eテレで放送中(http://nhk.jp/nenriki)。