エンタメ
ミュージックビデオあるある「岡崎体育」今も地元でバイト…その素顔
「MUSIC VIDEO」というタイトルのミュージックビデオ(MV)が話題です。4月19日に公開され、ユーチューブの視聴回数は250万回を超えています。制作したのは「盆地テクノ」という独自の音楽スタイルで活動するソロアーティストの岡崎体育さん。5月18日、メジャーデビューを飾りました。第一線で活躍するアーティストも絶賛する彼は、いったい何者なのでしょうか?(朝日新聞大阪本社生活文化部記者・山下奈緒子)
バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル川谷絵音さんが「面白すぎる」とツイッターでつぶやき、星野源さんは最も気になるアーティストとしてラジオで紹介するなど、売れっ子アーティストたちが楽曲やMVを高く評価しています。
岡崎体育さんは現在26歳。同志社大学卒業とほぼ同時期にソロ活動を始めました。京都在住で奈良を活動拠点にしています。岡崎体育という名前は、敬愛するテクノユニット「電気グルーヴ」の石野卓球さんから着想したとのこと。
育った京都盆地と活動拠点の奈良盆地からとって「盆地テクノ」。この名前に込めた思いとは?
「地方から音楽を発信していることをみんなに知ってもらおうと思って」
「ずっとテクノを基盤に音楽をやっていきたいと思っていたんですけど、作っているうちにテクノじゃなくてテクノポップ寄りになってしまったので、あんまテクノテクノ言い過ぎるとテクノ界隈(かいわい)の人に角が立つので。盆地って前に置くことでテクノじゃないよって濁している」
今月18日にアルバム「BASIN TECHNO」でメジャーデビューを果たしました。もちろん、「盆地テクノ」の英語表記です。
楽曲制作スタイルはデビュー前と変わらず、小学生のころから愛用している実家の学習机の上で作っています。マイクにつばや息が吹きかかるのを防ぐ機材は既製品を買うのではなく、母親の使用済みストッキング。「母の愛を通して僕の声が吹き込まれている」そうです(笑)。
この地道なスタイルにこだわるのは「高い機材を買い占めんでも、曲はできるしメジャーデビューできる」ということを示したいから。「それを、作曲しようとしている中高生に見てもらえたらうれしい」
そして変わらないスタイルがもう一つ。いまだに週3日、地元スーパーでのアルバイトを続けているのです。さすがに最近は忙しくなって、ライブなどの多い日曜に働くのは難しくなってきたようで、シフト希望は遠慮がちに「△」。すると社員の方が「岡ちゃんこの日イベントやろ? ええよ、がんばっておいで」と「×」印に変えてくれるそうです。
「ハートウォーミングな職場で、すごくやりやすい」と感謝しています。
曲については後でじっくりお話ししますが、ちょっと引いた目で世の中を斜めにみる視点は、同志社大学時代に培われたようです。
中高時代はテニス部で、今より30キロくらい痩せていて「割とモテた方」。それが大学に入学すると、キャピキャピした雰囲気が嫌で「友達つくれない病」に。
「世間を斜めに見る風潮が自分の中にできてきて、自分から友達づくりをしなくなったんです。そういうのがあって、この現状に至りますね」
そこから自分と同じような感覚をもつ高校の同級生らとバンドを結成しました。けれどそのバンドも解散。その時、ソロ活動へと背中を押してくれたのが奈良のライブハウスのスタッフだったそうです。
さて、いよいよ注目の楽曲についてです。
公開直後から爆発的に視聴回数が伸びている「MUSIC VIDEO」は、かっこいいミュージックビデオの撮影手法や演出をふんだんに盛り込んだ「MVあるある」が特色。
ミュージックビデオにおける女の子の演出方法など「あるある!」と笑えるのはもちろん、創作行為への愛と敬意がにじむサビがキャッチーで、ついつい口ずさんでしまいます。
ネットで彼の動画にアクセスしてしまうと、次の動画、また次の動画と別の楽曲も見てしまいます。
例えば「FRIENDS」。岡崎さんが右手で操る小さなパペットと会話のように曲が進むのですが、可愛らしい曲調が中盤から一変します。
仲間が欲しいという岡崎さんに対し、パペットはバンドだったら利益がメンバーと分割になるがソロだったら自分だけのものになると諭します。
そのとたん「バンドざまぁみろ!」と岡崎さんがディスりだす。パペットの可愛いらしい世界観とのギャップに笑えます。これは熊のぬいぐるみがブラックジョークを連発するコメディー映画「テッド」からヒントを得たそうです。
こういった曲は本人いわく、「ネタ要素」の曲。その最たる例が「家族構成」です。ライブではピン芸人のフリップ芸のように、1枚ずつ絵をめくって様々な家族の似顔絵を紹介していきます。「スタンスはお笑い芸人さんの方が近いと思います」
でもそうした「ネタ要素」の曲は、実は本当に伝えたい曲へリスナーを導く入り口なのです。
紹介した3曲はどれも新アルバムに収録されていますが、アルバムのラスト2曲「スペツナズ」「エクレア」で雰囲気は一変します。笑いの要素は一切なく、切ない曲調で聴かせます。「本気でやりたいことはこの2曲。真面目な曲で評価されたらいいなというのが根底にある」というのです。
実際に「MUSIC VIDEO」をきっかけに、インディーズ時代に発表した「スペツナズ」のMVを見た人が結構いるそうです。「僕が思ってた形になっているので、すごくうれしい」と素直な気持ちを語ってくれました。
大きな話題と期待とともにメジャーデビュー。目標とする「さいたまスーパーアリーナでのワンマンライブ」、実現の日が楽しみです。
1/12枚