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大河「女祭り」進行中 現代っぽさ強調 「花燃ゆ」まるで「花男」
NHK大河ドラマ「花燃ゆ」が始まりました。女性が主役の大河、実は「江」(2011年)、「八重の桜」(2013年)と1年おきに続いています。50年を超える大河の歴史のなかで、女性の存在感がかつてなく増しています。

NHK大河ドラマ「花燃ゆ」が始まりました。幕末の志士、吉田松陰の妹・文が主人公です。女性が主役の大河は、「江〜姫たちの戦国〜」(2011年)、「八重の桜」(2013年)と1年おきに続いています。50年を超える大河の歴史のなかで、女性の存在感がかつてなく増しています。
女性主人公、隔年で起用
NHKのホームページの大河ドラマ一覧によると、「花燃ゆ」までの54作品のうち、女性が主人公の作品(男性とのW主演は除く)は10作品です。そのうち4作品がこの10年に集中しています。
最近の「おんな大河」の道筋をつけたのが、2008年の「篤姫」と言えるでしょう。幕末維新ものは当たらないと言われてきたジンクスを覆し、今世紀で最高の年間平均視聴率をたたき出しました。この成功体験のなかに、「おんな大河」の特徴が現れてます。

2006年【男女】「功名が辻」(仲間由紀恵、上川隆也)
2007年【男】「風林火山」(内野聖陽)
2008年【女】「篤姫」(宮﨑あおい)
2009年【男】「天地人」(妻夫木聡 )
2010年【男】「龍馬伝」(福山雅治)
2011年【女】「江〜姫たちの戦国〜」(上野樹里)
2012年【男】「平清盛」(松山ケンイチ)
2013年【女】「八重の桜」(綾瀬はるか)
2014年【男】「軍師官兵衛」(岡田准一)
2015年【女】「花燃ゆ」(井上真央)
狙うはホームドラマ
時代劇でありながら、現代的な要素を強く打ち出す。「花燃ゆ」も路線は鮮明です。NHKの公式ページを見ると……
「幕末のホームドラマ」
分かりやすいキャッチフレーズ。さらにその横には、
「幕末の学園ドラマ」
吉田松陰の私塾である松下村塾が主要な舞台とはいえ、時代劇で学園ドラマをうたうとは、なかなか斬新です。そう言われると、井上真央さんを、4人のイケメン俳優たちが囲む宣伝ポスターに既視感を覚えます。井上さんの代表作の一つ、テレビドラマ「花より男子」は、女子高生つくしに4人のイケメン男子がからんだ学園ものでした。

知名度の低さ、逆手に
そしてもう一つの特徴は、著名な男性主人公に比べるべくもない、知名度の低さや史料の少なさを逆手にとることです。徳川将軍の夫人であった篤姫でさえ、知る人ぞ知る存在。まして吉田松陰の妹では、ほとんどの人が「誰?」でした。

地元・山口の研究者が興味深いエピソードを語ってます。
だが選ばれたのは文。久坂玄瑞(くさかげんずい)の妻となり、没後、群馬県令(知事)楫取素彦(かとりもとひこ)と再婚はしたが、いかんせん文献が少なく存在感も薄い。「よく知られた人物だとドラマの展開が予想できるので、あえて選ばなかった」と制作者は説明したという。
創作の自由度、諸刃の剣にも
ただし、想像の翼を広げられるのは魅力ですが、諸刃の剣にもなりかねません。
2011年の「江〜姫たちの戦国〜」では、主人公の江が、本能寺の変の後に、徳川家康の伊賀越えに同行し、さらには明智光秀と対面まで果たします。歴史上の出来事にからませるための現実味に乏しい展開はネットなどで批判が起きました。

脚本家はすでに女性上位
あまり知られていない主人公をどう活躍させるか。脚本は大きなかぎを握ります。
「花燃ゆ」で脚本を担当するのは大島里美さんと宮村優子さんです。「八重の桜」は山本むつみさん。「篤姫」「江〜姫たちの戦国〜」は田渕久美子さん。みなさん女性です。
ただ、女性脚本家が手がけるのは女性主人公の作品だけではありません。「平清盛」は藤本有紀さん、「天地人」は小松江里子さん、「功名が辻」は大石静さん。この10年で女性が7作品を担当。脚本面ではすでに女性上位は決定的となっているようです。

2006年【女】「功名が辻」大石静
2007年【男】「風林火山」大森寿美男
2008年【女】「篤姫」田渕久美子
2009年【女】「天地人」小松江里子
2010年【男】「龍馬伝」福田靖
2011年【女】「江〜姫たちの戦国〜」田渕久美子
2012年【女】「平清盛」藤本有紀
2013年【女】「八重の桜」山本むつみ
2014年【男】「軍師官兵衛」前川洋一
2015年【女】「花燃ゆ」大島里美、宮村優子

じつは80年代にも
現在と並んで、女性が主人公の作品が集中したのが1980年代です。81年の「おんな太閤記」、89年の「春日局」など4作を数えます。男女雇用機会均等法が施行されるなど、女性の社会進出が注目された時代だったからでしょうか。
85年「春の波涛」、86年「いのち」に至っては2作連続です。女性が主人公の大河が続いたのは、この時だけです。
この2作は、近現代をテーマにした意欲作でした。ただ、この路線は人気が芳しくなかったのか、以降は戦国と幕末が中心となっていきます。
じつは、4作のうち「おんな太閤記」「いのち」「春日局」の3作で脚本を手がけたのは橋田寿賀子さんです。
橋田さんは当時を振り返ったインタビューでこんなふうに語ってます。
「私は戦争が嫌いだから、平和を望んだ女の視点も大事にしました。女は戦争より平和を求める」(2008年1月1日:大河今昔 女性が主役の物語の魅力 朝日新聞紙面から)
