エンタメ
これって木?石? 日常の一片、ふわりと切り取る彫刻家 ~アラ爆
アート界隈の人々を紹介するアラ爆な人々、今回は画家の田中良太さんから紹介いただいた大野綾子さん。彫刻家として活動し、田中さんら同世代の画家とも積極的に展覧会を開いています。
エンタメ
アート界隈の人々を紹介するアラ爆な人々、今回は画家の田中良太さんから紹介いただいた大野綾子さん。彫刻家として活動し、田中さんら同世代の画家とも積極的に展覧会を開いています。
「芸術は爆発だー」ということで、芸術界隈→アラウンド爆発→アラ爆。知名度の点で、爆発的に人気が出る前後という意味も込めています。今後の芸術界を担うかもしれないアーティストやキュレーターの方々に、テレホンショッキング形式で次の人を紹介してもらいながら会いに行きます。
今回は前回の田中良太さんから紹介してもらった、彫刻家の大野綾子さんです。田中さんによると、大野さんは「硬さの象徴のような素材を扱いながら、本人はとても柔らかい人」だそう。ふむふむ。
では大野さんをご紹介する前に、少し作品を見ていただきましょう。まずはキャプションを見ずに、素材は何か想像してみてください。
これ、石なんです。つまり結構重い。そして石からコレ削り出すの? という形状。
では大野さんをご紹介します。今回は大野さんが他の作家たちと使う郊外のアトリエにうかがいました。彫刻は削る音が響くため、制作には場所も時間も制約があるそうです。こちらが大野さん。とてもおしゃれでかわいい方です。
もともとはデザインの世界に行こうと予備校に入ったものの、勉強するうちに制作を発注するデザイナーより、自分の手でものを作れる彫刻に興味が移り、女子美術大学の立体アート学科に進学。その後、東京芸術大学大学院でも彫刻を専攻しました。大学3年時には素材として石を選択。「質感もやりたいものに近く、技術的に単純で制約があることにも興味があった」そうです。
ただ学生時代はどこか監視されているような、焦る感覚があったそう。「社会に出て、○○大学の学生という肩書がなくなり、自由になれた」。今は当時よりも肩の力が抜け、感覚のままに制作できているといいます。
では早速作品を見ていきましょう。
制作ではスピード感を大切にしているという大野さん。最後に少し悩む時間を残すためにも、どんどん決めて制作を進めていきます。「角で端を見るc」では作ったものの、何かつまらないと思い、最後に端に切り込みを入れることに。「以前は全て説明できないといけないと思っていたが、今はある部分は遊びでできるようになった」といいます。
3人展「P.I.C.K.U.P」では新しい発見がありました。参加した画家から、大野さんの作品を机の上にのせたら?と提案され、木製の台をつくり、その上に展示することに。これをきっかけに、「石彫は床に置くもの」という意識から解放され、見られる角度や高さも考えて、作品を制作するようになったそうです。
栃木県にある旅館「大黒屋」の公募展で大賞に選ばれた際には旅館で展覧会を開催。中高時代は茶道をやっていたといい、茶室の空間やモノと人との距離感などは作品でも参考になるといいます。
基本的に全作品にタイトルをつけます。「不思議なタイトルをつければ、何で?と想像でき、足も止まる」「タイトルがあると面白くなるのに、つけないのはもったいない」と大野さん。
作品の発想は日常生活のひとこまが多いようです。例えば、「コーディネイト(あたたかい)」はダウンジャケットのイメージから、次の「コンクリートジャングル」はお店でハイヒールが斜めに展示されている様子から思いついたそう。
「楽しく生きたい。そのための彫刻」と朗らかに話す大野さんは、紹介してくれた田中さんの言葉どおり、作業としてもハードな石彫のイメージとはギャップがあります。それは、そもそもの人柄というだけでなく、大野さん自身、意識して彫刻家のステレオタイプから離れているそう。「苦労を伝えてもしょうがない。むしろそこは言わず、彫刻を軽やかに、日常の延長として見せたい」。
今後の目標は――。「作品を通して、石って面白いと思われたい。そこから石や彫刻に、欲を言えば、生活の中での形に興味を持って欲しい。例えば、家でスプーンってこんな形なんだとか考えて、生活が楽しくなるきっかけになってくれれば嬉しい」
柔らかさゆえに、日常の小さな気づきや周りの助言を吸収し、しなやかに成長する。石彫家ながら、日を浴びてすくすく育つ植物のような方でした。
※大野さんの展覧会などの情報は以下リンク先をご覧下さい。