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「枝野演説」地元で感じた“ある変化” 立憲民主のSNS今も試行錯誤
衆院選で立憲民主党のツイッターは、爆発的なフォロワーの伸びを記録しました。参加を促すフレーズや、耳に残る印象的な表現を駆使した枝野幸男・立憲民主党代表の演説は、SNS上の人気と連動する形で注目を集めました。選挙から1カ月、枝野氏はSNS発信の今後について「試行錯誤しつつやっていく」と話します。枝野氏の地元、埼玉での取材から、立憲民主党のこれからについて、改めて考えました。(朝日新聞さいたま総局記者・増田愛子)
11月13日朝、通勤通学の人が行き交うJR大宮駅前に、ビール箱の上でマイクを握る、枝野幸男・立憲民主党代表の姿がありました。地元での演説は選挙戦以来、約1カ月ぶりです。
結党の精神や衆院の質問時間配分問題を中心に約1時間。その後、枝野氏がツイッターの自身のアカウントで写真と共に活動を報告すると「聞きたかった。残念」「どんな内容の話か知りたかった」と、次々に声が寄せられました。
選挙期間中、枝野氏の演説は、立憲アカウントの人気「コンテンツ」でした。
140字で切り取られた言葉に瞬く間に「いいね」がつき、リツイートされていく。野火のように広がる共感の連鎖反応は、陣営が「祭りあげられているようで怖い」と漏らしたほどです。
もともと、地元で「演説がうまい」と言われる枝野氏。特徴は理路整然とした構成と、かんで含めるような口調でしょうか。しかし衆院選、特に選挙区外で行った演説は内容、口調ともに、普段と異なりました。
「草の根」「下からの民主主義」「支え合い」。分断や排他の空気に疲れた心に働きかけるキーワードを、繰り返し使う。「右でも、左でもなく。前へ」といった、印象的な表現をちりばめる。そのコンパクトなフレーズは、字数制限のあるツイッターなどメディアでの拡散しやすさも、意識してのことだったと聞きます。
そして、強く訴えかける口調。文字に起こすと過多な感もある句読点が生む、独特のリズム……。その「うまさ」は、どちらかと言えば、感情的な部分に働きかけるものではなかったでしょうか。
余談ですが、このタイプの演説は、のどに負担をかけるようで、公示数日後には、声がかすれ気味に。地元市議は「12時間、選挙カーでマイクを握っても、声が枯れない人なんだけれど」と首をかしげていました。
枝野氏の言葉にSNSで触れ、「感動した」フォロワーが、街頭演説に出かける、あるいはボランティアとして参加し、それを発信する。SNSとリアルの相互作用は、秋葉原、新宿、大宮など、選挙戦終盤の街頭演説で顕著でした。
「一度決めた候補者を降ろす大変さを、私はよくわかります。共産党、社民党、両党に敬意と感謝を申し上げたい。国民の声を聞け。権力者は勝手にやっていいわけじゃない。声をあげましょう!この戦いの主役は皆さんです。あなたの力が私たちには必要です。」#1008新橋大街宣
— 立憲民主党 (@CDP2017) 2017年10月8日
※「あなたの力が私たちには必要です」と訴える立憲民主党のツイート
「政党名+マニフェスト」をキーワードとする検索数調査(ヤフージャパン:9月20日~10月19日)で、自民党を「100」とした場合、立憲は「22.6」。立憲に投票した有権者が、政策に関心がないわけではないでしょう。ただ、あの熱は、民進党分裂と、そこから「1人で党を立ち上げた」という枝野氏の行動も含め、立憲への心情的共感抜きには説明できない気がします。
10月21日の選挙戦最終日、大宮駅前で最後の街頭演説を終えた枝野氏は、記者団から2009年衆院選での民主党(当時)への風との違いを問われ「あの時は『まあ何かやってくれるんじゃないの』という期待。今回は『政治は主権者が使う道具なんだ』という意識で期待をして頂いていると思う」と答えました。
選挙期間中、参加を促す呼びかけと「中の人」の暖かみある言葉が光った、立憲アカウント。最近は「 #教えて中の人 」というハッシュタグで衆院の質問時間配分問題について論点や同党の主張を整理したり、党内の勉強会の様子を紹介したりと、国会内の活動を積極的につぶやき始めました。
所属国会議員の中にも、それに呼応するような内容をSNSやブログで発信する動きも出てきており、フォロワーの反応を探っているようです。
今後のSNS利用について「試行錯誤しつつやっていく」と話す枝野氏。「新聞には載らないこと」を発信したいとも言います。
11月13日の演説では「永田町の権力ゲームと距離を置く」姿勢を強調。一方で「国会で数は大事。現実を踏まえた妥協を100%は否定しない。しかし、譲っていけない線を越えてはいけない」とも発言しました。
こうした難しい局面をSNS上で論理的に説明し、国民と議論を深める……。そんな用い方もあるでしょうか?
枝野氏が「21世紀の『草の根』」と呼ぶSNSで、心情的な共感を越えた関係を築くことができるのか。立憲の支持者に限らず、広く国民と取り組む姿勢が期待されていると思います。
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