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陶芸でエヴァ作っちゃった!粘土使い躍動感まで再現、プロの技に驚愕
「プラモに集中できない」悩みが生んだ逸品
陶芸作品と聞くと、お皿や壺といった、陶器類を思い浮かべる人が多いかもしれません。そんな予想を裏切る作品が、SNS上を震撼させています。人気アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズに登場する巨大人型兵器を、陶土(粘土)を使い再現したものです。他にない魅力を、どのように実現させたのか? 手掛けた職人を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
左膝を地につけ、やや前傾姿勢を取りながら、顔を前方に向けています。全体的に、土の風合いをそのまま活かした、茶色みが強いカラーリングです。ところどころ見受けられる焼きむらも、渋さを醸し出します。
注目すべきは、その完成度です。細くくびれた腹回りに、印象的な一つ目。肩から突き出し、天空に向かい伸びるパーツと、〝筋肉質〟で人間を思わせる腕。機体の特徴を押さえつつ、迫り来るような躍動感をもまとわせることに成功しています。
「とんでもない質感」「遠い未来に土中から掘り出されそう」。驚異の仕上がりを受け、感嘆する人々のコメントが、投稿に次々と寄せられました。8日時点で、1.7万超の「いいね」もついています。
この作品を手掛けたのは、熊本県八代市で陶芸工房「一夢庵風流窯(いちむあんふうりゅうがま)」を構える陶芸家・上村慶次郎さん(51・@2Grq2X6QEhyNon0)です。創作の背景について、話を聞きました。
同県出身の上村さんは、東京のゲーム会社で背景画を描く仕事などを経た1998年、陶芸家・吉田明さんに師事します。七輪で焼き物を作る「七輪陶芸」を始め、様々な技術を身につけ、各地で個展を開いてきました。
その作風は実に独特です。リアルな外見の恐竜が、壺の内側を蹴破って出てくるモチーフを採用したり、平皿の表面に始祖鳥の化石のような形の彫り込みを入れ、「発掘皿」と名付けたり。型にはまらない自由な発想でファンを魅了しています。
展示のため全国を駆け回る中、楽しみの一つがプラモデルの調達です。京都や名古屋などの都市圏に寄ると、地域のおもちゃ屋を訪れています。そのたびに、大好きなロボットアニメなどにまつわる商品を買い、愛着をもって扱ってきました。
「学生時代から『機動戦士ガンダム』や『装甲騎兵ボトムズ』などに親しみました。ロボットや兵器のプラモを組み立て、パーツを加工し、塗装するのが好きなんです。40年近く前に買ったものを含め、100個ほど自宅に保管しています」
「でも最近は忙しく、なかなか作る時間が取れません。陶芸品の制作が本格化すると、3~4日ほとんど寝ずに作業するんです。(説明書通りに組む)素組みまでできれば良い方。プラモから『もっときれいにしろ!』と言われている気になります」
陶芸に集中すればプラモに手を付けられず、プラモに気を取られると仕事が進まない――。悩ましい状況下、導き出した最適解は、「陶芸でプラモを作る」という発想でした。
約2年前に初めて手掛けたのが、「装甲騎兵ボトムズ」で活躍する人型兵器・アーマードトルーパーの一つ「スコープドッグ」です。アニメ本編や、雑誌に掲載された資料集などを参照しつつ、細部に至るまで忠実に模倣しました。
試しに個展会場で公開すると、作品を見た来訪客の表情が、ぱっと明るくなるのに気付きます。「これはいいなぁ」。人々の目を楽しませる、新たな手法を編み出した上村さん。以降、アニメ由来の造形物を、合計で10個ほどこしらえました。
今年4月に焼き上げた、高さ約40センチのエヴァ零号機も、そのラインナップの一つです。「製法にはこだわり抜いた」と振り返ります。
例えば、陶土。一般的な土と比べ、粒子が小さいものを複数入手し、半年ほどかけ独自に配合しました。市販品を用いるよりも、細やかな動きの表現が可能になるからなのだといいます。練り上げた後は、機体の成形に約3日費やしました。
重要となるのが、窯焼き時に形が崩れないよう、中身を空洞にすることです。陶土の密度が濃いとへたりやすくなるため、上方ほど薄く軽くしなければなりません。そして各部位にビニールをかけ、湿度を調整しつつ、10日間ほど乾燥させます。
更に一度素焼きし、表面に釉薬(ゆうやく)を塗りつけ、つやを出します。最後に18時間かけて、1250~1270度の熱で一気に焼成するのです。制作期間中は、他の作品の生産も並行するため、1時間半程度しか眠れない日もざらでした。
職人としての技術力の粋を集めた、エヴァ零号機。より多くの人々に見てもらいたくて、画像をツイートしたところ、予想外の拡散ぶりに混乱したと、上村さんは苦笑します。
「スマートフォンの通知音が止まらず、壊れてしまったのかなと焦りました。SNSは、いつもインスタグラムを使っていて、ツイッターは慣れていないもので……。最終的にキャリアショップまで行き、通知の止め方を教えてもらいました(笑)」
エヴァンゲリオンを巡っては、別の機体である「エヴァ初号機」「エヴァ2号機」も、陶芸品として再現しています。販売には、版権元企業の許諾が必要なため、あくまで趣味の範囲内で活用しているそうです。
そして今回のように、世間の注目を集められれば、陶芸そのものの魅力を伝えることにもつながる――。上村さんは、そう考えていると話しました。
「私の師匠・吉田明さんは、『誰でも陶芸を楽しめるように』との思いから、七輪陶芸という技術を発明しました。焼き方もモチーフも、決して一つではありません。その豊かな可能性に面白みを感じ、夢中になって取り組んできました」
「興味を持って頂けた方は、ぜひ展示会に遊びに来て下さい。毎回、恐竜や古代魚などをあしらった、オリジナル作品もご用意しています。一つひとつに込めた思いについて、お話しできたらうれしいです。ご来場、楽しみにお待ちしています」
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