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連載

#10 水の事故をふせぐ

海や川の事故防止「大事な情報だから伝わる」じゃない 自分事化には

川で流されたら〝ラッコのポーズ〟

「海のそなえシンポジウム2025」では、情報の伝え方について問題提起がされました=東京都千代田区
「海のそなえシンポジウム2025」では、情報の伝え方について問題提起がされました=東京都千代田区

目次

毎年あとを絶たない海や川での水難事故。悲しい事故を防ぐためにどうしたらいいのでしょうか。海の安全を考える団体がシンポジウムを開き、「事故を未然に防ぐための情報の伝え方」などをテーマに話し合いました。

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人はどのように溺れるのか

水難事故の件数や防止への呼びかけは、夏休み前に多く報道されます。専門機関も啓発に力を入れますが、依然として年間700人以上が海や川の事故で犠牲になっています。

5月下旬に都内で開かれた「海のそなえシンポジウム2025」では、日本財団や日本ライフセービング協会、日本水難救済会、河川財団などの担当者たちが集まり、そもそもの「情報の伝え方」について問題提起がされました。

日本財団常務理事の海野光行さんは、次のように指摘します。「これまで行政で集められていたデータでは、『人はどのように溺れるのか』の具体的な状況が明らかになっていませんでした。しかし、事故に至らなかった『ヒヤリハット』の中にこそ、事故を未然に防ぐポイントがあると思います」

さらに、「データや情報があっても、『自分には関係ない』と思われた時点でその情報は心に引っかかりません。『大事なことだから発信すれば伝わる』のではなく、生活者目線に立った届け方をしていくことで『そなえ』が広がるのではないでしょうか」と話しました。

日本財団常務理事の海野光行さん(右)
日本財団常務理事の海野光行さん(右)

溺れる前の危険の予兆「おぼれ100」

海野さんは、「生活者目線に立った届け方」のひとつとして、溺れる前の「危険の予兆」を100パターンにまとめた「これで、おぼれた。『おぼれ100』」を紹介。

水の事故を減らすために専門機関が連携して立ち上げた「海のそなえプロジェクト」が、2024年8月に行った調査で集まった具体例を参考にしたそうです。

「おぼれ100」には、溺れ経験者の「事故未満の体験」がイラストで描かれ、溺れに至った状況や溺れないために必要な情報が盛り込まれています。

Instagram(@obore100)などで発信し、引き続き溺れの経験を集めていくそうです。

「おぼれ100」のヒヤリハット例
「おぼれ100」のヒヤリハット例 出典: 海のそなえプロジェクト提供

「自分事」にしてもらうために

シンポジウムでは、「見えない〝おぼれ〟を見える化するデータの力」をテーマにしたディスカッションで、「溺れ」の定義や伝える側の意見が交わされました。

中央大学研究開発機構教授の石川仁憲さんは、水が気道に入ることによる呼吸機能障害を「溺水(できすい)」、溺水によって亡くなることを「溺死(できし)」と定義すると説明します。

一方で「溺れ」という言葉は、「大量に水を飲み込む」「呼吸が乱れてパニックになる」「自力で地上に戻れない」など、人によって様々な捉え方があると紹介しました。

そこで、「海のそなえプロジェクト」では、救助されたり溺れた人の命に関わったりするケースを「重度の溺れ」、事故には至らなかったケースを「軽度の溺れ」と定義したそうです。

河川財団の菅原一成さんは、川での子どもの事故を分析した結果を紹介。「当初浅い場所で活動していたにもかかわらず、事故に至ったケースが4割近くあったと分かりました。川の流れの存在や流れが生み出す力はなかなか目に見えにくい」と話しました。

万が一、川で流されてしまった場合は、頭を上流、足を下流側にして仰向けで両ひざとつま先を水面に出し「ラッコのポーズ」をするといいそうです。

シンポジウムには、これまで水難事故に関する記事を執筆してきた朝日新聞千葉総局の寺田実穂子記者も登壇しました。

「重大な事故だけを伝えると『自分は大丈夫』と思ってしまう人もいるので、自分事にしてもらうための伝え方を試行錯誤したいと思います。伝え方をアップデートし、繰り返し伝えることが重要です」と力を込めました。

ディスカッションにMCとして参加したタレントの田村淳さんも「海と川のおもしろい部分だけではなく、危険な部分もしっかりと自分から情報をキャッチしていかないといけない」と話していました。

  ◇  ◇  ◇

「おぼれ100」のInstagram:https://www.instagram.com/obore100
タレントの田村淳さん
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