MENU CLOSE

お金と仕事

アップルは「沈みゆく帝国」?(後) イノベーティブであるために

ジョブズ亡き後のアップルは偉大な企業であり続けられるのか。話題の書「沈みゆく帝国」の著者ケイン岩谷ゆかりさんへのインタビュー後編。

アップルは「沈みゆく帝国」か?=古田大輔撮影
アップルは「沈みゆく帝国」か?=古田大輔撮影

目次

アップルは親世代が使うもの?

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

アップルのロゴをサムスンの携帯で撮影=ロイター
アップルのロゴをサムスンの携帯で撮影=ロイター

本の執筆後、ケイン岩谷ゆかりさんは米国内外のシンポジウムや講演会で、アップルの将来について議論している。米国の理系教育で有名な中学校に招待されて本の話をした際、生徒の反応に衝撃を受けたという。

「アップルは親世代が使うもので、僕たちはアンドロイドの方がいいっていうんです。私がiPhoneを使っていると言うと『アンドロイドの使い方を教えてあげるよ』って」

メール、インターネット、次々と登場する革新的なアプリ、それが携帯電話の中にすべて詰まり、画面へのタッチで簡単に扱える。iPhoneはスマートフォンという革新的な概念を生み出し、iPadはタブレットという市場を切り開いた。だが、他社の参入でそれぞれの分野での唯一無二の地位は失われた。

岩谷さんに聞いてみた。アップルで真にイノベーティブと言える最後の商品は何だったかと。

「iPadとiPhoneの登場。それ以降はその商品の改善です」

ジョブズが生んだ革新的な製品で偉大な企業に成長したアップルだが、それと同じだけ破壊的にイノベーティブな商品を生み出すのは難しい。

iPhoneの登場はiPod市場を奪い、iPadの登場はMac市場に影響した。それでもイノベーティブな商品の開発を続けた。ジョブズはよくこう言っていたという。

「自分で自分を食わなければ、誰かに食われるだけだからね」

本の中では「イノベーションのジレンマ」の著者クレイトン・クリステンセン教授に話を聞いている。

ティム・クックは表計算ソフトの達人であってイノベーションの達人ではない。クックがトップに就任したあと、CEOに大好物のデータを届けるため若手MBAが大勢採用された。クリステンセンは、これを真っ赤な警告旗だと見ている。
「データをもとに行動しろと教えるのは、すべてが終わったときに行動するよう仕向けているに等しいのです。未来についてはデータがないのですから」
第11章イノベーションのジレンマ(本書から)

亡霊からの脱却 「ティム路線が出てきた」

アップルに買収されたBeats=ロイター
アップルに買収されたBeats=ロイター

機能が不十分なまま発表されて世界中から批判を浴びたSiriや地図アプリ、サムスンとの果てしない法廷闘争、部品のサプライヤーであるフォックスコンへの高すぎる依存度など、本の中では様々な角度からアップルを囲む現状の厳しさを指摘している。

iPhoneとiPad,MacBook Proに囲まれている記者(古田)としては不安になる。今後もアップル製品は「買い」なのか?

「このままでは将来的に厳しいでしょう。ですが、変化の兆しもあります。ティムが自分の路線を出し始めました」

アップルがヘッドフォンと音楽ストリーミングで人気のBeatsを30億ドルで買収したことを発表したのが5月。これは業界を驚かせた。

「ジョブズがアップルでやったのはプロダクトラインをしぼること。ティムは逆に広げようとしている。成功するかはわかりませんが、変化を生もうとしています」



アップルは偉大な企業で居続けられるのか。アップルを長く取材しているジャーナリストの林信行さんはこう言いました。


秘密主義アップル どうやって取材したのか?

ケイン岩谷ゆかりさん=古田大輔撮影
ケイン岩谷ゆかりさん=古田大輔撮影

アップルと言えば、情報をしっかりと管理し、内部の取材が難しいと言われています。記者(古田)自身、アップルの製品に関することでアップルストアに電話取材を申し込んだところ、「その質問に答えられるのは、弊社ではスティーブしかおりません」と答えられて驚いたことがあります。冗談だったかもしれませんが。

5年にわたり、関係者200人から話を聞いたそうですが、いったいどうやって取材したんでしょう。しかも批判的な内容なのに。

「これまでアップルの成功はすべてスティーブのものという神話が作り上げられてきました。彼自身がそれを望んでいましたし。だけど、本当はスティーブだけではなく、たくさんの優秀な人たちがいて、それもちゃんと話を聞いて伝えたいと思いました」

「取材を申し込むときや、その後のやりとりでも、私は相手にこういうテーマで聞きたい。私はこう思うと伝えます。今回、本を書いた後にもアップルのいろんな人から連絡をもらいました。よく書いてくれたという声や、もっと批判的にも書けたのではという人もいました」

岩谷さんはソニーを取材していた際、ハワード・ストリンガーCEO(当時)の単独インタビューに成功している。その際は、1週間毎晩1時間以上、広報と電話でやりとりして説き伏せたという。

物腰は柔らかながら、質問への答えは明確だ。著書にティム・クックCEOから批判が寄せられたときにどう思ったか聞くと、こう答えた。

「面白い反応だと思いました。『寝言だ』と言われても内容への具体的な間違いの指摘や訂正要求はありませんでしたし」

今後はフリーランスのジャーナリストとして、企業取材の他に臓器移植などの分野にも取り組んでいくそうです。



ジョブズ後のアップルを200人を超える関係者のインタビューから描いた話題の書「沈みゆく帝国」。後継者のティム・クックCEOが「妄言だ」と異例の名指し批判をした著者ケイン岩谷ゆかりさんへのインタビュー。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます