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ゆきりんへの感謝…AKB48G総監督としての思い 向井地美音さん
AKB48グループで歴代メンバー最長となる17年間にわたって活動してきた柏木由紀さん(32)が今月30日、最後の劇場公演を行い、卒業します。3月に横浜で行われた柏木さんの卒業コンサートで、自身も約5年間にわたり務めたAKB48グループの総監督を退任した向井地美音さん(26)は、柏木さんにひとかたならぬ感謝の思いを抱いています。その心情や総監督として過ごした日々について伺いました。
向井地さんは柏木さんと、コンサートで歌う楽曲の構成(セットリスト)をいっしょに考えたり、助言を受けたりしていたそうです。
「私も関係者でセットリストを考える会議に、ゆきさんと参加することが多く、一緒に意見を出していました。特に去年10月開催の武道館で開かれたライブの1日目は、AKB48の歴史をたどっていくような流れのセトリだったので、(ともにAKB48加入前からアイドルファンだった)オタク目線の私たちの意見が多く反映されました」
「ゆきさんはその時代を全部現役として過ごしているんですが、私の意見に『確かにいいね』と言ってくださったりして。私一人でフェスのセトリを考えることも時々あったんですが、全部ゆきさんに一度相談していました」
武道館のライブで向井地さんのアイデアが反映されたのは、例えばこういった場面だそうです。
「コロナ禍で、なかなかファンの方と会えなくなった期間を、本編とアンコールの間の暗転で表現して、アンコール1曲目を『根も葉もRumor』(2021年9月発売シングル)にして、新しいAKBに変わっていったイメージを伝える……」
提案した際、柏木さんは「自分じゃ思いつかなかった。すごい」と賛同してくれたそうです。
アイドルの大先輩である柏木さんは、同じステージに立つメンバーからみて、どこがすごいのか。向井地さんはこう解説します。
「歌っている時、目からお客さんに伝えるパワーがすごくて、あなたを見てるよ、あなたに伝えてるよっていうのすごく出していると感じます」
柏木さんら3期生が加入した時期は、AKB48の立ち上げに関わったダンスプロデューサー夏まゆみさん(昨年死去)の薫陶が色濃く残っていました。
「目からビーム、手からパワー、毛穴からオーラ」という夏さんの有名な格言を、柏木さんはずっと受け継いでいるのかもしれません。
「どんな曲もゆきさんがやると、ゆきさんのものになっている。振り付けでも、手の絶妙な角度などすべてがすごく美しくてしなやか。そして、ゆきさん風にアレンジしているように見えて、止めるところははっきり止める、首はパキって動かすとか、基本の動きをちゃんとやっている。長年活動していて慣れてくると流れがちになりがちですが、それがない。基本を守ったうえでアレンジを加えているから、とても美しいのだと思います」
パフォーマンス以上に尊敬しているのが、普段の言動や心構えだそうです。
「時代の変わり目という感じで(若手の)研究生の勢いがすごく、一方でこれからのAKB48はどうなっていくんだろうという、ある種の不安とか怖さをみんな持っていると思う。ですが、ゆきさんはこれまでの時代の変わり目を全部経験してらっしゃるのに、自分の心がぶれない。ずっと、その時々のAKB48を大好きだって心から思ってくださるところが、一番すごい、素敵だと思います」
いわゆる〝全盛期〟を経験していても、「あの時代はよかった」とは絶対に言わなかったという柏木さん。
向井地さんは「昔と比べない。昔は昔、今も今で素敵だとずっと伝え続けてくださるから、メンバーも自信を持ってステージに立てている。ゆきさんがいてくれたから、AKB48が名前だけじゃなく、心の部分まで今のメンバーに引き継がれている。そのことを一番感謝したいです」と話します。
柏木さんは卒コン終演後のメディアの囲み取材でも、「色んな時代のAKB48にいたんですけど、今のAKB48を本当に大好き」と話したうえで、こうエールを送りました。
「過去の形にとらわれず、今のメンバーが作っていきたい新しいAKB48をどんどん作って、外から見た時にいいなって思える、キラキラ輝いているグループでいてほしいです」
向井地さんは15期生として2013年にデビュー。2018年に名古屋市で開かれた48グループの「世界選抜総選挙」で13位になった際にステージ上で「いつの日か、総監督になりたいです」とスピーチ。翌2019年、横山由依さんから引き継ぎ、3代目の総監督に就きました。
多くのアイドルグループの台頭、コロナ渦、K-POP人気、AKB48グループでもHKT48など地方にある48グループの運営の別会社化など、取り巻く環境が大きく変わるなか、グループ総監督という「看板」を背負いました。
「目の前のことに必死すぎて、時々の自分の対応が正しかったのかとか、いまだに分からない部分もあるんですが、でも自分なりにAKB48を守りたいという思いで、突っ走った感じです」
向井地さんの思いの根底にあったのは、「活動19年目を迎えている歴史を終わらせたくない」ということでした。少しでもグループやメンバーのイメージが良くなるようにと願ってきたそうです。
「向井地美音という個人ではなく、総監督としての発言になるんだと常に思ってきました。何も発言しなくてももちろんよかったと思うんですが、誰かが代表として言わないと、ファンの皆さんがすっきりしないだろうなと思う場面が結構多かった。少しでも心が晴れた気持ちでAKB48を応援してほしかったので、あえてそれが仕事だと思って発言してきました」
強いリーダーシップを発揮した初代の高橋みなみさんのイメージが強いですが、総監督が何をするか具体的に決まっているわけではありません。
「どんな仕事かと聞かれるとあいまいなんですが、なってみると毎日が総監督なんです。メンバーに自分の背中を見られているという感覚、一つ一つの発言内容に気をつけてずっと気を張ってないといけない。これが一番大変な部分だと思います」
矢面に立ち、重圧と向き合う向井地さんを、周囲は優しく支えてくれたそうです。「仲がよかったメンバーや、ゆきさん、峯岸みなみさん、また、所属が同じ芸能事務所である高橋みなみさん、小嶋陽菜さんも話を聞いてくださったりして、周りにすごく支えられていました」
3月、柏木さんの卒コン翌日に開かれたコンサートで、向井地さんと4代目総監督の倉野尾成美さんは、ともにステージで歌いました。
スピーチした向井地さんは「この気持ちが分かるのって世界で4人しかいないので、そばで……」と倉野尾さんにエールを送りました。
倉野尾さんは「おんさん(向井地さんのこと)とゆきさんが引っ張ってくれるAKB48が幕を閉じたと思うとすごく寂しいです」と感謝を述べたうえで、決意を口にしました。
向井地さんは「自分が経験したからこそ、なるちゃん(倉野尾さん)が固くなりすぎずに総監督の活動をできるようにサポートしたいと思っています」と語ります。
向井地さん自身は引き続きメンバーとして活動しています。
「メンバー自身がAKB48を好きで居続ける、そういうグループであってほしいと思います。ゆきさんを見ても分かるように、アイドルをやっていることが好き、AKB48というグループが好きという気持ち、一人一人のその連なりがグループの今後を決めていくと思います」
向井地さんが思うAKB48の強みと魅力とは何でしょうか。
「一番は歴史の重み。こんなに長く続くグループはなかなかないですし、それがちゃんと引き継がれている。あの頃のあの楽曲を今のメンバーが歌う、その連続がこの先もきっとある。歴史を元に生まれる新たな物語がAKB48の強みだと思っています」
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