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団地ホテル、営業は年2回 客室は空き部屋 昼の蓄電使ったら就寝

「サンセルフホテル」は団地の二つの空き部屋を一晩限りのホテルにしつらえて宿泊客を迎えるプロジェクト。2012年にスタートしました。

北澤潤八雲事務所の3人。北澤潤さん(左)と伊藤友二さん(中)、山口麻里菜さん(右)
北澤潤八雲事務所の3人。北澤潤さん(左)と伊藤友二さん(中)、山口麻里菜さん(右)

目次

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アラ爆って?

 「芸術は爆発だー」ということで、芸術界隈→アラウンド爆発→アラ爆。知名度の点で、爆発的に人気が出る前後という意味も込めています。今後の芸術界を担うかもしれないアーティストやキュレーターの方々に、テレホンショッキング形式で次の人を紹介してもらいながら会いに行きます。

どんな人?

 今回は前回の築地正明さん(映像論・批評)からご紹介いただいた、アートプロジェクトオフィス「北澤潤八雲事務所」の3人です。築地さんが、メンバーの一人、写真家の伊藤友二さんと古流剣術の教室で一緒だったことが縁といいます。「事務所」の活動は、団地の空き部屋をホテルに変えてしまうものや、小・中学生と地域住民とで放課後に出現する「もう一つの学校」を作るプロジェクトなどさまざまです。

夜の団地に「太陽」ふわり

 4月中旬、夜の闇に包まれた茨城県取手市にある団地の上空に大きな「太陽」があがりました。直径2.5メートルの特注バルーンの「太陽」が放つあたたかな光の源は、日中に太陽光発電で貯めたエネルギーです。

夜に空にあげる「太陽」はサンセルフホテルの一大イベントだ
夜に空にあげる「太陽」はサンセルフホテルの一大イベントだ 出典: 以下の写真はすべて北澤潤八雲事務所提供

ホテルマンは団地の住人

 「サンセルフホテル」は団地の住人たちが「ホテルマン」になり、団地の二つの空き部屋を一晩限りのホテルにしつらえて宿泊客を迎えるプロジェクト。2010年ごろから北澤潤さんがアイデアを練り、軌道に乗るまではスタッフと何度も現地に通い2012年にスタートしました。今では現地のNPOが中心になり企画が進んでいます。

 1年に春と秋の2回だけ出現するホテルのため、ホテルマンは数カ月前から宿泊予定者と連絡をこまめに取って好みなどを探り、ソファーやカーテンのインテリアから、石鹸やタオルなどのアメニティまで手作りして客室を準備。滞在中のイベントや料理も宿泊客に合わせて一から考えます。誕生日の宿泊者のためにサプライズを仕込むことも。

ホテルマンは団地の住民。ゲストのため、子供から大人までが知恵を絞る
ホテルマンは団地の住民。ゲストのため、子供から大人までが知恵を絞る
日中は団地の周辺を散歩し電力を貯める
日中は団地の周辺を散歩し電力を貯める

 宿泊当日はホテルマンと宿泊者が太陽光パネルを取り付けた「ソーラーワゴン」を押しながら一緒に団地周辺を散策します。ここで蓄電したエネルギーが夜の「太陽」や、部屋で使う電灯の源。昼に貯めたエネルギーを使い切ったら寝る時間です。サンセルフホテルオリジナルのゲームや食事もホテルマンたちと宿泊客が一緒に行ないます。たった1泊とはいえ、共につくりあげる達成感から、帰る時にはホテルマンと宿泊者が抱き合う姿も見られるといいます。「社会のためではなくゲストのため、やってて面白いからホテルマンになる。1人ひとりを動かし変える力自体に価値があると思う」と北澤さん。「教育的な意味や政策的意味などは他の人が言ってくれればいいこと」といいます。

 確かに写真からも、ホテルマン自身が純粋にその場を楽しんでいるのが伝わります。

団地の空き部屋が1日限りの「ホテル」だ
団地の空き部屋が1日限りの「ホテル」だ
芋が特産の茨城県。特別に宿泊者用に作った団地を模した芋ようかんでおもてなし
芋が特産の茨城県。特別に宿泊者用に作った団地を模した芋ようかんでおもてなし

もう一つの日常?

 でもなぜ夜に太陽をあげるのでしょうか。原発などエネルギー問題をめぐるメッセージなのか…と思いきや、「太陽を通して『日常』を見つめ直したかった」と北澤さん。実はこの「日常」を見つめるというのは、北澤さんにとって大きなテーマ。そもそもの始まりは、なぜ自分は表現したいのか、自分は何から作られているのか、考え始めたことでした。とりとめのない、意識にのぼらない日常の時間が自分をつくっていると考えた北澤さんは、それがどんなものなのか、つかみたい思いから「その日常を意識的に見つめる、もう一つの日常をつくってしまえとなった」。

団地の空に浮かんだ「太陽」
団地の空に浮かんだ「太陽」

 例えば太陽を見上げる、電気を使う…、やっていることは日常生活と一緒でも、夜に「太陽」を見上げ、自分たちで貯めた電力を使ったら…。
「もう一つの日常」を体験することで、普段意識することのなかった、それぞれの日常に気付くというわけです。「八雲事務所が仕掛けているのは、もともとは社会の中で祭りが担っていた機能。日常の中での『非日常』が普段の日々を再認識させる。そういう芸術の力を復興させたい」

 いまや活動の場は団地にとどまらず、学校や商店街などにも広がっています。
「リビングルーム」というプロジェクトでは商店街の空き店舗に周辺地域の人から譲ってもらった家財道具を設置。持ってきた家財道具と物々交換を行える場でありながら、地域に開かれた、人が集まる場ともなっています。家財道具としてピアノが来た時には即席のコンサート会場になったこともあったといいます。「リビングルーム」はネパールで、サンセルフホテルは台湾でも行い、好評を博しました。

商店街の空き店舗を利用したリビングルーム。家具の物々交換の場であり、人が集まる場所にもなる
商店街の空き店舗を利用したリビングルーム。家具の物々交換の場であり、人が集まる場所にもなる
ネパールでの「リビングルーム」
ネパールでの「リビングルーム」

 社会のため、教育のためにアートをするのではなく、アートがあると、結果的に社会やコミュニティーのためになる、「逆説的にアートは社会に必要と言っていかなければ」と北澤さん。プロジェクトをどう進めていくのか経験や知識も積む中で、今後は「日常」への視点だけではなく、時に社会を裏切るような、まったく新しい形で価値観にゆさぶりをかけることをしていきたい」といいます。
北澤さんを始め、大学や大学院の同級生で途中から事務所に加わった山口さん、伊藤さんも20代。何か面白そうだからと来た人々を巻き込み、みんなで面白がっているうちに、結果的に社会が変わる…そんなゆるやかな流れの始まりがここにあるのかもしれません。

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