お金と仕事
酷暑のAmazonプライムデー 再配達続き「トイレの時間もない」

炎天下の重労働で、ドライバーを悩ませる「再配達」――。11日からはアマゾンの有料会員向けセール「プライムデー」が始まりますが、お中元の時期も重なり、宅配便の急増が予想されます。酷暑のなかで荷物を運ぶ宅配ドライバーの負担を減らすため、利用者には何ができるでしょうか。元トラックドライバーで物流業界の課題に詳しい、フリーライターの橋本愛喜さんに聞きました。
炎天下で少し車を動かしては止め、外に出て荷物を下ろして運んで……。橋本さんは「とにかくこの時期の宅配は暑さとの戦い」と話します。
近隣でいくつもの家庭をまわり、ドアの開け閉めが多いので車内のクーラーもききにくくなるそうです。
荷物はペットボトル飲料やお米などの重いものも。人手不足で高齢のドライバーも増える中、炎天下での重労働は、熱中症のリスクと常に隣りあわせです。
加えてドライバーを悩ませるのが、荷物の「再配達」です。
指定の時間に荷物を届けても顧客が不在だったり、宅配ボックスがいっぱいだったりすると、その荷物は一度持ち帰り、頃合いをみてふたたび運び直さなければなりません。
ただでさえタイトな時間の中、再配達が続くと、ノルマ通りの配達が難しくなります。
橋本さんは、ノルマをこなすために自分の休憩時間を削り、昼食を食べる時間がなくなることもあると指摘します。トイレ休憩のためコンビニに寄る時間もなく、やむを得ず車内でペットボトルに用を足すドライバーもいるそうです。
猛暑の時期に増えやすいクレームもあるといいます。
肉やアイスなどの冷凍便は、トラックから玄関まで運ぶ間に、外気温との差で結露ができて箱に水滴がつくことがあります。
それを見て、封を開けずに「中身が溶けてるじゃないか!」と訴える人が増えるそうです。
橋本さんは「本当に中身が溶けてしまっている可能性もゼロではないですが、近年は温度管理がより徹底していて、保冷剤に守られた商品自体はまったく溶けてない、ということがほとんどです」と話します。
「この暑い中、結露まで防ぐのは難しい。箱が結露していてもすぐにクレームを入れたりせず、まずは箱を開けて中身を確認してほしいです」と呼びかけます。
昨年の春には物流業界の「2024年問題」が注目されました。2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働が規制されることで、運べる荷物の量が減り、物流にも影響が出ると懸念されていました。
それから約1年あまり。表面上は大きな混乱はなかったように見えますが、橋本さんは「この状況で『なんとかなった』と言うのは暴論」と話します。
「数字の上ではなんとかなったように見えても、それはいろんな人が努力した結果であり、現場はすごく大変でした。歩合制で働くドライバーさんの中には、月の給料が15万円以上減った人も多くいます」
また、消費者にとって身近な「宅配便」は、物流事業全体の市場規模から見るとごく一部。大部分を占めるのは、工場から工場へ部品を運んだり、産地からスーパーへ食品を運んだりする企業間の輸送です。2024年問題の本丸も、この企業間輸送です。
「2024年問題というと、『レトルトカレーが通販で届かなくなる問題』という風にイメージされがちですが、そうではありません。本当の2024年問題とは、たとえばレトルトカレーの工場にじゃがいもや肉が届かなくなり、『レトルトカレーそのものが製造できなくなる問題』です」
そもそも「2024年」というのは規制がスタートするタイミングで、2024年を乗り切ったから大丈夫、というものではありません。
橋本さんは「ドライバーの労働環境を改善しながら、物流をどう維持していくかというのは、2025年、2026年と、この先もずっと続いていく課題です」と話します。
「置き配や宅配ボックスでドライバーの姿が見えなくなっても、見えない人たちが自分たちの生活を支えているという感覚は、ずっと持ち続けてほしいなと思います」