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「日本一休みが多い会社」「創業以来赤字なし」未来工業の創業者死去
「未来工業」創業者、山田昭男さんが30日に死去。ずば抜けたユニーク経営や発言をまとめました。

「未来工業」創業者の山田昭男さんが亡くなりました。
ずば抜けたユニーク経営で知られ、多数のメディアに出演。相談役に退いてからも社員に慕われました。
かなり長文になりますが、その経営術やエピソード、発言をまとめました。

未来工業は1965年創業の建築用電気資材メーカー。従業員約800人はすべて正社員で、売上高約250億円。

日本一、休みが多い会社

タイムカードなし、ホウレンソウなし、制服なし
以前支給していた制服は事務系と工場の社員とで違っていた。ある時、工場の女性から「デザインがださい」と不満が出た。耳にした山田さんが「じゃあ、やめよう」。
代わりに作業服代として全員に毎年1万円支給することに。社員は店で作業服を買ってもいいし、私服のままでもいい。
ある時、営業部で抜擢(ばってき)されたばかりの管理職が、個々の売り上げを棒グラフにした表をはり出した。それを山田さんが見つけた。「なんで必要なの。トップセールスマンは優越感を持っても、他の社員は会社に出てくるのが嫌になる」。会社につきものの朝礼も「管理職の自己満足にすぎない」と、どの部署でも行われていないという。
全社員で海外旅行、震災時にはその旅費を寄付

徹底した節約経営

やる気とアイデアを引き出す「社内提案制度」
発言をまとめました 「創業以来赤字なし、最高22%、平均13%の経常利益率」
やってた劇団は「未来座」。おやじの会社「山田電線製造所」の専務だった。いずれ社長と思うだろ。気楽さもあって演劇に熱中しとったら、「道楽者は置いてけん」とクビや。で、退職金もなし。製品開発でおやじと衝突もあったんやけどな。
まず電線を分岐する器具(透明ジョイントボックス)を作った。業界1位は天下の松下電工(現パナソニック)。「よそにはない一工夫を必ず加えよう」。合言葉の「常に考える」はここからスタートした。

学校教育について考えてみたい。例えば給食や制服。これは「一律化」ということだが、弁当や自由服だったら、違いや差は自然に表れる。貧富を含め、社会の事実。それに接してどうするかが工夫や努力や。
最近は運動会で徒競走をなくしたり、走力別に分けて走らせたりすることがあるそうだが、それは、考えるな、競うな、ということ。だが、社会は百パーセント競争や。昨今問題となっている「いじめ」には横並び主義が横たわっていないか。
なぜ、管理しないで社員に任せきるかって? おれがバカだからや。経営者はそこを間違えたらあかん。先頭に立つな。
「日本人の正直さを信じとる」

初めはすべて飛び込み。買う、買わないにかかわらず、1~2時間話し込んだ。ネタは沖縄の芸能。舞踊や民謡など沖縄の文化は興味深い。勉強しておいて、その素晴らしさを話すんや。おれ自身、沖縄文化が好きだから熱が入る。向こうも喜んでくれる。そんなこんなで「おれ」「おまえ」の仲になれた。分野ごとに手書きのカードを作り、沖縄学習に励んだよ。
沖縄営業所開設の経緯が面白い。現地の別々の得意先筋の社員2人がうちの会社への入社を企てた。うわさを聞いた別の得意先の女性社員も「私も」と加わった。気づいた時には倉庫と看板が用意してあった。仰天してOKしたといういきさつや。
前回、お得意さんに商品倉庫の鍵を渡した話をしたが、うちは守衛もいないし、タイムカードもない。出張だって社員が自主的に企画する。「○○君、きょういないけど」というのは珍しくない。うちの食堂は、定食類も麺類もカレー類も全部357円。うち200円は会社持ち。社員が自分で1カ月分の食べた回数を届け出て精算する。ごまかそうと思えばできるのにぴたりと合うんだよ、何百人分もの数字が。
一般家庭でも窓も玄関も開けっ放しにしといたら、案外泥棒に入られないかもしれんよ。がつがつ守ると、入る方も裏をかこうとする。人間、そんなもんかもなあ。日本人には生まれつき、まじめで正直な遺伝子があると思うんや。
「社員をいかに“やる気”にさせるかで会社は決まる」

そうしながらも社員は恐れた。「何が起きるか分からない。持ち出した数よりも少なく伝票に書かれることだって……」。でも、ふたを開けたら3社しか取りに来なかった。「数が合わなかった場合、疑われたらいやだから」。そんな理由やった。社員は社員で、取引先は取引先で、疑いの心があったんやが不正はなく、この月は創業以来最高の売り上げを記録した。
企画は社員主導で、有志で委員会をつくる。去年は現地で50問のクイズを出し、全問正解すると「180日の特別有給休暇」がもらえるはずやった。本来の休みと有給休暇を合わせれば丸々1年休めるわけや。
創業2年目、まだ月商150万円のころに「1億円を超えたら海外に遊びに行こう」と約束したのが海外旅行のきっかけ。約束から8年後の1974年に社員約50人で台湾に行った。
なんでかって? やる気のもとになると思うからや。餅を先に配るわけや。待遇が悪くて仕事は正社員と同じ。それでやる気になるか? 必死に技術を覚えるか? ちゃんと条件を整えりゃあ、「働かんと申し訳ない。頑張ろう」って思うやろ。それが日本人の心やと思う。
60歳を頂点に給料は下げんから、65歳時の平均年収は約700万円。育児休暇は3年(何度でも可)、スキルアップのための勉強代は会社が補助。気持ちよく、しっかり働いてもらう。社長の仕事は環境整備。それで稼いで、みんなで分けることや。
「会社は社員を幸せにする場や」

日本のサラリーマンは、通勤なんかを含めて1日に12時間ぐらいを会社のために使う。8時間寝るとして自分の時間はたった4時間。その4時間に楽しみを求める限り、不満は多分残る。それなら根幹の12時間の方を気持ちよくしたいやないか。
仕事は7時間15分、残業なし、年間休日140日(有給休暇除く)がうちの基本。残業をさせたら割り増しの残業代を支給する上に、作りすぎて売値が下がったらバカみたい。残業が当たり前になると仕事も間延びする。
定時で終われるよう、みんなが工夫し、さっと切り上げる。その方が効率もチームワークもよくなる。気持ちよく働いて、家族だんらんや好きなことに時間を使った方が、絶対に仕事にも精が出るよ。
企業の定理のように言われるホウレンソウって、そんなに必要なんか? 時間も労力も通信代ももったいない。その仕事はその担当者が一番分かっとる。気持ちよく働ける環境であれば、基本的なやりとりぐらい自然にやっとるよ。
うちは出張も社員が自分の判断で出掛けとる。ノルマなし、教育なし、管理なし。そんなやから、営業所もやる気のある社員が勝手につくってきた。全国28の営業所のうち25カ所がそう。おれだって名刺の裏を見て「ああ増えとるなあ」と思うくらいや。トップの知らん間に営業網が増える会社なんて……ないよなあ。
「徹底して同業他社と反対のことをやる」

壁のスイッチやコンセントの中に埋め込む「スイッチボックス」では、取り付け穴を四方の四つ(他社は二つ)にした。縦、横、斜めのどれか2カ所でしっかりとめられる。これもヒット。基本仕様は法律で決まっとっても工夫は無限や。
工夫の元は現場。使い手である工事職人の声を丁寧に聞いて反映させる。便利なら買ってもらえる。スタンスは「一歩離れて見て半歩先を作る」。細かな声に影響されすぎてもいかん。時どきの工夫を形にし、改良や多品種化を進める。先手必勝で。
一例を挙げる。本社には見学のために1日平均1.5組の団体さんがお見えになる。その見学者に出すお茶菓子は「未来せんべい」だ。地元・大垣名物のみそ入りせんべいで、市販されていない。世界中でここにしかなく、見学者にしか差し上げない。「何度でも出すお茶菓子をも差別化しよう」との思いから生まれた。
では、どうするか。下手に排除するから、ヤミの天下りが増えてくるのだ。
逆に、天下りを奨励してみてはどうか。役人はどんどん天下りしなさい。何なら、天下りのための公団、公社、機構、財団、会社を、どんどん新規に作っていい。
ただし、条件がある。
1人でも元・前役人がいる団体や組織には、国や都道府県、市町村は一円たりとも、交付金や寄付金、補助金の交付や支給は認めない。赤字補填(ほてん)などもってのほかだ。
経営や運営はすべて自分の金でやらせる。民間企業はすべて自前で経営している。天下りの団体もすべて自分の金でやるのは当たり前だ。年度初めに組む予算といえども、自己資金でやってもらいたいと思う。
「成果主義」「ノルマ」が嫌い

「残業」をやらせる。「有給休暇」は取らせない。「週休2日制」は建前だけ……。1998年以降、14年連続で日本の自殺者数が3万人を超えているのは、こうした心ない企業の姿勢が少なからず影響しているのではないか。
かつて日本の企業社会は、男性中心だった。女子社員だけにお茶くみをさせたり、書類のコピーをさせたり、といった悪習がまかり通っていた。今ではかなり改善されたが、こうした男女差別が生まれたのも「人間尊重」の考え方が不足していたためではないか。
総人口の減少が進む日本で、企業が生き残っていくために必要なのは、ひとえに「人間尊重の経営」だと思う。
だから、うちでは賃金制度を年功序列にしている。基本給やボーナスは、年齢と社歴で決める。いくら上司にごまをすっても、変わらない。
「努力しても給料が同じだと、社員が怠けませんか?」と社外の人からよく尋ねられるが、杞憂(きゆう)だ。現行の給与水準は会社がある岐阜県内では高い方。大半の社員は「それだけもらっているのだから、見合う分だけ働かないといけない」と考える。日本人の持って生まれた気質だろう。
「世界で一番強いものはただ独りで立つ者」
例えば、企業はモノ作りはうまいが売り方が下手、では駄目。劇団時代は全体を見る「舞台監督」を務めたが、それが社長業に生きた、ということは言えると思う。
好きな戯曲はイプセンの「民衆の敵」。温泉地の泉質汚染を告発する地元の医師が「町を破産させる敵」と誤解され、攻撃される物語だ。「世界で一番強いものはただ独りで立つ者だ」との医師のせりふがある。真実と良心、民衆の付和雷同性を描いていて印象に残る。おれ自身も、経営においても人生においても正しいと信じたことをし続けたい、と思っている。
