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2015年01月09日

芸能界の重鎮・伊東四朗が語る、「逆境を越えた生き方」

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インタビューにこたえる伊東四朗さん=東京都港区、小玉重隆撮影

インタビューにこたえる伊東四朗さん=東京都港区、小玉重隆撮影

出典: 朝日新聞


 予想しなかったつらい事態に直面する。途方にくれる。苦しみからどう抜け出せるか、見当もつかない――。そんな時に何が見えたか。役者として、タレントとして、テレビで映画であらゆる役柄をこなしてきた芸能界の重鎮・伊東四朗さん(77)が、「逆境」を乗り越えた生き方を語ってくれました。(聞き手・朝日新聞オピニオン編集部・古屋聡一)

「芸能界に売れる公式はない」

 わがてんぷくトリオのリーダーだった三波伸介氏が52歳で急逝した時は茫然自失(ぼうぜんじしつ)になりました。突然の訃報(ふほう)を聞いて、座りこんでしまった。病院に飛んで行って亡くなった三波氏をさわると、まだあたたかかった。もう一人のメンバーの戸塚睦夫氏は、その9年前に42歳の若さで亡くなっていたから「とうとう、ひとりきりになってしまったか」と思いましたね。

 私は人づき合いが良い方ではありませんから、積極的にトリオの売り込みをした三波氏の大きな翼の中で庇護(ひご)されながら、何とか笑いの世界を生きている感覚がありました。ですから「こんな人間がこれからどうやって生きていくのかなあ」と寂しく、頼りない気持ちになったことは確かです。

 芸能界は、どうしたら売れるかを解き明かす公式が全くないんですね。レッスンをしたり、勉強したりすれば、必ず売れるというわけでもありません。ベテランでも「もう大丈夫」ということはない。原因もわからずにふっとこの世界から消えてしまうことは、誰にでも起こりうる話なんです。

 私は「こういう役を演じたい」などとアピールをしたことはありませんでした。でも、不思議とこれまで仕事が途切れることはなかった。しかも右から左、上から下まで、と極端に内容の違う仕事が同時にやってくるんですね。

てんぷくトリオ。左から伊東四朗、三波伸介、戸塚睦夫=1965年11月4日撮影(写真の一部に乱れがあります)

てんぷくトリオ。左から伊東四朗、三波伸介、戸塚睦夫=1965年11月4日撮影(写真の一部に乱れがあります)

出典: 朝日新聞

「国定忠次」を演じるてんぷくトリオ。左から伊東四朗、三波伸介、戸塚睦夫=1966年ごろ (写真の一部に乱れがあります)

「国定忠次」を演じるてんぷくトリオ。左から伊東四朗、三波伸介、戸塚睦夫=1966年ごろ (写真の一部に乱れがあります)

出典: 朝日新聞

「他人の方が自分のことをわかってくれた」

 あの電線音頭は「電線軍団というのを作りますから、団長をお願いします」とプロデューサーに丸投げされて、台本の裏に扮装のイラストを描き、振り付けも自分でやった。バカバカしいからすぐ終わると思って「ベンジャミン伊東」と名乗りました。わからないものです。それが評判に。俳優の藤田まことさんには「シロちゃん、あんた大丈夫か? あれマジかいな」と心配されましたが、作家の小林信彦さんは「あれは『ダリ』だ。すごい。シュールだ」と絶賛してくれました。

 そんな時、テレビマンユニオンの今野勉さんからドラマのオファーがありました。第1次世界大戦時にドイツ人の捕虜収容所があった徳島を舞台にした歴史ドラマで物語の語り部として登場する巡査役を「お願いしたい」と。何しろあの電線音頭の真っ最中でしたから「今電線音頭というとんでもないことをやっていまして、この役を私がやるのはイメージダウンではないですか」と聞くと、「はい。知ってますけど、それが何か」。すごい人がいますね。もちろん引き受けることにしました。

 「プロデューサー」や「監督」という職業の人たちは、本当に鋭くて、自分では気づかない側面を探し出してくれる。なんで私が「おしん」の父親なのか。「笑ゥせぇるすまん」の主人公なのか。はたまた70代を超えても「タフマン」なのか。他人の方が自分のことをわかってくれて、自分が一番自分のことをわかっていない。

 正月に今年の抱負を聞かれるのが苦手です。だって何もありませんから。他の人が考えてくれた仕事を「私にできるのかな」と思いながら、やってきただけです。公開番組のフィナーレなどで出演者が勢ぞろいする際は、出来る限り後列に回るようにしました。支えてくれる人がいたから、やってこられた。つくづくそう思います。

長年にわたり、数々のバラエティー番組に登場。フジテレビ系の人気番組だった「脳内エステ IQサプリ」でサプリマスターに扮する伊東四朗さん=2005年11月

長年にわたり、数々のバラエティー番組に登場。フジテレビ系の人気番組だった「脳内エステ IQサプリ」でサプリマスターに扮する伊東四朗さん=2005年11月

「誰かが見てくれている」

 人生で途方にくれた時、逆境とは思わず、試練と考えました。それを乗り越える絶対の答えはない世界だから、どんな仕事も誠意を尽くし、悔いを残さないように、と考えてきました。女房に掃除を頼まれた時も手を抜きません。「あらそーお?」と言われるかもしれないけど。

 1968年の朝日新聞元日紙面で、映画監督の市川崑さんが「私の好きな新進」として30歳の私を推薦してくれました。「てんぷくトリオの中の一番若くて一番やせている人。演技開眼したらしく、からだとセリフのタイミングが見事。おもしろい」。コントを演じる新人を、大監督がちゃんと見てくれている。後輩には「だれが見ているかわからない。絶対に手を抜くなよ」と言ってきました。

 「お天道様は見ている」というでしょう。確かにそうだと思います。考えてみると、怖い言葉だと思うんです。「人は死ぬまで仕事でも生き方でも手を抜けないよ」ということなんでしょうから。

<いとうしろう> 37年生まれ。58年舞台デビュー。62年「てんぷくトリオ」結成。テレビ、映画、舞台、ラジオなどで幅広く活躍。浅草芸能大賞など受賞

インタビューにこたえる伊東四朗さん=小玉重隆撮影

インタビューにこたえる伊東四朗さん=小玉重隆撮影

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