連載
#152 鈴木旭の芸人WATCH
〝勝者が敗者のストーリーを背負う〟 THE SECONDの醍醐味
3代目王者はツートライブ!

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#152 鈴木旭の芸人WATCH
3代目王者はツートライブ!
今月17日、『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜2025』(フジテレビ系)の最終決戦が開催され、ツートライブが見事3代目王者に輝いた。決勝戦でぶつかった囲碁将棋との比較、彼らの勝因に迫りつつ、『M-1グランプリ』とは異なる大会の醍醐味について考える。(ライター・鈴木旭)
天井から紙吹雪が舞い散り、両手を広げて歓喜する。それは、今大会でもっとも知名度が低いダークホース、ツートライブのたかのりと周平魂の姿だった。
『THE SECOND』は、2023年からスタートし今年で3回目。エントリー数は初回・2回の133組から140組に微増したものの、意外なほど変わっていない。『M-1グランプリ』の卒業組が参入する一方で、解散してしまうグループも多いのだろう。改めて、「結成16年以上のプロの漫才師」という出場条件の重さを感じる。
そんな大会で、今年決勝へと駒を進めたのがツートライブと囲碁将棋だ。囲碁将棋は2年ぶり2回目の最終決戦進出。過去2大会では、最終決戦前に行われる2度の「ノックアウトステージ」(予選)の得点を足してトップ通過した組が優勝するジンクスもあり、今大会2位通過のマシンガンズ(574点)を大きく引き離す囲碁将棋(584点)が最有力と目されていた。
一方のツートライブは昨年初エントリーし、選考会(予選)で敗退を喫している。しかし、今年はポットA(選考会で特に会場のウケがよく、かつ選考委員の評価が高かった上位8組)に選出され、2015年、2018年の『M-1』で3位となったジャルジャル、昨年の『THE SECOND』でベスト8のななまがりを倒すジャイアントキリングを起こした。それでも、下馬評で彼らの名を挙げる者は少なかった。
予想通り、囲碁将棋は順調に最終決戦を勝ち上がる。1回戦で吉田たち、準決勝で金属バットを撃破。特に1本目の「コンビニの店員に免許証以外で未成年でないことを証明するため、手を変え品を変えて突破を試みる文田大介の姿」がやたらおかしい。
このネタは“中年あるある”であるのと同時に、文田ひとりが架空の店員とコントを演じ、根建太一は設定に入らずツッコむ「しゃべくり漫才」と「漫才コント」のいいとこ取りのスタイルでもある。オーソドックスな漫才が多い中、行列を作ってしまう困った中年という視覚的な面白さで勝負してくるあたりに経験値の高さを感じた。
対するツートライブは、1回戦でモンスターエンジン、準決勝ではりけ~んずを破った。1本目の「脱法ジビエ」、2本目の「包丁一の料理人」と、いずれも周平魂が“ひたすら架空キャラのエピソードを紹介する”というスタイルだ。決して強いツッコミを入れず、バカバカしい話に乗っかる相方のたかのりも非常に相性がいい。
大会終了後、ふたりにインタビューしたところ、周平魂はいろんな人と話し、たばこを吸ったりコーヒーを飲んだりして気持ちを落ち着かせ、たかのりは普段出ている寄席会場をイメージして準決勝に臨んだと語っていた。このスタンスが、決勝で見せたのびのびとした漫才につながったのだろう。
囲碁将棋が決勝で見せたネタは、「モテない要因を挙げ、それを消していけばモテる」というもの。モテない理由を挙げる側がボケとなり、もうひとりがそれにツッコむ。形式的には1エピソードごとにボケとツッコミがスイッチするわけだが、おかしなふたりの会話だと考えれば自然に受け入れられる。いかにも囲碁将棋らしい漫才だった。
後攻のツートライブは、「架空タレントのゴシップ」を紹介するネタで対抗する。大物俳優・ふくしんざかこうしろうとライキアミのダブル不倫、おバカタレント・MAKA-珍(マカチン)の奇行、都内のBARを去った俳優・すだまさるの末路など、現実と虚構が入り混じる奇天烈なゴシップを披露して会場を沸かせた。
結果は、囲碁将棋が279点、ツートライブが287点。“剛”の囲碁将棋を“柔”のツートライブが下して頂点に立った、そんなイメージが浮かぶ決勝戦だった。ちなみに前述の取材で周平魂に聞いたところによると、「MAKA-珍」は本番の約1週間前に思いついたもので、相方を笑わせるためだけにアドリブで名前を変えることもあるらしい。
ガクテンソク・奥田修二が、台本ではないところの人間味でウケるマシンガンズの漫才に圧倒され、ネタの中に「何をしゃべってもいい空白」をあえて入れて昨年の『THE SECOND』に臨み、王者となったエピソードを思い出す。「ネタ時間6分の戦い」を制すためのひとつの方法論なのだろう。
大会全体を見渡せば、M-1とは違った醍醐味が確立し始めている。『M-1』『キングオブコント』で決勝進出、『ピカルの定理』(フジテレビ系)のレギュラーメンバーにも抜擢されたものの、ことごとくチャンスを逃してきたモンスターエンジン。
『M-1』の参加条件「結成10年以内」を超えていたことから一度もエントリーできず、挑戦することも辞めることもできないまま、長らく賞レースの予選会場のMCとして挑戦者たちを見守ってきたはりけ~んず。
ネタ番組ブーム終了後、徐々に仕事が減少し2023年の『THE SECOND』で準優勝。大会が終わってから悔しさが増し、昨年の予選敗退を機に初めて新ネタライブを始めたマシンガンズ。
1980年代初頭の「漫才ブーム」で大活躍し、1986年に一度解散。2002年に再結成し劇場に立ち続ける中、「大宮ラクーンよしもと劇場」の楽屋でタモンズらが『THE SECOND』の話で盛り上がっていることに刺激を受け、エントリーするようになったザ・ぼんち。
実力を認められながら、『M-1』では決勝進出を果たせなかった囲碁将棋・金属バット・吉田たち・ツートライブ。
それぞれに報われなかったストーリーがあり、1対1のトーナメント方式ゆえに、勝者は敗者のストーリーをさらに背負って駒を進めることになる。
大会のフィナーレで、真っ先に金属バットの友保隼平が周平魂に抱き着いていったシーンが印象深い。「漫才ブーム」(ミルクボーイ・金属バット・デルマパンゲ・ツートライブによる漫才ライブ。現在は10年間で47都道府県を巡る全国ツアーも敢行中)で切磋琢磨した仲間だからこそ、素直にツートライブの優勝を祝福できたのだろう。
見る側も「推しを倒した芸人に勝ってほしい」と感情移入するようになり、会場の熱量が高まっていくことが想像される。何より長期不況や何かと制約が厳しくなった世間に息苦しさを感じている中高年は、この大会に救われているのではないだろうか。
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