日本ではおよそ10人に1人が体重2500g未満で小さく生まれています。先進国の中でも高い割合ですが、小さく生まれる背景には日本ならではの事情があるのでしょうか? 産婦人科医で、遠隔健康医療相談サービス「産婦人科オンライン」の運営にも携わる重見大介さんに聞きました。
<重見大介さん>
産婦人科専門医。日本医科大学卒業後、日本医科大学付属病院等で産婦人科医として勤務したのち、東京大学の公衆衛生大学院を経て同大学院博士課程へ進学。ICTを活用した遠隔健康医療相談サービス「産婦人科オンライン」の運営にも携わる。著書に『病院では聞けない最新情報まで全カバー! 妊娠・出産がぜんぶわかる本』(KADOKAWA)。「産婦人科医・重見大介の本音ニュースレター」を配信中。Xアカウントは@Dashige1 。
——日本では約10人に1人が2500g未満で生まれる「低出生体重児」です。OECD(経済協力開発機構)諸国での平均は6.4%(2021年)で、日本は先進国の中でも高い割合ですが、どのような事情があるのでしょうか?
低出生体重児が生まれる背景にはまず、早産とお母さんの「やせ」の2点が大きく関わっています。
要因として一番大きいのは、早産(妊娠22~36週)です。出産時期の正常範囲(正期産)は妊娠37~41週で体重は2500~4000g未満ですが、早く生まれる分、赤ちゃんは小さく生まれます。自然に早産となってしまう方も一定数いらっしゃいます。
ただ、日本は非常に医療技術が発達していて、赤ちゃんをお腹の中にとどめておくよりも、早くて小さいけれど出産して治療したほうが健康にとって良いだろうと判断されることがあります。
例えば、何かの病気があってお母さんの体がもたないので、赤ちゃんを助けるためにあえて早く出産する。そのような医学的な早産の場合にも低出生体重児になってしまうのです。その上で、赤ちゃんにはNICU(新生児集中治療室)で集中的な治療をします。
一方で、妊娠37週を超えても小さく生まれる赤ちゃんはいます。
日本人はもともと細い体格の方が多く、妊娠中の体重増加が乏しいケースも赤ちゃんが低出生体重児になりやすいということが分かっています。
妊娠時のBMI(体格指数/体重〈kg〉÷身長〈m〉÷身長〈m〉)が18.5未満のやせ体型はリスクが高くなります。
ほかにも、お母さんの妊娠高血圧症候群などの合併症や喫煙、飲酒、高齢出産といった影響も考えられます。
——早産になってしまう原因が分からないこともあるのでしょうか?
お母さんの病気など医学的な早産でない場合、正直、原因は分からないことが大半です。
例えば、子宮の出口の部分が開いてきてしまう「子宮頸管無力症」がありますが、本当に原因不明で治療法も確立されていません。
双子などの多胎妊娠も早産になりやすい傾向があります。
ただ、早産になりやすいかどうかのリスク因子と考えると、非常に大きいのは前回の出産までに早産になったことがあるかどうかという経験なんですね。
早産は繰り返しやすいということは分かっていますが、原因は分からないため手立てがなく、診療の現場は心苦しく思っています。
——早産の予防も難しいのでしょうか?
難しいのですが、できることがあるとしたらひとつは体重です。
やせ気味の方は妊娠する時点で標準体重になるべく近づけておく。妊娠中も適切な範囲で体重をきちんと増やしていきましょう。
また、喫煙や飲酒も調整できるところかなと思いますね。
——前の出産が早産だった場合、次の妊娠についてどのような注意が必要でしょうか?
明確な原因が分かっていない場合、影響しうるリスク因子を可能な範囲で減らすということで、体重の管理や病気がある方は病気をしっかりと治療してください。
出産した病院で前回の早産の考えうる原因を医師と振り返っておくことも大事です。
子宮頸管無力症のように体質として繰り返すこともあり、妊娠を十分に継続することが難しい方もいらっしゃいます。
——やせ型の妊婦さんが多い背景をどのように考えますか?
もともと日本は太りやすい食生活ではありませんが、若い世代を中心とした社会の美意識が影響していると思います。
特にメディアに出るような有名人の妊婦さんはみんな細いですし、産後もあっという間に体型が戻っているように見えます。その姿を理想として描きやすいのだと思います。
そもそもやせすぎでは生理不順になったり、骨がもろくなりやすかったりします。将来、妊娠するか分からなくても思春期のうちからやせすぎが不健康という意識を持ってほしいですし、我々も十分伝えていくべき情報です。
——やせは赤ちゃんの体重にどの程度の影響がありますか? 妊娠37週を超える正期産でも2500gより小さく生まれたという声も聞きます。
影響があることは間違いありませんが、やせだけで極端な低出生体重児になることはまずありません。例えば、正期産で本来であれば2600gぐらいに成長する赤ちゃんが、もしかしたらやせの影響で2500gを切ってしまうことはあり得ます。
染色体レベルの異常があると赤ちゃんの体重が小さくなりやすく、妊娠高血圧症候群なども非常に影響が大きい要素なので、2000gまで育たない可能性があります。そのような赤ちゃんは多くの場合、早産になります。
仮に何も病気がなくても、一部の赤ちゃんは正期産でも小さく生まれることがあり、まったく原因が分からないこともあります。個性の範囲だったとしか言いようがないこともなかにはありますし、妊娠中に胎児の発育が遅れたり、止まったりする「胎児発育不全」と診断することもあります。
——より多くの妊婦さんに届きやすいように、やせの問題をどのように伝えていらっしゃいますか?
難しいですよね。
私は遠隔健康医療相談サービス「産婦人科オンライン」でも記事を配信していますが、「適切な範囲でしっかり体重を増やすことは、赤ちゃんへ最初にできる贈り物」というような表現を使っています。
低出生体重児として生まれると、小学生や中学生、成人と長期的に見たときに何らかの病気を発症しやすいのではないかということが研究から分かってきています。
生まれた直後の体重の問題だけではなく、将来的な健康にも影響する大事なことだと捉えてもらえたらいいなと思っています。