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面接で「障害があります」と伝えたら? 吃音に悩む就活生の〝賭け〟

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「私には吃音という障害があります」。就活で8社連続で落ち続けた大学院生が、〝賭け〟に出た理由とは――。吃音が出てしまい、面接がなかなかうまくいかなかった男性が、自身の体験を語ってくれました。取材を振り返ります。(朝日新聞記者・榎本瑞希)
「……」「……」「……わたしは」
言葉が出るまでに5秒ほど。時元(ときもと)康貴さん(27)の吃音(きつおん)の一種、「難発」の症状でした。
その後も、「……現在」「……大学院で」など文節ごとに数秒の間が空きました。
面接担当者の驚いた表情が気になって仕方がありませんでしたが、母音が特に言いづらく、御社の「お」を避けるため「XX(会社名)さん」と言い換えました。
翌朝届いたのは、選考不通過の通知でした。
記者が時元さんに取材を申し込んだきっかけは、吃音者の自助グループ「福岡言友会」の会報に掲載された就活体験記に目がとまったことでした。
「私には吃音という障害があります」。就職の面接でそう伝えるようにしたら、落ち続けていた選考に通るようになった――という内容でした。
法律は障害者への差別を禁じていますが、それでも不当に低く評価されることを恐れ、障害の申告を迷う人は多いといいます。
どうしたら納得のいく形で自分の障害を伝えられるか……。同じ立場の人に役立つ記事を書きたいと思い、話を聞きました。
「賭けみたいな気持ちでした」
取材に対し、時元さんはそう振り返りました。
3歳のころから吃音がありました。はじめは「ぼぼぼくは」と音が連続する「連発」でしたが、やがて、なかなか言葉が出ない「難発」に変わりました。
周囲の心ない言葉に傷つき、無口な子どもを演じた時期もあったそうです。
工学の研究で自信をつけたものの、就職活動を始めると、面接で重度の吃音が出て、8社連続で落ち続けました。
口頭コミュニケーションを重んじる世の中で、言葉が滑らかに出ない自分は少数者。そう突きつけられたといいます。
自身の障害を伝える際に重要なことについて、就職情報サイト「マイナビチャレンジド」の担当者は、困り事や必要な配慮を具体的で前向きな形で伝えるといいとアドバイスします。企業側もこの点に関心があるからです。
障害を伝えた時元さんにとって救いだったのは、企業から「どんなサポートが必要ですか?」という問いかけが返ってきたことでした。
そこで、吃音のない人にも分かりやすい表現を考え、「電話などでは発声まで2、3秒かかることがあります」「メールで連絡をいただけると仕事しやすい」といった具体的な要望を伝えました。
大学時代に合理的配慮を求めた経験や、自助グループで知り合った仲間への相談が助けになったといいます。
「多数派との歩み寄り」
取材のなかで、時元さんは障害を伝える目的をこう表現しました。私には、その言葉の主体的な響きが新鮮でした。
頭のどこかに、ハンディがあると伝えることは、多数派と同じように働けないことを許容してもらうための行為だという考えが染みついていたのだと思います。
しかし、そうではなく、伝えることは交渉の手段です。雇用者側から環境調整の提案を引き出して、多数派にカスタマイズされた働き方を自分に合うように変えていくことになります。
そうは言っても、その〝交渉〟は、決して気軽に当事者に押しつけて良いことではありません。
ハンディを感じる本人が自分の特性を理解し、伝える過程にはサポートが要る場合もあるでしょう。そして受け手の側にこそ、理解し、変わるための準備が求められます。
こうした条件がそろって初めて、障害の開示は、当事者のための前向きな選択肢になるのだと感じました。