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ZINEと同人誌、SNSで「対立」? 哲学者が語る「実態は多様」

「近縁の文化との重なりに目を」

コミックマーケットの会場・東京ビッグサイト周辺を行き交う参加者たち=2019年8月、神戸郁人撮影(画像を一部加工しています)
コミックマーケットの会場・東京ビッグサイト周辺を行き交う参加者たち=2019年8月、神戸郁人撮影(画像を一部加工しています)

目次

この冊子は、ZINEなのか同人誌なのか――。
3月、いずれも「自主的な出版物」である、同人誌とZINEの違いについてSNSで論争が起きました。一見すると言葉の定義を巡る「線引き」の論争ですが、哲学者の谷川嘉浩さんは「実態はもう少し多様である」と指摘します。

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熱が冷めるまで意見が連鎖するSNS

谷川さんによると、同人誌とZINEを巡る論争の発端は「ある即売会のスタッフが、『ZINEはDIY精神で作り上げる創作活動であるのに対して、同人誌は二次創作であり、他所(よそ)から借りてきたアイデアを印刷所で製本したものだ』という趣旨の発言をSNS上で展開したこと」だといいます。

その上で、谷川さんは、すでに削除されたこの投稿に「同人誌を見下したようなニュアンスがあった」といいます。

この投稿やそれに付随するSNS上の論争を俯瞰し、谷川さんはこのように思いをつづっています。

《「ZINEの方が優れている」とか、「そんなこと言っているのは1人だけでZINE制作者はそんなことを言っていない」とか、「いやZINEって結局同人誌じゃん(わざわざ新しい名前とか必要なくない? 何? マーケティング?)」とか、「いや、リトルプレスでしょ」「かつてはミニコミってよく言ってたけどな」とか、「どっちでもいいんだよ」とか、「二次創作性の有無が」とか、「せっかくなのでZINEフェスに潜入しました!」とか、「そもそも文芸同人誌という出自から言って……」とか。論争はいつもの調子で拡散している》

《専門誌や新聞、論壇誌や文芸誌などで行われていた旧来の論争では、誰か主要な論客が議論をぶちあげ、それを誰かが批判したり、批判された側が応答し、それを見ていた論者たちも参加して、論点がズレたり拡散したりしていく……という流れになるものだ。しかし、SNS上で展開される「論争」は、どこから始まったかわからず、あるいは気にもされず、何が論点として争われているかも明瞭でないまま、人々が平場で意見を表明し、それに触発されて、また別の人が意見を述べ、それにまた……という感じで、熱が冷めるまで意見の連鎖が続く。》

似ている二つ、「火種」が延焼したのはなぜ

そもそも、同人誌とZINEとは何なのでしょうか。

谷川さんは、「自主的な出版物」であるという特性を共通して持っており、いずれも「商業出版物」と対置されることが多い――とします。

《これらの言葉は似た仕方で使われており、使う人々も重なっている。実際、私も友人と誘い合わせて『暮らしは、ことばでできている』という冊子を作ったが、これを「ZINE」とも「同人誌」とも呼んできた。文学フリマやZINEフェスのような即売会の場でも、出展者や参加者はこれらの言葉を混同しつつ曖昧(あいまい)に用いているように思われる。》

その実態を踏まえた上で、今回の論争について谷川さんは疑問を抱きます。

《観察レベルで漠然とした違いをいくつか拾い上げられるとしても、じっくり実態を見てみると、同人誌/ZINEに対立していると見ることそのものに一定の疑わしさがあるわけだ。》

そして「重要なこと」として上げるのが「論争の起源をたどるとたった1人の偏見ある強い言葉にすぎないのに、人々は一様に『みんながZINEと同人誌は対立していると考えている』と理解していた」ということ。

《特定個人の偏見ある所感にすぎない火種から生まれた、議論の余地ある対立構図であるにもかかわらず、なぜ人々は「ZINEと同人誌の対立が生じているらしいぞ」と考え、色々な意見表明を引き寄せたのだろうか》

「近縁の文化の重なりに目を向けて」

谷川さんはその疑問をひもとく一つの視点として「サブカル(ZINE)とオタク(同人誌)の対立として見ると整理がしやすいのではないだろうか」と問いかけます。

ZINEについての著書がある野中モモさん、ばるぼらさんの言葉をひきながらZINEの歴史をひもときつつ、「同人誌・ZINEは、いずれも文芸同人誌とファンジンという二つの系譜の中で育まれている」と結論づけます。

そしてこう呼びかけるのです。

《優越したいという感情が文化にとって常に有害だとは思わないが、文化の豊饒(ほうじょう)さを育む上では、近縁の文化との重なりに目を向けることの方がずっとプラスに働くはずだ》

朝日新聞の言論サイトRe:Ronでは、谷川嘉浩さんによる「スワイプされる未来 スマホ文化考」を連載しています。この記事は、最新回から抜粋して構成しました。
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