IT・科学
公園の子どもの声や除夜の鐘は〝騒音〟? 研究チームが分析すると…
大学研究者らが科学的アプローチで実証

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大学研究者らが科学的アプローチで実証
サイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)にとって子どもの声は「騒音」ではなく「魅力」―そんな研究成果を、大学の研究者らがまとめました。近年、子どもの声がうるさいとの近隣住民の苦情をきっかけに、公園が廃止されたり、保育園の新設が中止されたりする事例があります。研究チームはこうした事例について、サイレント・マジョリティーの意見が可視化されてこなかったために、一部の声高な少数派(ノイジー・マイノリティー)の意見が反映されてきた可能性があると指摘し、苦情の発信元がどのような人で、どのような理由で苦情を申し立てたのかを詳細に分析すべきだと指摘しています。
子どもの声についての苦情、というと、この騒動を思い出す人も多いのではないでしょうか。
2023年、長野市の住宅街の中の公園が、一部住民から「子どもがうるさい」などと苦情を受けたことを機に廃止されました。市が地元の要望を受けて整備した公園で、廃止を決めた市の判断は議論を呼びました。
また、除夜の鐘に対してうるさいとクレームが入り、やめてしまう寺院が相次いでいるという報道もあります。
こうした問題について、明治大学商学部の加藤拓巳准教授、NEC、因果分析AIソリューションを提供する企業・hootfolioの共同研究チームは、「子どもの声が騒音である」「除夜の鐘が騒音である」という苦情を取り上げ、日常で当たり前になっている生活騒音と比較し、子どもの声や鐘の音が、それよりもひどい騒音なのか否かの検証を試みました。
研究チームは、「音が公園の魅力に与える印象」を分析しようと、20~60代の2250人を対象に「公園の動画を見てもらって、動画から受けた印象を聞く」という実験をしました。
異なる公園の画像に、それぞれ「子どもの声」、「鐘の音」、日常にある騒音の代表として「電車の音」を挿入した動画を作成。動画の長さはいずれも10秒で、音量の大きさもそろえました。
比較対象に電車の音を用いたのは、日常で当たり前になっている生活騒音と、子どもの声を比較するためです。
現在の社会に「許された騒音」である電車の音よりも問題が少なければ、子どもの声はより許容された騒音といえるのではないか、と考えたといいます。
実験は、効果を公平に比較するため、「ランダム化比較試験」という方法で実施しました。実験に参加した人たちに、ランダムに動画の一つを視聴してもらい、「この公園に魅力を感じるか」「この公園に行きたいか」「この公園の近くに住みたいか」という三つの質問を投げかけ、5段階で評価してもらいました。
結果を統計学の手法を用いて分析した結果、三つの質問の全てで、参加者は電車の音よりも、鐘の音と子どもの声を肯定的に感じたことが分かったといいます。
例えば、「この公園に魅力を感じるか」の回答を見ると、子どもの声では41.4%が肯定的な回答をした一方、鐘の音で肯定的な回答をしたのは34.3%、電車の音は28.4%でした。
また、公園の印象について自由回答で答えてもらい、その文章を分析しました。よく出てきた50の単語について調べたところ、子どもの声を聞いた人の9.5%が「楽しい」という言葉を書いたといいます。電車の音と鐘の音を聞いて「楽しい」と書いた人はともに0.8%でした。
「うるさい」は、電車の音では13.8%が記述したのに対して、子どもの声では6.6%、鐘の音では0.7%でした。
こうした結果から、子どもの声や鐘の音は多数派にとっては騒音ではなく、むしろ魅力だと実証できたと結論づけました。
チームは、苦情に適切に対応するためには、苦情を受けた場合、その発信元がどのような人で、どのような理由で苦情を申し立てたのかを詳しく分析すべきだと指摘します。実態とかけ離れたノイジー・マイノリティの意見を濃く反映してしまうリスクがあるからです。
加藤さんは「都市政策において、サイレント・マジョリティーを無視し、ノイジー・マイノリティーに影響を受けた政策は、全体の評価と乖離する懸念があります。実際、鐘の音や子どもの声に対しては、全体としては肯定的な評価です。市民全体のエビデンスなきまま意思決定をすると、都市の風情や活気が失われていくリスクが大きくなってしまうと思います」と話しています。
研究成果をまとめた論文「都市の生活音に対するサイレントマジョリティーの印象の可視化 ―鐘の音と子どもの声が公園の魅力に与える影響―」は、日本感性工学会講演論文集に掲載され、学会の優秀発表賞を受賞しました。
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