連載
#10 #withyou 悩み相談
学校での「仮面」は脱がなくていい 平野啓一郎さんの「分人構成図」
中学2年生のときに、自分より成績の低い友達を「あおって」しまい、疎まれ、1年間くらい遊びに誘われなくなった経験があります。それからは、成績が上がっても、何も言わないようにしています。いろんな場面で「こういうときにはこういった方がうまくいく」と考えながら行動しています。
そんな自分は、学校で「仮面」をかぶっていると感じています。しんどいしむなしいです。本当の自分は、誰にも気を使わない家での自分。関係を円滑にするための「仮面」に納得していますが、仮面を脱いだ方が楽になれるのかなと思うこともあります。でも、これまでの関係が崩れてしまうのではないかと怖いです。
(西日本 高校生男子 15歳)
人から自分の性格について、否定的な態度をとられたりすることは悪いことばかりじゃないんです。
人間は不愉快なことがあれば怒るものだし、人とうまくやっていく上では、「こういう言い方をすれば相手は怒るんだな」とか、「こういうことを言ってはいけないんだな」というのを学ぶのも人生です。自分が言われたことを吟味してみて、それが理不尽に自分の人格を否定されるようなことなのか、それとも自分自身が改めた方がいいものなのか、まず考えるのが大事だと思います。
質問には「成績の低い友達を『あおった』」とあります。多分、「揶揄した」ということだと思いますが、そのこと自体がよかったのかどうかを考えることが大事です。
逆の立場になって考えたら、良い気持ちはしないでしょう。「そういうことを言わない方がいいんだ」と学ぶことは、僕はすごく大事だと思います。
だから、そこで「自分の態度を改めるのは、自分の人格を否定されたことだ」と必ずしも捉えるべきではないと思います。「よくなかった」と反省して改めれば、もっといい人間になれるわけですから。
大事なのは、自分が不愉快な思いをしたときに、考えることです。
僕自身もそうなのでよくわかりますが、自分が傷つきやすいとか、人より繊細な人間だと自覚がある人は、鈍感になるのは難しいです。感情的なことですから。でも、知的になることはできるんです。「知的に」「論理的に」考えるということがすごく大事です。
傷ついたのなら、なぜそう考えたのかを考える。「悩む」というとネガティブな印象があるけど、「悩む」ということは、つまり、「考える」ってことなんです。
悩んだ経験は、考えた経験でもあります。それは決して悪いことではないし、よく考えた人の方が進歩もあります。
僕の場合は、みんなが考えていることと僕が考えていることって、だいたいいつも違っていて、クラスに40人くらいいたら、だいたい39対1で僕の意見は却下されていました。
でもなんか、そういうもんだと思って生きています。いま、世の中の大半が僕と違う考え方だと。あの人たちはいま大人になっていると思うと、まあそうかなと思うし。割と納得できます。
大人になって、作家になって思うのは、世界中に当時の僕みたいな「40人に1人」の人がいるんです。文学ってそういう人たちのネットワーク。それはすごい規模なんですよね。
そういう人たちと時を経て出会って話すと、すごく共感する。クラスという狭い世界では理解されなかったけど、世界にはその人たちがいるんですよ。それはアニメかもしれないし音楽かもしれない。
文学でいうと、いま10万部も売れればベストセラーって言われますけど、1億人の人口でいうと、0.1%でしょう。ということは、1000人に1人じゃないですか。
1000人規模の学校ってあんまりないでしょう。学校の中に自分の言うことを一人も理解してくれる人がいなくても、もしかしたら、隣の学校にいったらいるかもしれない。その人がいるだけでもうベストセラー作家なんですよ。
40人くらいのクラスで自分のことを理解してくれる人がたくさんいることを期待するのは、1億2000万人の中で、3000万人とか4000万人が自分の感性を理解してくれるのを期待するのと同じなんですよ。そんなの無理に決まってます。
クラスで話が合わない人には、適当に笑っていていいんじゃないですか。「愛想笑い」は大人になってからもあると思います。
それが「本当の自分を生きていない」って思うのもすごくよくわかります。でも、例えばみんながおもしろいと言っているものについて「そんなのおもしろくない!」って言うのは角が立ちます。おもしろくないと思うのなら、家に帰って自分の好きなことをすればいいんです。
仲の良い友達を感化していく、ということもできますよね。僕の頃なんかは、無理やりCDを貸したりしていました。ギターを弾いていたので、バンドをやるなら友達をその気にさせていかないといけないから、ちょっとずつ仲間に引き入れていきました。
そういう友達が一人か二人かできれば全然良いと思います。
<平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)>
「日蝕」で芥川賞を受賞。「マチネの終わりに」が映画化され11月公開予定。近著に「『カッコいい』とは何か」。
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