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ブログに生原稿、1年2カ月かけて完結 こうの史代さん「空色心経」
執筆の経緯を詳しく聞きました

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執筆の経緯を詳しく聞きました
1年2カ月かけて数ページずつブログで公開された漫画が、一冊の本になりました。こうの史代さんが黒色と空色の2色で描いた『空色心経(そらいろしんぎょう)』です。執筆の経緯を詳しく聞きました。
『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』『ギガタウン 漫符図譜』などの著書で知られるこうのさん。
4月に発売された長編ストーリー漫画『空色心経』は、有名なお経「般若心経」をテーマにした作品です。
コロナ禍の日本と、紀元前のインドの、2つの物語が絡み合いながら展開。
300字弱でまとめられている般若心経の文言に沿って、それぞれの物語が進み、時空を超えて交わります。
日本の物語を黒色で、インドの物語を空色の万年筆で描画。
2色漫画という点も珍しいですが、発表方法も斬新でした。
事前に書籍化を発表し、2023年12月から1年2カ月かけて、数ページずつ生原稿をブログで公開してきたのです。
「区切りのない漫画なのでブログで少しずつ発表するのがいいのでは、と思ったんです」とこうのさん。
提案を受けた朝日新聞出版の編集者・水野朝子さんは快諾。
理由について「貴重な生原稿で作品が完成するまでをリアルタイムに目撃できる、すばらしい試みだと思いました」と話します。
事前にこうのさんが100ページほどの絵コンテを作成。
水野さんと話し合って、説明や見せ場を増やして130ページ近くに直しました。
それをもとに描き上がったページを、その都度ブログに掲載してきました。
事前に絵コンテや完成原稿で物語の展開を知っていた水野さんですが、毎回どのように原稿がアップされるのか、読者の一人としてドキドキしながら待っていたそうです。
「完成したページだけでなく、手書きのままのセリフや、紙を切り貼りして修正している部分など、生原稿ならではの見どころがありました」と水野さん。
また、各ページを描いた時のこうのさんの思いや状況などもブログに付記されており、読み応えがあったといいます。
書籍化にあたっては、気軽に手に取れるようにA5判よりも小さいB6判を選択。
発売から1週間で重版が決まるなど、売れ行き好調だそうです。
両親がともに浄土真宗で、般若心経とは縁がなかったというこうのさん。
般若心経をテーマにしたきっかけは、構想中だった別の作品が行き詰まったことだったそうです。
「作中の小道具として仏具について調べていた時、何となく般若心経の写経をしてみたんです」
きらびやかな言葉がなく、哲学的かと思えば、意味不明な呪文が登場。
西遊記にも出てくる玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)が命がけで砂漠を越え、漢訳したとされるお経にちゃんと向き合ってみよう。
そう思って漫画化を考えていた時、比叡山延暦寺で買った手ぬぐいを眺めていたら「空色心経」というタイトルが浮かんだそうです。
般若心経について書かれた本を何冊も読み、参考にしながら執筆。
文章の解釈に引っ張られすぎないように、絵の力でより多角的に表現できるようにと意識したといいます。
「よく似た言葉の繰り返しで、今自分がどこを描いているのかわからなくなることも。原文の順序を変えず、なおかつ流れが淀まないように心がけました」
現代日本を舞台にするにあたり、コロナ禍を描いたのは「この空気感を描きとめておきたい」との思いがあったそうです。
いつになく主人公が暗いため、ちゃんと読み続けてもらえるかが不安だったといいます。
「そのため、観自在菩薩(観音様)の表情や動きをどこまで魅力的に描けるかが重要でした。そこにも注目して読んでいただけたらうれしいです」
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