IT・科学
スーパーの卵100個、孵化させたくて 自由研究が導いてくれた進路
スーパーでウズラの卵100個を孵化させようとした小学生。獣医師の卵として歩み始めるまでの6年間を追いました。
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スーパーでウズラの卵100個を孵化させようとした小学生。獣医師の卵として歩み始めるまでの6年間を追いました。
子どもの頃、夏休みの自由研究で何をしましたか? 「八宝菜のウズラの卵を、好きなだけ食べたい――」。そう考えた小学生は、夏休みの自由研究として、スーパーで買ったウズラの卵の孵化に挑戦しました。その経験から、将来の夢を「獣医師」として獣医学科に進んだ女性に話を聞きました。
小6だった小西遥(はる)さん(18)は、ウズラの卵が入った八宝菜が大好きでした。どうしたらたくさん食べられるか、考えました。
「家にウズラがいて、毎日卵を産んだら、好きなだけ食べられるんじゃない?」
テレビで見たウズラの卵の孵化の実験を思い出し、夏休みの自由研究にすることにしました。
母の香緒里さん(55)とスーパーへ。まずは10個入りのパックを買います。
一つ一つの卵を、手作りした孵卵器(ふらんき)であたため、親鳥のように3時間おきにひっくり返しました。
一日中、孵卵器をのぞきこむ毎日でした。暗い部屋で光を当ててヒナの血管など浮かび上がれば、孵化しそうな証拠です。
でも、10個とも姿は見えませんでした。
さらに10個。もう10個……と卵を買って挑戦しましたが、かえりませんでした。
そもそもスーパーで買ったウズラの卵には有精卵が含まれているのでしょうか。
そんな疑問を抱き、卵のパックに書いてある生産者の連絡先にメールをしました。
「孵化をさせたいんですけど、全然できなくて、有精卵はどのぐらいありますか」と尋ねると、99%は無精卵との返答でした。
それなら、100個やれば1羽はかえるかもしれない。そう信じて、100個分を見届けるまで続けました。
しかし、100個ともかえりませんでした。
スーパーで冷やされている卵だし、手作りの孵卵器だし、厳しいのかな……。生産者の返答も含めて、結果を自由研究にまとめました。
薬剤師として働く母・香緒里さんは、数十年前の悔しい気持ちを思い返していました。
香緒里さん自身、小学生の頃にキジの卵をかえそうとしたことがあります。
2羽がかえったものの、1羽は、孵卵器の中に入れた水に落ちて溺れて死んでしまいました。
もう1羽は、ひなをあたためようとして一緒に寝ていた父がつぶしてしまいました。
今回、「1羽でも孵化したらすごいことだな」と思いながら娘を見守りました。
しかし中学生になっても、遥さんの鳥への思いが薄れることはありませんでした。
鳥が生まれてすぐに見た生き物を「親」だと思ってついていく「刷り込み」について知った遥さん。経験してみたくて、再び「ウズラの孵化に挑戦しよう」と考えました。
クリスマスプレゼントとして父に孵卵器をレンタルしてもらいました。
ペットショップで買ったヒメウズラの卵7個を入れて挑戦しました。
ある夜、カタカタと卵が揺れ始めました。
孵化が近い証拠です。徹夜して見守ると決めました。
深夜、少しずつひびが入ってきます。デジカメを構えました。
ついに、ひなの体が見えてきました。
手を貸してはいけないと思いつつ、出づらそうなひなの様子に手伝ってあげたくなります。ひやひやしながら見守りました。
何時間もかけて、殻を割って出てきました。
写真で見ていたウズラのひなは、ヒヨコのように黄色くてふわふわでした。しかし実際に生まれてきたばかりのウズラのひなは、「茶色っぽくてびちょびちょ」。
ペットボトルのキャップほどのサイズで、その小ささに驚きました。
生まれた時4gだったひなは、ピーピーとよく鳴くので「ぴーちゃん」という名前に。1カ月も経つと卵を産むようになりました。
その後に孵化させたり、孵化させたウズラから生まれた子も含めて、家のウズラは5羽に増えました。
ウズラはよく病気をします。爪も自分では切りにくいです。
しょっちゅう動物病院に通ううちに、遥さんは「獣医師になりたい」と思うようになりました。
高3で受験生だった昨年は、コロナで何カ月も休校が続き、家にずっといるのがつらい時もありました。
世話が大変だと思うこともありました。
それでも、ウズラの名前を呼ぶと、そばに来てくれます。
両手で優しく包むように持ち、羽をなでます。すると、手の上でうとうととし始めます。
かわいい寝顔を見ると、少し落ち着きました。
遥さんはこの春、大学の獣医学科に合格し、獣医師の卵として歩み始めました。
今日も部屋を飛び回るウズラたち。夜明けまでウズラの孵化を見守ったときのことは、忘れられません。
あの時がなかったら、今の道には進んでいなかったと感じています。
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