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ためたウンチで発情期アピール? メスのカモシカ、トイレ通じ伝達か

ニホンカモシカ
ニホンカモシカ 出典: 朝日新聞社

目次

ニホンカモシカのメスは、オスにアピールするために「ウンチの山」(ため糞)を作っている?こんな研究成果を東京農工大学などの研究チームがまとめました。ため糞は、カモシカが同じ場所に繰り返し排泄することで作られ、いわばトイレです。発情期のメスは、ため糞を通じてオスに自分が発情状態にあることを宣伝し、オスもこの情報を受け取ろうとしている可能性があるといいます。どういうことなのでしょうか。

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「ため糞」何のため?

動物が繰り返し特定の場所に排泄をすることで作られる「ため糞」という習性は、様々な哺乳類で確認されています。

群れ生活をする有蹄類(ひづめを持つウマやサイなどの動物群)のうち、シロサイなどもため糞の習性をもちますが、これらの種ではオスが「なわばり宣言」のためにため糞を使っています。

ニホンカモシカのため糞
ニホンカモシカのため糞 出典: 高田特任准教授提供

しかし、ニホンカモシカ(以下、カモシカ)などの群れ生活をせず単独で生活する有蹄類がため糞を何に使っているかはよく分かっていませんでした。

そこで、東京農工大学農学部付属野生動物管理教育研究センターの高田隼人特任准教授、浅間山カモシカ研究会の渡部晴子さんと矢野莉沙子さん、麻布大学獣医学部の塚田英晴教授らの共同研究チームは、カモシカがため糞を何に使っているか調べました。

なわばり宣言には使われず

高田さんによると、チームは2014年から2015年にかけて、長野県小諸市の山中で4頭のカモシカ(メス1頭、オス3頭)を麻酔銃で捕獲して発信機をつけ、電波受信器とアンテナを使って位置を継続的に特定。発信器をつけていないメス2頭も含め、計6頭を対象に研究を行いました。

ニホンカモシカの行動圏とため糞の位置(赤い丸)
ニホンカモシカの行動圏とため糞の位置(赤い丸) 出典: 高田特任准教授提供

チームは、カモシカの行動範囲をくまなく歩きまわって、ため糞のある地点を記録しました。

また、大きなため糞8カ所に自動撮影カメラを設置し、誰がいつため糞で排泄しているのかなども調べました。

その結果、ため糞はカモシカのなわばりの境界に沿った分布をしていないことが分かり、ため糞がなわばり宣言には使われていないことが示唆されたといいます。

メスが交尾期にため糞訪問、オスにアピールか

ため糞の訪問者を分析したところ、メスのカモシカがため糞を訪れる頻度と、そこで糞をする頻度が、発情期かつ交尾する時期の後半(12月~1月)に通常の約3.3倍に程度増えたといいます。

また、メスがため糞の場所で尿をするのはこの時期だけでした。

尿には発情状態を伝えるニオイ成分が糞よりも多く含まれています。

カモシカは、基本的に単独で生活していますが、交尾の時期になるとオスがメスに張り付いて、一緒に行動するようになります。ただ、交尾の時期の後半(12~1 月)になると、別々で行動するようになります。

つまり、メスがため糞で頻繁に糞をする時期は、オスとメスが別々に行動している時期になります。

排泄するニホンカモシカ
排泄するニホンカモシカ 出典: 高田特任准教授提供

オスがため糞のニオイをかぎ、「フレーメン反応」と呼ばれるニオイの刺激に反応して唇を引き上げる生理現象を行う様子も観察されたといいます。

高田さんは、「糞のニオイ成分については研究ができていないのでわかりませんが、尿だけでなく糞にも発情情報を伝えるフェロモンが含まれている可能性があります」と話します。

これらのことから、メスはため糞を通じてオスに発情状態を宣伝し、オスもこの情報を受け取ろうとしている可能性があると結論づけました。

高田さんは、「群れで生活する有蹄類はオスとメスが一緒にいることが多く、メスの発情状態を直接知ることが容易です。これに対し、単独性のカモシカはオスもメスもばらばらで生活するため、確実に交尾して子孫を残すためにはメスからオスへため糞を通じて発情状態をアピールすることが重要なのかもしれません」と話しています。

ニホンカモシカ
ニホンカモシカ 出典: 朝日新聞社

ただ、今回の研究では、調べたカモシカの数やため糞の数が限られており、カモシカがにおいを通じてどのようなコミュニケーションをしているかの全容を明らかにするためには、今後さらにデータを取得する必要があります。

カモシカはため糞以外にも、1回だけの糞をなわばり内に残すこともあるそうで、この「1回糞」が別の機能を持つ可能性もあります。

まだまだ分からないことが多いということで、今後も研究を続けていくそうです。

今回の研究成果は、フランスの哺乳類学雑誌「Mammalia」(4月7日付)オンライン版に掲載されました。

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