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#248 #withyou ~きみとともに~

「不登校の子も『アオハル』の舞台を」 動画選手権へ込めた願い 

選手権参加を予定する不登校経験者を対象に開かれたTikTokクリエイターによる動画の作り方講座。参加者がスマホを使って動画を作っていました=2023年6月24日、高室杏子撮影
選手権参加を予定する不登校経験者を対象に開かれたTikTokクリエイターによる動画の作り方講座。参加者がスマホを使って動画を作っていました=2023年6月24日、高室杏子撮影

目次

参加資格は、「20歳未満」で「不登校経験者」であること。7月1日にスタートした「不登校生動画選手権」では、「学校へ行きたくない私から学校に行きたくない君へ」をテーマに1分間の動画作品を募集しています。企画したのは自身も不登校の経験がある不登校新聞社代表の石井志昂さん(40)。選手権開催に寄せる思いを聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・高室杏子)

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【不登校生動画選手権】全国不登校新聞社主催、TikTok社共催の、不登校経験者へ向けた全国大会。「学校へ行きたくない私から学校に行きたくない君へ」をテーマとした1分間の動画を、TikTok上に「#不登校生動画選手権」のハッシュタグをつけて投稿し、応募。7月1~31日に投稿された作品から、8月に中川翔子さんや映画監督、エッセイストら審査員が選考。投稿回数の制限はなし。最優秀賞受賞者には賞金のほか、不登校新聞1面の掲載内容を取材する権利も与えられる

なぜ動画選手権?

――なぜ選手権を開催しようと考えたのでしょうか?
 

不登校の子どもたちは約24万人にまで増え続けています。なにかできることはないかと企画しました。

自分も中学時代に不登校になりましたが、「不登校だからこそ知り得た経験や言えることを社会に訴える場面がなかった」と気づきました。

部活も、ましてや全国大会も「学校に行けること」が前提になっていることが多いです。学校に行くことでしか得られない学生生活の青春は、学校に通えている子どもたちだけに許された特権と言ってもいいでしょう。

脳裏にあったのは高校バスケットボールの漫画「スラムダンク」やビッグバンドの映画「スウィングガールズ」とか全国の舞台を目指す学生たちです。年齢が近い子ども同士で競技やコンクールなどで全国トップを目指す。そのトライアンドエラーの過程や人間関係から培えるものはきっとその後の生き方にも濃く影響しますし、「これを頑張ってきた」「これが自分は好きだ」と思えるものがあることは自信や生きがいにつながったりもする。

不登校の子どもたちにもそういう場所をつくりたいとずっと思っていました。もちろん、「参加できない」「動画をつくれない」ということで自分を責めることはまったくないですし、してほしくないです。選手権はあくまで選択肢です。

不登校生は「エネルギーがあふれている」

――石井さんは取材でも多くの不登校の子どもに出会ってきました。

どの子も、「エネルギーがあふれている」と感じます。「生きるエネルギー」の燃やしどころを探していたり、自身の好きなもの・はまっているものがあったり。本人たちの世界があって、それを大事にしています。

夜通し好きなアニメーション作品を見る、ドキドキして眠れなかったけどずっと会いたかったあこがれのひとに会いにいく――こういった情熱の傾け方や行動力が、これまで出会ってきた不登校生たちにはありました。

でも、その子たちがそういう熱や自身ができること・やってきたことを発揮したり披露したりする場所が少ないんです。そこから動画選手権へのアイデアにつながっていきました。

――「あふれるエネルギー」にどんな可能性を感じますか?

「学校に行けない」の裏には一人ひとり葛藤や思いつきがあります。そして、その思いが肯定されることは少なく、また、無視もされがちです。でも、その発想を掘ったり練ったりすれば、生業や生きるための活路みたいなものになると僕は思うんです。

また、不登校の自分について「どうすれば救われたか」を考えることは、自身のケアにもなりますし、似た立場でもある新たに不登校になった子たちにとっての気づきにもつながります。大人が一方的に子どもに必要なケアを考えるのではなくて、本人が今必要なメッセージを探す。それを伝える。選手権で期待したい効果の一つです。

インタビューに応じる不登校新聞社代表の石井志昂さん=2023年5月30日、東京都千代田区、高室杏子撮影
インタビューに応じる不登校新聞社代表の石井志昂さん=2023年5月30日、東京都千代田区、高室杏子撮影

不登校生同士のつながりも

――不登校生同士の交流も期待できますね。

学校に通う子どもたちは学校の中、教室の中がすべてだと思ってしまう傾向があります。だから、不登校の最中は「学校の外で生活を送る」というレアリティ(希少性)、つまり貴重な経験だということに気づきにくいです。「普通にもどらなくちゃ」と焦ったり、「みんなと同じになれない」ことに罪悪感を持ってしまいます。

なので、選手権への応募は、不登校の子どもたち同士が互いを見つけて刺激を与え合う機会にもなってほしいとも思います。

数年前に取材した不登校の中学生は、「こんなことしているのは世界で私だけ」と学校に行けない自分を責めていました。「生きていて申し訳ない」と思うほどです。

実際は「私だけ」なんてことはないし、「普通にならなきゃ」なんてことも社会人になってからはそこまで重要じゃありません。むしろ、不登校だったから得られた経験や発想が生業に結びついたりもする。

フリースクールや不登校特例校もやっと学校以外の選択肢になりつつある現在、これまでつくりにくかった不登校生同士の接点のひとつに選手権もなればと思います。

一人でもチームでも、何回でも

――動画選手権には、制作の人数も、投稿の回数も規定がありません。

表現することへのハードルを最大限下げたかったのです。目指したのは不登校生たちが自分で納得がいくものを作って、自分を表現してもらうこと。そこに「一人でやらなきゃいけない」とか「誰かと制作して協調性を持たなきゃいけない」とか、「応募は1回しかだめ」とかは必要ありません。何度失敗してもいい、という安心感があればきっと作品づくりにも集中してもらえると思います。

――なぜ応募作品を「動画」にしたのでしょうか?
 

「参加者が自分を表現するなにか」を考えたときに、写真や感想文よりもいろんな表現の選択肢が動画にはたくさん詰まっているからです。

動画なら、写真も、絵も、音楽も、言葉も参加者が伝えたいメッセージに沿って幅を持って選べます。

それにTikTokなら公式音源があって、著作権が守られたものが素材になり、「ここでは何を表現しても大丈夫」という安心感をもって投稿ができます。「自分だから作れた」という作品を待っています。

TikTokクリエイターから「動画づくりのコツ」を聞く、選手権の参加予定者たち=2023年6月24日、東京都渋谷区、高室杏子撮影
TikTokクリエイターから「動画づくりのコツ」を聞く、選手権の参加予定者たち=2023年6月24日、東京都渋谷区、高室杏子撮影

作る人、見る人に期待すること

――動画を作る人だけでなく見る人にも「学校に行きたくない」人がいます。
 

動画を投稿する参加者だけでなく、動画を見る人にも不登校生はいて、身近な人が不登校という人も想定されます。

不登校生動画選手権の、ハッシュタグで動画を見たり、実際に作品を投稿したりして参加することで、互いに「学校に行きたくない人」の存在や、「不登校だからこそ自分の強みになることがある」ということを知ってもらえたらと思います。

――身近な不登校経験者の通信制高校に通う子どもからは、「投稿する作品は、前を向かなきゃいけない?」という質問があったそうですね。

「前を向かなきゃ」なんてことは全くありません。悩んでいたり、しんどい気持ちのある今の自分をそのままぶつけて伝えてほしいです。

学校生活だと、感情をおさえたり、前向きになったりすることばかりが求められがちという声もありますが、働いている大人たちも、病んだり、苦しんだり、カッとしたりといった感情を持っています。それを誰かに話すことができたり、感情の整理の仕方など自分で決められることが増えたり、学生時代ほどは「我慢しなきゃ」という抑圧はありません。

そのままの自分で表現してもらえればと思います。

いしい・しこう 1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。「不登校新聞」には創刊号から関わり、19歳でスタッフに。2020年から不登校新聞代表。不登校の子どもや若者、親など400人以上に取材し、また、俳優の樹木希林さんや社会学者・小熊英二さんら幅広いジャンルの識者に不登校をテーマにインタビューを実施。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)など。

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TEENS POST(ティーンズポスト)
 手紙やメールで相談できます。対象は13〜19歳。

【メッセージ】
国立成育医療研究センター
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