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妊娠〝安定期〟のトラブル、知っていますか?「マタ旅はギャンブル」

産婦人科医の重見大介さんに聞きました

「安定期」でもトラブルが……(画像はイメージです)
「安定期」でもトラブルが……(画像はイメージです) 出典: Getty Images

目次

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妊娠16週(妊娠5カ月)を過ぎると、よく「安定期に入った」と言われます。あとは安心して予定日を待つだけ……と思いがちですが、トラブルが起きてしまうことも。そもそも「安定期」は医学用語ではなく、様々な誤解があるそうです。Xなどで発信している産婦人科医の重見大介さんに聞きました。

<重見大介さん>
産婦人科専門医。日本医科大学卒業後、日本医科大学付属病院等で産婦人科医として勤務したのち、東京大学の公衆衛生大学院を経て同大学院博士課程へ進学。ICTを活用した遠隔健康医療相談サービス「産婦人科オンライン」の運営にも携わる。著書に『病院では聞けない最新情報まで全カバー! 妊娠・出産がぜんぶわかる本』(KADOKAWA)「産婦人科医・重見大介の本音ニュースレター」を配信中。Xアカウントは@Dashige1

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安定期以降も考えられるリスク

——安定期に入ると「もう大丈夫」と考えがちですが、気を付けなければいけないことはありますか?

これは誤解が多いというか、社会的な認識がちょっと難しい要素のひとつですね。

もともとの意味合いは、胎盤が子宮の中で完成して、ホルモンの環境が安定するということです。

初期流産の確率が大きく減ることは確かで、つわりもだんだん良くなってくるので当然ポジティブな意味はあります。「お仕事や家庭内の調整をする時間に使ってくださいね」と伝えることもあります。

ただ、切迫流産や切迫早産、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病はこのくらいの時期にも起こります。安定期以降はそのような病気に気を付けないといけないですよという説明もしますね。

——切迫早産とはどのような状態ですか?

妊娠22〜36週での出産が「早産」とされるのに対し、切迫早産というのは一言でいうと「早産になるリスクが通常より高い状態」を意味します。

具体的には妊娠22週から36週の間に、子宮の強い収縮がたびたび起きてしまったり、子宮の出口の部分(子宮頸管)がちょっと開いてしまったりすると、切迫早産の状態になっていると言えます。

切迫早産の原因はほぼ分かっていません。腟内に感染が起こった場合などにリスクが上がると言われていますが、予防は難しいです。

切迫早産と診断された場合は状況を見て張り止めの点滴をすることがありますが、妊娠を延長する効果は最大で2日までだろうということが研究で分かっています。

大事なのは、切迫早産は早産とイコールではないので、切迫早産と診断されても早産にならなかった人はかなり大勢いるということです。

過去に早産の経験がある人は次の妊娠も早産になりやすいと言われていますが、過去に切迫早産になったけど早産にならなかった人は、次の妊娠で早産のリスクが上がるわけではありません。

切迫早産については以前ニュースレター(※)でも書きましたが、日本と海外の認識がまったく違います。アメリカなどでは今日か明日に生まれるだろうという人しか切迫早産と言いません。

産婦人科医・重見大介の本音ニュースレター:切迫早産の治療について 〜日本の課題、海外との違い〜
 
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画像はイメージです
画像はイメージです 出典: Getty Images

「マタ旅」を考える前に

——リスクがあるとはいえ、多くの人は安定期後にトラブルなく出産します。どのように安定期を過ごせばよいですか?

コントロールできる部分とできない部分があることが大事なポイントだと思います。

切迫早産や妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などが起きうることは知っておいてほしいですが、自分ではコントロールできないので、普段から不安に思う必要はありません。

日本は妊婦健診というちゃんとした制度があるので、定期的に妊婦健診を受けて体調が悪いときはきちんと相談していただくことが大切です。

コントロールできる部分の一つは、妊娠中の旅行(マタ旅)です。安定期だからといって旅行に出かけることはリスクにもなります。

マタ旅は「絶対NG」ということではありませんし、医師が中止を強制することはできません。

飛行機や新幹線に乗っても赤ちゃんに異常は生じないということは研究で分かっていますし、早産が明らかに増えることもないので「絶対NG」ではないと思いますが、現実的には様々な問題点があります。

妊婦さんはもともと血栓症ができやすいので、特に長距離移動だと、血のかたまりが血管内にできて肺に詰まってしまう「エコノミークラス症候群」のリスクを上げることになります。万が一起きたら母子の命がどちらも危なくなってしまいます。

それから、環境の変化です。暑さや寒さなど慣れない環境では体調を崩すこともあり得ます。海外の場合は日本にはない感染症のリスクもあります。

旅先で早産になってしまったら現地の病院に入院することになりますが、地方の場合NICU(新生児集中治療室)の病床は多くありません。現地の医療資源を使ってしまうため、地元の方が入院できないというようなことも起き得るわけです。

もし海外で帝王切開になった場合は、1000万円以上医療費がかかることもあります。

「そういったリスクも知っておいてくださいね」と伝えますが、最終的にはいつも、「いま旅行に行って得られる楽しさと、赤ちゃんが早産になった場合のリスクを天秤にかけた賭けですね」とお話しします。

多くの場合は大丈夫でも、万が一のときには赤ちゃんにも負担を背負わせることになる。そういうギャンブルと一緒だと私は思っています。
 
【関連記事】「小さく産んでごめんね」 自分を責めてしまう母親たち…小児科医・ふらいと先生が伝えてきたこと
産婦人科医の重見大介さん
産婦人科医の重見大介さん

「赤ちゃんを見るたびに申し訳ないと思う」相談も

——マタ旅を含め、多くのお母さんから相談を受けてこられたと思いますが、印象に残っていることはありますか?

現在、会社の業務でオンライン相談をやっています。早産を経験した方からの相談も受けるのですが、産後半年が経っても「私のせいだったんじゃないか」と感じていたり、「今でもひとりだと泣いてしまう」「赤ちゃんを見るたびに申し訳ないと思ってしまう」と話したりする方がいます。

産婦人科医である私たちがそういった声を聞くことは、診療現場ではめったにありません。親御さんも病院で伝える機会はないと思います。

けれど、オンライン相談をやっていると、みなさんの思いを伺う機会が多いです。私たちもそういった声を知って、お母さんたちを責めてしまうような発言がないよう意識や姿勢をアップデートしなければいけないと思います。

——自分を責めてしまいがちなお母さんへはなんと伝えているのですか?

「あなたのせいではないですよ」と伝えることがまず第一です。病気や多胎で早産になってしまったとしても、お母さんのせいではありません。

ですが、その言葉だけで責めてしまう気持ちがなくなることはあまりないような気はします。

ただ、お母さんは赤ちゃんのことを思って妊娠中に頑張ったことがたくさんあるはず。早産と言えど頑張ったからこそいま赤ちゃんがいて、一緒に生活できているのは本当に素晴らしいことですよとお伝えしますね。

そのうえで、あとはできるだけ前を向いて今後のことを考えていただくようにお話ししています。
 
  ◇  ◇  ◇

これまで筆者は、早産を経験したお母さんたちの話を伺ってきました。安定期を過ぎてから切迫早産になり、長期の入院を経て出産したお母さんもいます。

先が見えない不安の中、相談できる専門家や医療情報、体験談が救いになることもあると思います。

みなさんの体験や思いも聞かせてください。
【関連記事】妊娠14週で〝破水〟するなんて…23週4日に生まれた604gと552gの命 10人に1人が「小さく生まれた赤ちゃん」
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低出生体重児に関する情報・サポートがあります

◆「低出生体重児 保健指導マニュアル」(厚生労働省・小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

◆早産児育児ポータルサイト「Small Baby」 https://www.small-baby.jp/

◆「はじめてのNICU」 https://www.nicu.jp/

◆日本NICU家族会機構(JOIN) https://www.join.or.jp/

◆母子手帳サブブック「リトルベビーハンドブック」に関して NPO法人HANDS
https://www.hands.or.jp/activity/littlebabyhandbook/
 
 

日本では、およそ10人に1人が2500g未満で生まれる小さな赤ちゃんです。医療の発展で、助かる命が増えてきました。一方で様々な課題もあります。小さく生まれた赤ちゃんのご家族やご本人、支える人々の思いを取材していきます。

みなさんの体験談や質問も募集しています。以下のアンケートフォームからご応募ください。
【アンケートフォームはこちら】https://forms.gle/dxzAw51fKnmWaCF5A
 

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