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お金と仕事

酷暑のAmazonプライムデー 再配達続き「トイレの時間もない」

アマゾンの荷物を持つ配達員
アマゾンの荷物を持つ配達員 出典: 朝日新聞

目次

炎天下の重労働で、ドライバーを悩ませる「再配達」――。11日からはアマゾンの有料会員向けセール「プライムデー」が始まりますが、お中元の時期も重なり、宅配便の急増が予想されます。酷暑のなかで荷物を運ぶ宅配ドライバーの負担を減らすため、利用者には何ができるでしょうか。元トラックドライバーで物流業界の課題に詳しい、フリーライターの橋本愛喜さんに聞きました。

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お昼やトイレの時間もない

炎天下で少し車を動かしては止め、外に出て荷物を下ろして運んで……。橋本さんは「とにかくこの時期の宅配は暑さとの戦い」と話します。

近隣でいくつもの家庭をまわり、ドアの開け閉めが多いので車内のクーラーもききにくくなるそうです。

荷物はペットボトル飲料やお米などの重いものも。人手不足で高齢のドライバーも増える中、炎天下での重労働は、熱中症のリスクと常に隣りあわせです。

加えてドライバーを悩ませるのが、荷物の「再配達」です。

指定の時間に荷物を届けても顧客が不在だったり、宅配ボックスがいっぱいだったりすると、その荷物は一度持ち帰り、頃合いをみてふたたび運び直さなければなりません。

ただでさえタイトな時間の中、再配達が続くと、ノルマ通りの配達が難しくなります。

橋本さんは、ノルマをこなすために自分の休憩時間を削り、昼食を食べる時間がなくなることもあると指摘します。トイレ休憩のためコンビニに寄る時間もなく、やむを得ず車内でペットボトルに用を足すドライバーもいるそうです。

受け取り手にできる5つのこと

こうした宅配ドライバーを心配してか、X(旧ツイッター)上ではセールを前に、「みんな再配達させんなよ」「一回で受け取ってくれ」といった声があがりました。
 
ドライバーの負担を減らすため、受け取り手である我々にできることはなんでしょうか。橋本さんは五つのポイントを挙げてくれました。

 
まずは、ネット通販で注文をする時の配達時間帯の指定で、可能であれば「午前中指定」を選ばないこと。橋本さんは「午前中指定をはずしてもらうだけでも、だいぶ負担は軽くなる」といいます。
 
宅配ドライバーにとって午前中は、物流センターに行って荷物を積み込む作業があり、非常に忙しい時間帯。午前に配らなければいけない荷物が減るだけでも、負荷の低減になるそうです。

 
アマゾンなどのネット通販サービスでは、注文をすると自動的に「お急ぎ」となって翌日の朝~午前配達…となってしまうことがあります。

急ぎではない買い物であれば、「お急ぎ」などのチェックを外し、通常の配送日程で注文することも大切です。
 
ちなみに、時間指定をする場合としない場合、どちらが負担軽減につながるのでしょうか。これは、エリアの特性やドライバーの状況によっても異なるため、一概にどちらがよいとは言えないそうです。

 
そして、「配達指定した時間にちゃんと在宅する」ということ。当たり前のようですが、守らない人が非常に多いといいます。

橋本さんは「仕事の約束の時間は厳格に守るのに、宅配の約束にルーズなのは、運送業界が軽視されているからじゃないでしょうか」といいます。

注文の段階から、配達指定時間の自分の予定をきちんと確認しておくことも大事です。

 
宅配ボックスを空けておくことも、ドライバーにとって負担軽減になります。マンションなどの集合住宅では、限られた宅配ボックスをめぐってドライバーの間で争奪戦のようになるそうです。

メールやアプリで配達完了の通知を受けたら、宅配ボックスから早めに荷物を取り出すことで、宅配ボックスが長時間埋まっているという事態を避けられます。

 
最後に、「自分が買った物を忘れない」ということ。忘れてしまうと、不在や宅配ボックスの長時間の占拠につながりかねません。
 
橋本さんは「品物を注文したら、到着時間を予定表にメモするくらいの勢いで、忘れないようにしてほしい」と話します。

夏に増える理不尽なクレームは…

猛暑の時期に増えやすいクレームもあるといいます。

肉やアイスなどの冷凍便は、トラックから玄関まで運ぶ間に、外気温との差で結露ができて箱に水滴がつくことがあります。

それを見て、封を開けずに「中身が溶けてるじゃないか!」と訴える人が増えるそうです。

橋本さんは「本当に中身が溶けてしまっている可能性もゼロではないですが、近年は温度管理がより徹底していて、保冷剤に守られた商品自体はまったく溶けてない、ということがほとんどです」と話します。

「この暑い中、結露まで防ぐのは難しい。箱が結露していてもすぐにクレームを入れたりせず、まずは箱を開けて中身を確認してほしいです」と呼びかけます。

2024年問題は過ぎ去ったのか?

深夜に荷物を運ぶトラック
深夜に荷物を運ぶトラック

昨年の春には物流業界の「2024年問題」が注目されました。2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働が規制されることで、運べる荷物の量が減り、物流にも影響が出ると懸念されていました。

それから約1年あまり。表面上は大きな混乱はなかったように見えますが、橋本さんは「この状況で『なんとかなった』と言うのは暴論」と話します。

「数字の上ではなんとかなったように見えても、それはいろんな人が努力した結果であり、現場はすごく大変でした。歩合制で働くドライバーさんの中には、月の給料が15万円以上減った人も多くいます」

また、消費者にとって身近な「宅配便」は、物流事業全体の市場規模から見るとごく一部。大部分を占めるのは、工場から工場へ部品を運んだり、産地からスーパーへ食品を運んだりする企業間の輸送です。2024年問題の本丸も、この企業間輸送です。

「2024年問題というと、『レトルトカレーが通販で届かなくなる問題』という風にイメージされがちですが、そうではありません。本当の2024年問題とは、たとえばレトルトカレーの工場にじゃがいもや肉が届かなくなり、『レトルトカレーそのものが製造できなくなる問題』です」

そもそも「2024年」というのは規制がスタートするタイミングで、2024年を乗り切ったから大丈夫、というものではありません。

橋本さんは「ドライバーの労働環境を改善しながら、物流をどう維持していくかというのは、2025年、2026年と、この先もずっと続いていく課題です」と話します。

「置き配や宅配ボックスでドライバーの姿が見えなくなっても、見えない人たちが自分たちの生活を支えているという感覚は、ずっと持ち続けてほしいなと思います」

橋本愛喜(はしもと・あいき)さん
ライター。元工場経営者、トラックドライバー。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路』(KADOKAWA)。

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