連載
#9 若者のひとり旅
仕事辞めて旅=ドロップアウト? 旅人求人サイトが目指す〝境界〟
ネカフェでmixi…うらやむ若者も

地域おこし協力隊の「右腕」になったり、地域のお祭りを手伝ったり――。「旅人のための求人サイト」として10年以上の歴史があるSAGOJOに、現代の「旅」のスタイルの一つになりつつある、旅と仕事の掛け合わせについて聞きました。
「すごい旅人求人サイト」の看板を掲げる「SAGOJO」(東京・港区)のホームページには「隠岐の海に囲まれて旅×シゴトしませんか?」「田舎留学を記事に!旅人ライター募集」といった文言が並びます。その他の募集にも「おそうじ旅人」「モニター旅人」など、単なる旅人ではなく、稼ぎながらできる旅を想起させる言葉がずらり。
SAGOJOの特徴について、代表の新拓也さんは「旅する人ができる仕事を増やす」ことにあると話します。
新さん自身、15年ほど前にバックパッカーとして東南アジアやインドを巡っていました。学生時代に初めてインドに行き、社会人になってからもバングラディシュやネパールなどを巡っていましたが、3年勤めた会社を辞めて再びインドへ。旅のWebメディアを運営して収入を得ながら旅を続けていましたが、旅をすることでつきまとう「イメージ」に問題意識を持っていました。
「会社を辞めて旅に出たら『ドロップアウト』と、とらえられがちです。でも旅をすることで、多様性を尊重する考え方や、他者への想像力を得られる。旅が単に『遊びに行く』という捉えられ方ではなく、社会と接続したときにそれが価値になると考える人を増やしたかった」
そのような考え方のもと、「旅がキャリアになり、社会的な価値も高まるためにはどうすればいいか」と考えた結果、たどりついたのが「SAGOJO」のサービスでした。
現在、SAGOJOに掲示されている求人の9割以上が国内のもの。
地域のイベントの企画などに携われるような内容が多く、数泊で終わる仕事から1カ月以上にわたって携わり続けるようなものもあります。長い期間のプロジェクトの場合は、地域に複数回足を運びつつも、オンラインでミーティングを重ねるような仕事も。
求人の中で特徴的なのは、地域PRにつながるようなSNS発信をするために、旅系のインフルエンサーを求人する内容です。
首都圏の旅行会社から、売り出したい地域のPRをするためにインフルエンサーを募集する場合もあれば、地域行政などからPRをしてほしいと募集する場合もあります。
登録している「旅人」の平均年齢は34.1歳で、ボリュームゾーンは20代後半から40代前半。
旅が好きで、各地に行ってみたいという「移動」に重きを置いた目的の人や、「地域の人と関わりを持ちたい」と、旅で得られる体験の深さを追求している人まで、目的は様々です。
新さんは「SAGOJOが窓口となることで、すでにSAGOJOと地域の人との間にある信頼関係を生かした形で求人・求職活動ができる」と話します。
10年にわたり、仕事と旅の関係を見続けてきた新さんは「主観ですが」と前置きしつつ、最近の旅人の変化をこう語ります。
「いままでは、留学やバックパッカーのかたちで海外に目を向けてきた人たちが、行き先を国内にしてきている印象があります。加えて、これまで国内旅行をしてきた人たちの一部は旅行そのものから離れていることで、全体的に旅をする人たちが減っているような感覚はあります」
その理由について新さんは「経済的な理由が大きいのでは」としつつ、大きな潮目はやはりコロナ禍ではないかと推察します。「コロナ禍後、本当に旅行意欲の高い人は海外に行き続けていますが『中間層』の野心が低くなっているように感じます」
周辺の若い世代の考え方を聞く中で「用意された環境に乗っかりたい」「時間を割くのであれば、得るものが予見できる物に投資したい」という二つの軸を感じています。
一方で、興味深さを感じているのが「一部の若い層は、不便だった時代の旅にあこがれを抱いている」ということだといいます。
新さんがバックパッカーをしていた15年ほど前、いまほどネット環境は良くなく、インターネットを使いたい時にはネットカフェに入る必要がありました。
すぐに情報にアクセスできないため、情報自体がとても貴重で、バックパッカー同士で地域の情勢や行き先について情報交換をし、そこで生まれる連帯感があった。インターネットカフェに入り、旅の間に感じたことを書きためていたノートを開いて、mixiに日記を書いて投稿していた――。
ネット環境もよく、調べればいくらでも情報が出てくる現代。旅をしている若い世代は、新さんの話を聞き、「うらやましい」「そういう旅をしてみたい」と言うのだそう。
そこで新さんは、「安全を保障しつつ、不便がスパイスになる旅」にニーズが生まれるのではないかと考えています。
10年前、SAGOJOのサービスには、求人側から「旅をする人に仕事をお願いしても大丈夫?」という心配の声や、旅人側からも「旅をしているときに仕事はしたくない」という声が聞かれたといいます。
しかし、いまでは、旅と仕事をかけあわせて提供するサービスが複数あります。新さんは「旅は、日常と旅先に大きな違いを設けて楽しむというよりも、もっと密接な関係になっているのでは」と話します。「旅と日常の境界が曖昧になっているからこそ、仕事と旅をかけあわせることにニーズが出てきたのだと思います」
「もちろん、日常と切り離した旅もあっていいし、旅と日常が重なるものもあってもいい。旅のあり方が多様になることで、 旅をする人が増えていくといいなと考えています」
1/8枚