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「不登校は担任の責任」「学校にも居場所ある」手紙指導、先生の思い

悩んでいるのは、先生も同じなのかもしれない。

不登校への対応に、先生たちが感じているのは……。(写真はイメージ)
不登校への対応に、先生たちが感じているのは……。(写真はイメージ) 出典: PIXTA

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 不登校の子どもたちが、クラスメイトなどからのお手紙や寄せ書きに複雑な感情を抱いている、という記事を8月上旬、withnewsで配信しました。ツイッターでは6千件を超える反響があり、善悪では単純に片付けられない実像が見えてきました。「お手紙を指導したことがある」という元教員2人から、組織の一員であるという教員の苦しみと、「学校にも居場所があるということを知ってほしい」という思いを聞きました。

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不登校お手紙問題
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家庭と学校、板挟みのつらさ

 「児童には会えず、教頭は『家庭訪問しろ』の一点張り。どうしたらいいかわからなかったんです」

 数年前まで福岡県内の小学校で働いていた元教員の男性(40代)が語るのは、児童の家庭と学校の管理職の板挟みになったつらさでした。

 数年前、男性が担任したのは、37人の大人数クラス。加えて、特別支援学級の児童も実質的に受け持っており、特別に配慮が必要な児童が受け持ちの中に複数人いました。そんな中、おとなしい性格の、ある女子児童を「正直、ノーマークだった」と振り返ります。

 もともと女子児童は休みがちでした。2学期に入ってから、他の教員に「不登校傾向では」と指摘され、初めて気にかけるようになったという男性。児童は冬に入る頃には、ほとんど登校しなくなりました。

男性は女子児童のことを「正直、ノーマークだった」と話した。(写真はイメージ)
男性は女子児童のことを「正直、ノーマークだった」と話した。(写真はイメージ) 出典: PIXTA

家庭訪問、児童に会えない、の繰り返し

 当時の教頭は「来てないのであれば、毎日家庭訪問をしなさい」。一方、児童の母親は「何もしないでほしい」「家に来ないでほしい」。

 朝、連絡なく児童が登校していないと、学校を抜けて自宅に訪問。都合がつかない時は放課後に訪ねることもありました。でも、インターホンに反応はなく、児童にも会えません。

 ごくまれに父親と連絡がとれ、「家では元気に過ごすこともあるが、学校の話題になると気分が落ち込んでしまう」という状況は聞けましたが、それ以上のことはわかりませんでした。

児童の家に行っても、インターホンに反応がなかったという。(写真はイメージ)
児童の家に行っても、インターホンに反応がなかったという。(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 男性は家庭訪問について「安全を確認する目的もあった」と話します。それでも、やみくもに訪問を繰り返すことに、納得はいっていませんでした。

 「無理にでも学校に来ればなんとかなる」とは思えなかったと打ち明ける男性。「不登校の理由もそれぞれで、その子の人生のすべてを、学校でまかなえる訳ではありませんから。学校の役割を他のところでフォローできればいいと思っています」

 市のスクールカウンセラーは若干名しかいなく、相談する時間がとれませんでした。当時は、周辺にフリースクールなどもなかったといい、「手詰まり」の状況をもどかしく感じていました。

「学校がすべてじゃない」と男性は話す(写真はイメージ)
「学校がすべてじゃない」と男性は話す(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 「どうしたらいいでしょうか」と教頭に相談しても、家庭訪問の指示は変わりませんでした。「自分で考えなさい」「言われたことしかできないの?」と繰り返す教頭。それなのに「家庭訪問を続ければ、親にもプレッシャーになるだろうから」と言われたときは、耳を疑ったといいます。

 「教頭は教育委員会に報告する不登校の児童の数を、できる限り少なくしたかったんじゃないでしょうか」と男性は考えています。

 「全然、子どもファーストじゃないですよね」とつぶやく声からは、あきらめが感じられました。

「接触できません」同僚の目は

 男性にとって特に気が重かったのは、月に1度行われる定例の会議でした。そこには全職員が集まり、配慮が必要な児童に関する情報を共有していました。

 「その児童のことを報告するのがつらかった。『接触できません』『依然として登校していません』としか言えず、同僚から『何もしていない』と思われるのではないかと……」

 直接、同僚に何か言われたことはありません。ただ、「不登校は担任が対処するもの」という雰囲気があったといいます。

職員の間では「不登校は担任が対処するもの」という雰囲気があったという(写真はイメージ)
職員の間では「不登校は担任が対処するもの」という雰囲気があったという(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 他の教員も授業や生活指導に追われる毎日。家庭訪問で学校を抜けるとき、他の教員の手を借りることもあっただけに、申し訳なさや居心地の悪さを感じていたそうです。

 「『自分が担任のときだけでもいいから何とかして来てほしい』、そう思ってしまうのも仕方ないと思います」

お手紙「何かが変わるとは…」

 あるとき、ベテランの教員に「クラスの子どもたちから手紙を出してみたら?」とアドバイスされました。男性は「お手紙」について、「昔からある、不登校指導のお決まりの方法みたいなもの」と語ります。

 「ただでさえ会えないのに、手紙だけ出しても、何かが変わるとは思えなかったです」

 それでも「何もしていない」状況から脱するために、ホームルームの時間にクラスの児童に呼びかけたそうです。

 「お手紙を出そうと思うんだけど、心配してる子は書いてくれないかな」

 クラスの2割前後の児童が、ひとりずつ手紙をしたためてくれたといいます。ちらりと読むと、「心配してるよ」の文字。児童を傷つけるような言葉はなく、胸をなでおろしました。

 届けに行ってもインターホンに反応はなく、郵便受けに手紙を入れたそうです。その後も状況は変わらず、児童が手紙を読んだかどうかもわかりません。

「どうしたらいいかわからなかった」と男性は振り返る(写真はイメージ)
「どうしたらいいかわからなかった」と男性は振り返る(写真はイメージ) 出典: PIXTA

「学校にも居場所はある」伝えたくて

 不登校の子どもに宛てた手紙について「意義があった」と話す元教員もいます。

 昨年まで教員として勤めていた、都内在住の別の男性(30代)は、「心配してる子もいると知ることが、いつか救いになるかもしれない。その可能性を信じたい」と話します。

 「手紙の指導は、ある意味教育業界の『伝統』のようなもの。でも、何かしらの効果があるからこそ、受け継がれていると思います。いかに柔軟にとらえるのかが大事なのではないでしょうか」

 男性がこう語るのには、10年ほど前の経験がありました。小学校高学年の副担任を務めていた頃、クラスには不登校の女子児童がいました。

別の男性には手紙を「意義があった」と話す(写真はイメージ)
別の男性には手紙を「意義があった」と話す(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 児童には皮膚に疾患があり、クラスメイトの目が気になって孤立していたそうです。「『私が教室に入ると、みんなが嫌がる』『学校に行くのが怖い』と家から出られず、登校しても教室には入れませんでした」

 忙しい担任に代わって、男性は児童の話を聞くようになったそうです。男性の目には、児童は「ネガティブな思考にとらわれ、周囲の人が信頼できない状態」に映っていました。

 児童の疎外感をやわらげ、受け入れられているということを示すために、男性は話を聞き、「心配しなくても大丈夫だよ」と声をかけ続けたそうです。その間、児童は学校には登校するようになったといいます。

 「学校はすべてじゃありません。他に選択肢があれば学校の役割は補完できますが、それを自分で揃えるのは大変です。学校にも居場所はある、ということ伝えていく大切さを感じました」

 男性は声かけだけではなく、「もっとできることはないだろうか」と考えるようになります。

「学校にも居場所はある、ということを伝えたかった」と男性は話す(写真はイメージ)
「学校にも居場所はある、ということを伝えたかった」と男性は話す(写真はイメージ) 出典: PIXTA

母親から感謝「意味があった」

 数年後、別の小学校で担任したクラスにも、不登校の男子児童がいました。児童には軽度~中度の知的障害があり、前の学年からひやかしを受けたり、からかわれたりしていたそうです。

 男性が担任になってからクラスメイトに指導を続けると、児童への反応はやわらかくなっていったと話します。

 「男子児童と話しても、学校が嫌いじゃないということは伝わってきました。だけど、まだクラスの雰囲気を疑っていたのだと思います」

 「すぐに信じられなくても、心配している子もいると知ってもらえれば」と、授業の合間に「手紙を書こうと思うけど、どうかな」と呼びかけました。ある女子児童が「私も」と手を挙げると、2割程度の児童が賛同したそうです。

授業中に手紙の提案をすると、2割程度の児童が賛同したという(写真はイメージ)
授業中に手紙の提案をすると、2割程度の児童が賛同したという(写真はイメージ) 出典: PIXTA

 寄せ書きには「2学期こんなことしたよ」「○○くんが、こんなことしてたよ」など、「いわゆる『テンプレ』ではなく、自分で考えた言葉が集まった」と男性は話します。「『みんなで書こうよ』と呼びかけることもできましたが、自発的に書いた方が気持ちがこもるじゃないですか」
 
 寄せ書きは男子児童の母親に渡しました。児童が手紙を読んだかどうかはわかりませんでしたが、感謝する母親の顔を見て「意味があった」と感じたそうです。

「不登校は担任の力不足」の見方も

 手紙に手応えを感じた男性も「手紙がプレッシャーになる」という意見には理解を示します。その上で、こう語ります。

 「でも何年か後に、『自分のことを想ってくれる人がいた』と気付ける可能性があるならば、『誰も手を差しのべてくれなかった』ことより、救いになるのではないでしょうか」

 ただし、男性は「不登校の児童への対応は、管理職の指示は断れない上に、やはり『担任の責任』という見方が根強い」と指摘します。

 「私の場合は、校長も見守ってくれて、児童の様子や私の経験を尊重して判断することができました。ただ現実問題、相当な根拠がない限り、管理職に『やれ』と言われたら拒否できません。特に若い先生は、『不登校は担任の力不足』というプレッシャーのはざまで、苦しむことがあるのではないでしょうか」

 「大きな学校では教員同士の連携も希薄になりがちで、ひとつの問題を教員同士で掘り下げる時間もありません。担任する前の学年で起こったことが、不登校につながることだってあるのに……」

悩んでいるのは、先生も同じなのかもしれない

 取材に応じてくれた2人の話は、個別のケースとはいえ、それぞれの持つお手紙への思いや動機には違いがありました。2人のケースに限らず、これまでの経験も、置かれている状況も異なり、どちらかが「良い」「悪い」で判断できるものではないのは事実です。2人とも漫然と指導するのではなく、「学校がすべてじゃないからこそ、できることは何か」を悩み続けています。

 2人の話から共通して見えてきたのは、不登校の子どもへの対応に「周囲のサポートがない」という、構造的な課題でした。

出典: PIXTA

 特に1人目の男性は、管理職に「相談しても、『自分で考えろ』と言われた」と話しています。問題を顕在化させないようにする管理職の姿勢や「お決まり」の指導法に疑問を持ちながらも、「何もしていない」と思われないように必死でした。

 2人目の男性は、自身の指導にはある程度満足していますが、不登校への対応を学校全体で考えようとしない潮流に違和感を感じています。

 同じような状況に置かれている先生は、多いのかもしれません。

 withnewsでは不登校の児童/生徒への対応について、教員限定のアンケートを用意しました。教員の方で、もしも不登校への対応で感じていることがあれば、声を聞かせてください。一緒に考えていきたいと思います。

【先生のみなさんへ】不登校の生徒への対応に関するアンケート
※朝日新聞社のアンケートサイトに遷移します
不登校お手紙問題
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