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#23 ことばマガジン

「校閲ガール」なりたての私 1年ぶりの復活ドラマを見て感じたこと

実は私、この春入社した駆け出しの新聞校閲記者なんです。

紙面のゲラをチェック。ドラマと一緒で赤鉛筆は校閲を象徴するアイテムです
紙面のゲラをチェック。ドラマと一緒で赤鉛筆は校閲を象徴するアイテムです

目次

【ことばをフカボリ:6】

 出版社で校閲をする女性が主人公のテレビドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」。昨秋の連ドラから1年たち、9月にスペシャル版が放送されました。実は私、この春入社した駆け出しの新聞校閲記者。連ドラのときはまだ大学生でした。実際の仕事は、ドラマの通りだったことも、全然違ったことも。「リアル校閲ガール」の姿を紹介します。(朝日新聞校閲センター・田辺詩織/ことばマガジン)

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辞書や事典、地図などは棚にびっしり。ネットより早く調べられることもあります
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学生時代に見たドラマ


 石原さとみさん演じる河野悦子が1年ぶりに帰って来たスペシャルドラマ。悦子は仕事も恋もファッションもどれも手を抜かず、今回もパワフルに動き回っていました。

 「楽しいだけの仕事はもう卒業しなさい」と雑誌の新編集長に言われながらも、結局は自分の気持ちを大事にして周りの人たちを動かしていく前向きな姿からは、元気をもらえます。

 学生時代に見た前回の放送のときに私も校閲の仕事に就いたならこんな感じかなと想像していたことを思い出しました。でも実際に新聞社で働いてみると、違う世界だと感じることがたくさんありました。

 まずは勤務の時間帯。朝刊の校閲を担当する場合、夕方から日をまたいで夜更けまで、ひたすら記事や見出し、レイアウトの点検をします。悦子のようにアフター5は自宅の階下のおでん屋で飲み会、というわけにはいきません。

 土日も新聞は発行されるので、出勤日はシフト制でカレンダー通りには休めません。でも、平日が休みの場合は、買い物に行くときは混雑が避けられますし、映画やコンサートも平日の昼の回で楽しめるのは助かります。

原稿を送ってくる出稿各部とは、ファクスや電話でやりとりします
原稿を送ってくる出稿各部とは、ファクスや電話でやりとりします

新聞校閲の違い


 悦子が勤める「景凡社」の校閲部は、みんな揃ってお手製の弁当を食べていましたが、私たちは食事休憩を取る時間もバラバラで短いです。記事が出稿される合間を縫って、それぞれの机でおにぎりやサンドイッチなどをさっと食べるのがほとんどです。

 ドラマで岸谷五朗さんが演じる校閲部長のセリフに「徹底的に調べて、どんどん忘れていく、それが校閲の常(つね)なんですけどね」というものがありました。仕事をするようになって、本当にその通りだと感じます。

 新聞では日々、いろんな分野の出来事が原稿にされてきます。毎日何かを調べては忘れ、確認しては忘れ……を繰り返しています。

 上司であるデスクが「締め切りギリギリまでは原稿のすべてを疑ってかからなきゃいけないけど、印刷に回ったらあとは書いた記者を信じるのみ!」と言っていました。そんな切り替えの早さが求められるのも新聞らしさかも。

 社会問題や事件などの特定のテーマを、時間をかけて追いかける記事もあります。さすがに悦子のように現場まで確かめには行けませんが、固有名詞や事実関係を忘れないようにメモを取ったり、資料を残しておいたりします。

スポーツ面はデータ点検が命。過去の新聞の切り抜きも役立ちます
スポーツ面はデータ点検が命。過去の新聞の切り抜きも役立ちます

「ガール」という言葉


 会社に入って、「リアル『校閲ガール』だね」と声をかけてもらうことが何度かありました。うれしさもある半面、もう「ガール」ではないんじゃ……と思ってしまいます。

 その一方で、「今年で30(歳)」だという悦子の愛らしいキャラクターを見ると、「ガール」という言葉がぴったり、とも感じますね。

 「ガール」は、日本語に訳せば辞書的にはふつう「少女」「女の子」。ですが、日本国語大辞典を見ると「ある仕事に従事する若い女性」「女性が社会に進出した昭和初期には多くその職業等を示す他の語と複合して用いられた」と詳しく書かれています。

 「バスガール」「エレベーターガール」「ビジネスガール」などが典型でしょうか。キラキラと華やかなイメージ。ただちょっと「女の子のお仕事」という色眼鏡も感じます。

印刷に回ったら、あっという間に新聞に。出来栄えを確認します
印刷に回ったら、あっという間に新聞に。出来栄えを確認します

特別視されずに信頼される校閲記者に


 ですが最近は「校閲ガール」のほかにも、小説を基に昨年放送されたドラマ「水族館ガール」のように、男性と同じ職場で等身大の生き方をしながら前向きに働く女性を表現するケースも目にします。

 目立たない職業や立場でも、性別にとらわれず新たな境地を開こうとする姿に光を当てている側面もあるでしょうが、「ガール」とつくと、やっぱり少し女性を見下しているような感じも。

 世の中の注目が向くことは大事ですが、「~ガール」と呼ばれると性別や年齢といった属性が先に来て、内面や仕事ぶりを見てもらえないのでは、と心配にもなります。

 責任を持って紙面を点検するという点では、女性か男性かは関係ないはず。特別視されずに信頼される校閲記者になりたいです。

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