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「星が見えない…」国立天文台が麻布から三鷹へ移転した、切実な理由
天文学のナショナルセンターである「国立天文台」。東京都三鷹市にありますが、過去には東京都港区の麻布に設置されており、ことしは移転100年の年にあたります。星を観測する天文台として、移転の背景には切実な問題がありました。
日本で継続的に天体観測が始まったのは江戸時代後期といわれています。1888年には国立天文台の前身である東京天文台が麻布(東京都港区)に設置されました。
しかし、周辺の都市化が進み、街の明かりが増え、空が明るくなっていきました。そこで、三鷹村大沢(現・三鷹市)への移転が決まり、1924年に完了しました。
天文月報にも、「麻布の高台に東京天文台を建設して30年余年、かつて田畑森林が広がっていた周囲も、街の発展につれ市街地と化し、(中略)夜間の燈火が天体観測を妨げること少なからず、(中略)三鷹に移転した」と書かれています。
当時の写真を見ると、三鷹周辺は低い木々に囲まれ、建物もほとんどありません。
天文台が移転した理由は、街の明かりによる観測環境の悪化だったのです。
都市部の光が、大気中の水分やチリで拡散されることで夜空が明るくなり、天体観測がしにくくなってしまいました。
このような照明などの人工の光による悪影響のことを、環境省は「光害」と定義しています。
以前は「光害」を「こうがい」と読んでいましたが、最近は環境省のガイドラインに合わせて、「ひかりがい」と読むことが多いです。
近年では、夜間に過度に明るい人工照明をたくさん使うことで、周囲への様々な影響が明らかになり、光害が問題として認知されるようになってきました。
光害に詳しい東洋大准教授の越智信彰さんは、「世の中には、都市化によって引き起こされた大気汚染や水質汚濁、騒音、悪臭といったいろんな環境問題が起きていますが、この光害もそういった問題の一つと捉えることができます」と説明します。
光害による影響は、「星が見えにくくなる」という夜空への影響だけではなく、動物や植物といった生態系や、人間の健康、過度なエネルギー消費といった広い範囲に及びます。
例えば、道路灯や防犯灯、ゴルフ場や屋外施設の照明の光が明るくて眠れない。街灯によってイネなどの農作物が生育不良を起こすといった悪影響が実際に起こっています。
越智さんは「照明で街が明るくなると便利で安全に感じて、明るいこと=良いこと、暗いこと=あまり良くないこと、というイメージを持っているかもしれません。ですが、宇宙にまで漏れる光は、本来必要ないのです。特に日本は世界の中でも最も明るい地域の一つで、宇宙から見ても、列島の形が浮かび上がるくらいです」と話します。
「光害の問題は、世界中の人が住んでるあらゆる場所で起きていて、特に近年はLED照明の普及とともに急速に悪化しています。それにもかかわらず、問題の認識がまだ広がっておらず、放置されているのが現状です。『明るいことは良いこと』という意識の転換が必要です」と警鐘を鳴らしています。
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