話題
手のひらに載る「マイクロキャンバス」持ち運べる〝アート〟で身近に
仕事でアートを生かしたまちづくりに携わった男性が、開発しました

話題
仕事でアートを生かしたまちづくりに携わった男性が、開発しました
「アートをもっと身近に感じてほしい」。仕事でアートを生かしたまちづくりに携わった男性が、手のひらに収まるキャンバスを開発しました。発売から5年、愛好者は増え、男性の手を離れて全国で展示会が開かれるように。そんな「マイクロキャンバスプロジェクト」を取材しました。
絵の具を乗せたり、輪ゴムや毛糸を巻いたり、ボタンを貼ったり。多様な表現の土台となっているのは、縦3cm、横2.5cmの「マイクロキャンバス」です。厚み6mmの木材の板に画材用のキャンバスが釘止めされ、裏はピンバッジになっています。
2019年、「アートをもっと身近に!」をコンセプトに始まった「神戸マイクロキャンバスプロジェクト」。
神戸市職員の志方功一さん(47)が、アートの新しい楽しみ方を多くの人に体験してもらいたいと企画しました。
発案のきっかけは、同年4月に市役所内の関係先や官民をつないで社会課題の解決をめざす部署へ配属されたことでした。
「アートを生かしたまちづくり」に取り組むことになった志方さんは、市内のギャラリーを回ったり、アーティストから話を聞いたりするなかで、気になることがあったといいます。
「『原画は売りにくい』『買いにくい』という悩みをよく耳にしました。展覧会に行っても高価な作品は買えず、ポストカードや缶バッジを買って帰るだけではお客さんも物足りません。そこで、小さい原画や持ち運べる機能性があるといいのではと思いつきました」
「アート=キャンバス」というイメージがあった志方さん。手のひらに収まる「マイクロキャンバス」を思いつき、ノートに描いたイメージ図をSNSで投稿しました。すると、すぐにアーティストから「おもしろい」と反応が寄せられたといいます。
1週間後、ホームセンターで購入した板や釘などを使って自ら試作しました。試作品をSNSに載せるとさらに反響があり、「展覧会をしてみませんか?」とアーティストから声をかけられたそうです。
可能性を感じた志方さんは、本業である神戸市役所の活動とは別の事業としてプロジェクトを立ち上げることにしました。
2019年に神戸市で開かれた「マイクロキャンバス展」には、画家やイラストレーター、大学生、福祉作業所の利用者、教育関係者らプロアマ問わず約150人が参加したそうです。
コロナ禍ではInstagram上で展示会をして全国から作品を募りました。徐々に愛好者が広がり、現在は志方さんの手を離れ静岡や千葉など各地で展示会が開かれています。
プロジェクトに参加する年代は幅広く、3歳から90歳代までの老若男女が創作を楽しんでいるそうです。
志方さん自身もマイクロキャンバスにジーンズの絵を描いたり、公園の土管を表現したり、自由な発想で作品を作りました。
「アートは敷居が高いものではなく、手軽に取り組める身近なものなんです」という志方さん。「絵心がないと言っていた人でもアート作品ができたとか、幼いお子さんが描いてみたら抽象画のようになったなど、小さい素材だからこそ広がる世界や自由さがあります」
作品はすべて一点物。みんなが作った作品は、自由に値付けをして展示会などで販売もします。子どもたちにも自分の作品の値段を考えてもらうそうです。「一生懸命作った作品を売りたくないから高い値段をつけようかと悩むことも含めて、アート体験です」と志方さんはいいます。
SNSやハンドメイドサイト、ギャラリーで企画されたオークションでマイクロキャンバスの作品を販売するアーティストもいて、数万円の価値がついた作品もあるそうです。
マイクロキャンバスの製造は、障害者の就労訓練の一環として就労継続支援B型事業所に依頼し、ひとつ440円(税込)で販売しています。
マイクロキャンバスが全国に広がることで販売数も伸びていますが、現在、製造を担っているのはひとつの事業所のみで需要に追いついていないことが課題です。
今後は新たな事業所を探すとともに、海外の人たちへもマイクロキャンバスを知ってもらうため活動を続けていくといいます。
「このプロジェクトは共感がベースになっています。日本だけではなく、海を越えて共感してもらえそうな人に情報を届けていきたいです」
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