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リオ五輪「美しい卓球台」日本メーカーの技術結晶 木材は被災地から
男女ともにリオ五輪でメダルを獲得した卓球日本。その活躍を文字どおり「下支え」していたのが、日本の技術が結集した国産卓球台です。今大会で五輪公式台に採用された「インフィニティー」は、「ウォークマン」を手がけた澄川伸一氏がデザイン。脚の部分は、成形合板技術で知られる「天童木工」が製作しました。美しさと機能を追求した職人のこだわりについて、製造元の「三英」と、脚部を手がけた「天童木工」に聞きました。
今回、「三英」がつくった卓球台は約25台。そのうち14台がリオ五輪向けで、4台は東京都北区の「味の素ナショナルトレーニングセンター」に設置され、大会前に選手たちが練習に使っていました。
卓球台の最も重要な部分である「天板」は、板を何層も積み重ねたものをパズルのように並べて作られています。「反り」は最大でも1ミリほどに抑えられているため、どこにボールが落ちても弾みが変わらないといいます。ここには、もともと材木店から始まった三英のノウハウが生かされています。
その天板を支える脚部を手がけたのが、山形県の木工メーカー「天童木工」です。澄川氏のデザインは、ダイナミックな見た目だけでなく、パラリンピックで使用する際に車いすが脚に当たらないよう工夫するなど、細かな点にもこだわっています。
材料に使われているのは、東日本大震災で被災した岩手県宮古市のブナ材です。通常のスチールではなく、復興への思いを込めて東北の木材を選びました。
「天童木工」の取締役営業本部部長・結城和男さんによると、脚の厚みが決まるまでに試行錯誤を何度も重ねたそうです。
最初の厚みは6センチでした。しかし、天板の振動を抑えることできず、9センチに改良。今度は本来のイメージから離れた「ごつい感じ」(結城さん)に。
最終的に落ち着いたのは8センチでした。結城さんは「塗装の過程で陰影を与え繊細さを出すことができた」と振り返ります。
脚部の美しい曲線は、「天童木工」が得意とする「成形合板」という技術が駆使されています。単板と呼ばれる薄くスライスした木の板を重ね合わせて、様々な形を作り出す技術です。
ブナの単板は薄くスライスされ重ねられていきます。美しい木目のために表面にはメープルの単板を付けています。重ね合わせる単板は全部で58枚。美しい曲線を出すために、この道30年の熟練職人が表面を綺麗に磨きあげました。
「インフィニティー」は北海道にある「三英」の工場で製造されています。工場のトップである吉澤今朝男さん(48)は「木製にすることについて、10回くらいは『もうやめたい』と思いました。でも、宮古のブナ材でデザイン性の高い卓球台をなんとしても届けたかったんです」と話します。
リオ五輪では日本選手がテレビに登場するたびに卓球台への注目度が上がり、製品に関する問い合わせが相次いでいるといいます。
「私たちは『東京五輪でもメイド・イン・ジャパンの卓球台を』と思っています。選手のみなさんと同じように、金メダルを目指す気持ちで取り組みます」と吉澤さん。
「天童木工」の結城さんも「東京オリンピックでも出番が来るなら、さらに新しいデザインを生み出したい」と意気込んでいます。
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