話題
アイドルのノーバン見出し、スポーツ紙の本音 ネット普及で急増か
えっノーパン!? プロ野球の始球式を伝えるネットニュースの見出しに引っかかって、思わずクリックしてしまった経験のある方もいるのでは。スポーツ紙にその狙いと本音を聞きました。
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えっノーパン!? プロ野球の始球式を伝えるネットニュースの見出しに引っかかって、思わずクリックしてしまった経験のある方もいるのでは。スポーツ紙にその狙いと本音を聞きました。
プロ野球の始球式でアイドルや有名人がマウンドに立つたび、ネットニュースや新聞紙面におどる「ノーバン」の見出し。なかには「ノーパン」と間違えてクリックし、「釣り見出しだ!」と憤る人もいます。「ノーバン」見出しが氾濫する理由を、スポーツ紙の担当者に聞いてみました。
先月14日、福岡のヤフオクドームであったパ・リーグのクライマックスシリーズ最終ステージの始球式に、「1000年に1人の美少女」と呼ばれるアイドルの橋本環奈さんが登場。ノーバウンドの投球を見せ、「橋本環奈ノーバン 天使すぎるセーラー服始球式」(日刊スポーツ電子版)、「橋本環奈がノーバン投球♪セーラー服姿で3度目始球式」(SANSPO.COM)などと報じられました。
そもそもアイドルが始球式をノーバウンドでこなしたという情報に、わざわざ見出しにとるほどのニュース性はあるのでしょうか。たとえば、高齢の選手OBや過去に大病を患った人が始球式を務める場合には、「ノーバン」=「元気、健康の証」ということで、見出し化する必然性があると言えます。一方、主語が若い女性の場合、「ノーパン」との誤認を狙っているのではないか――といぶかる声が絶えないのも事実です。
橋本さんの始球式を伝える記事のヤフーニュースのコメント欄には、「間違えやすい見出しで釣るな」「そのタイトル見飽きた」という批判や、「くっ、何回目だ…俺のバカ」「分かってるんだよ…。ノーパンな訳がない。あり得ないって…。でもページを開いて見ちゃうんだよ…」といった男の悲哀を感じさせるコメントが並んでいます。
記事検索サービス「日経テレコン」で調べると、日刊スポーツ、スポーツニッポン、スポーツ報知、サンケイスポーツ、デイリースポーツの5紙で、紙面の見出しにノーバンを含む記事は計57件。1999年3月のスポニチに「【近鉄―日本ハム】"剛腕"千代大海 ノーバン始球式」という記事もありますが、女性が投げたものでは、2004年5月のスポニチ「『美少女クラブ21』安良城紅、歓喜!ノーバン始球式――横浜・巨人戦」という記事が最古のようです。
2000年代にノーバン見出しを使っていたのはスポニチ1社のみ。それも、多くて年1件という状況でした。しかし、2010年代に入るとネット利用者の増加と相まって、各社が参入。年々その数を増やし、今年はすでに20件に達しています。
ノーバン見出しのなかでも特に「狙っている」とおぼしき記事を抽出するため、男性が投げたものや無関係なものなどを除くと、5紙合わせて計33件が該当しました。これを多い順にならべたところ、
1位:日刊スポーツ …18件
2位:デイリースポーツ …7件
3位:サンケイスポーツ …5件
4位:スポーツニッポン …2件
5位:スポーツ報知 …1件
(2015年11月11日現在)
という順番になりました。以上はあくまでも紙面の見出しについての結果であり、ネット記事に関してはまた状況が異なります。
比較のため、各社のサイト内検索で「ノーバン 始球式」を調べてみると、ヒット数は次の通りでした。
1位:スポーツニッポン …139件
2位:日刊スポーツ …120件
3位:デイリースポーツ …66件
4位:スポーツ報知 …37件
5位:サンケイスポーツ …22件
(2015年11月11日現在)
ネットでは、日刊を抜いてスポニチが1位となっています。ただし、記事の保存期間がサイトによって違っていたり、無関係な記事が紛れていたりする可能性もあるため、この結果はあくまで「参考値」にとどまります。
ノーバン見出しの狙いを探るべく、ノーバン度が紙面で1位、ネットで2位となった日刊スポーツに取材しました。回答してくれたのは、ネットニュースを扱うメディア戦略本部の編集デスクさんです。
――始球式で「ノーバン」をうたう見出しが増えています。
「パ」と「バ」は間違えやすい、ということを思いついた人がいたんですね。どこから始まったかは定かではないんですけど、この1年、1年半ぐらいはやっているのは確かです。
――ぶっちゃけ、狙ってますよね?
はい、そうですね。半分以上は。ほとんど、女性の時しか使っていないのではないでしょうか。ただ、はやりすたりもあって、最近はあまり使わなくなってきていますね。ヤフーのコメント欄でも「いい加減にしろ!」という声がありますし。
――と言いつつ、つい最近も「橋本環奈ノーバン 天使すぎるセーラー服始球式」という見出しが出ていますが。
え、本当ですか。でもまあ、徐々に減ってはきていると思います。だまして(アクセスを)稼ぐのは申し訳ないという意識が、つくり手の側にもあるので……。
――読者の側も薄々気づいていて、でもクリックしてしまう。送り手と受け手のせめぎ合いというか、「またやってるよ」という感じで楽しんでいる人もいますよね。
わかっている人も多いですね。やはり、いずれは飽きられてしまいますし、そうなると効果も薄くなる。スマホの解像度が上がり、見間違えづらくなってきたことも影響していると思います。
最後に、ノーバン見出しが乱発される現状について、AV監督で「昭和最後のエロ事師」とも称される村西とおるさんにお話を伺いました。
「こういう言葉遊びの世界というのは、日本人的なセンスでいいと思うんですね。ただ、いつまでもノーバンばかりというのは、芸がないと言わざるを得ません。私どもの世界でも『走れメロス』とエロスを引っかけてみたり、『君の名は』を文字って『君の縄』としてみたりと、頓知を使ったネーミングに知恵を絞って参りました。言葉遊びのセンスを磨き、読者をワクワクさせてくれるような見出しをつけていただきたいものでございます」
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