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連載

#148 鈴木旭の芸人WATCH

〝即興コント〟で光る中堅芸人の技量 アドリブ生ピアノで笑いの物語

『しくじり先生』メンバーだからこその気の利いたアドリブとチームワーク

オードリーの若林正恭(左)と平成ノブシコブシの吉村崇=2015年、篠田英美撮影
オードリーの若林正恭(左)と平成ノブシコブシの吉村崇=2015年、篠田英美撮影 出典: 朝日新聞社

目次

今月4日、即興コントを演じるバラエティー番組『そのコントやってみます』(テレビ朝日系)の第2弾が放送された。同番組が従来のコント番組と違った魅力を放つのはなぜか。他番組との比較、アメリカの主流コメディージャンルとの類似点からその核心に迫る。(ライター・鈴木旭)

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演者と演奏者が笑いを生み出す

昨年の放送で好評を博した『そのコントやってみます』が、アップグレードして帰ってきた。

出演メンバーは、オードリー、ハライチ、アルコ&ピース、平成ノブシコブシ、そしてゲストの朝日奈央。昨年、平成ノブシコブシは吉村崇のみで、ゲストのベッキーを加えた8人体制だったが、今年は徳井健太を含む9人体制での舞台となった。

タイトルの通り、出演者はスタジオの観覧客を前に台本なしの「即興コント」を披露していく。参加人数や配役も流れによって決まり、シーンごとにアドリブの生ピアノも演奏されるため、まさにその場で演者と演奏者が物語や笑いを生み出していくのが醍醐味だ。

前回は、番組側で用意した箱の中からお題のくじを引き、「設定」「途中で入れるべきミッション」「オチ台詞」を決定したが、今回は、同じ要領ながら実力派コント師のかもめんたる・岩崎う大、元ゾフィー・上田航平、ダウ90000・蓮見翔が考えた「設定」「オチ台詞」を決行。考案者3人がコントを見届け、感想を語る演出も見応えがあった。

朝日奈央のポテンシャル

TVer限定配信の【お蔵入りコント】を含めた6本のうち、特に印象に残ったのが「夜中 中学校 タイムカプセル」「夢叶えてんじゃん」(蓮見)のお題で生まれたコントだ。

中学時代の同級生、オードリー・若林正恭と春日俊彰、アルコ&ピース・平子祐希と酒井健太が同窓会を終え、酔っ払いながら学校と思しき場所にやってくる。優しげなピアノが流れる中、ベロベロの平子が「タイムカプセル埋めたべ?」「久々の同窓会を機にだよ、掘り返そうじゃない」と提案。賛同した3人と辺りを探し始める。

やがて平子が大きな箱を見つけ、約15年ぶりに中身を確認する一同。まずは平子が派手なドクロのネックレスを取り出し、「いとこの兄ちゃんにもらったって言ってたんだけど、本当はジャンプの裏表紙の通販で買った」とぶっちゃける。

続いて、縦笛を手に取った春日は「自分のじゃないけど」としらを切るが、「音楽のさ、木下先生の」と腹をくくったところ、酒井から「男じゃん!」とふっかけられて「あこがれだよね。だから、今体鍛えてるし」とタジタジになった。

ひとしきり思い出の品で盛り上がり、最後に見つかったのが中学時代に春日が書いた手紙だ。内容は、「15年後も平子、酒井、若林、朝日で仲良くできてたら俺は幸せだ」というもの。若林が手紙を読み終わると、突如セーラー服を着た朝日が姿を見せる。「懐かしいー!」と一同を指差してはしゃぐも、誰も朝日の存在に気付いていないようだ。

それを気にも留めず、楽しそうに朝日は4人をイジっていく。途中、縦笛を手に「さっき嘘ついたろ。これ、私のなんですけど」と春日にクレームをつけて笑わせるシーンは、朝日のポテンシャルの高さをうかがわせた。

また、学生時代のエピソード、手紙の内容が積み重なり、ラストで朝日が明るく言い放つ「夢叶えてんじゃん」にグッとくるものがあった。ネタ終了後、お題を出した蓮見も「朝日さん(の演技)がすごい切なくて。なんか本当に(終盤の伏線回収でほろりとする)単独ライブの5本目みたいだなって」と感慨深そうにしていたのが印象的だった。

タレントの朝日奈央=2019年11月、大阪市北区、杢田光撮影
タレントの朝日奈央=2019年11月、大阪市北区、杢田光撮影 出典: 朝日新聞社

アドリブとチームワークによるコント

現在でも『新しいカギ』(フジテレビ系)、『有吉の壁』(日本テレビ系)など、コントが披露されるバラエティーはあるが、『LIFE!』(NHK総合)のようにスタジオコント中心の番組は珍しくなった。

「長期不況による番組制作費の削減」「コスパの良いロケ企画がヒットしやすい」「若者のテレビ離れ」などの背景が考えられる中、半年で5億回再生を突破した縦型ショートコント『本日も絶体絶命』や『有吉の壁』の企画『京子お嬢様と執事』といったスマホ向けコンテンツも生まれている。ネタの長さや見せる場所を変え、まずは若者にコントを見る習慣を持ってもらおうという動きだろう。

興味深いのは、『そのコントやってみます』がそうしたコントとは別の軸と魅力を持っていることだ。最初に「設定」「オチ台詞」が決まり、おおよそのイメージがついたところで演者は舞台へと飛び出し会話を始め、これにプラスして生ピアノがシーンの方向性を決定づけていく。つまり、参加者の技量と信頼関係こそが重要になるコントだ。

『開演まで30秒!THEパニックGP』(日本テレビ系)も、「30秒以内に参加人数とお題に沿ったネタを考えて即興コントを披露する」という大枠はほぼ同じだが、MCの千鳥・大悟と審査員の麒麟・川島明が見届ける部分で大きく違う。例え即興コントがグダグダになったとしても、彼らがツッコむことによって笑いは担保されるからだ。

見届ける側の技量や安心感がベースにある番組という意味では『そのコントやってみます』と真逆のコンセプトであり、むしろベテランMCらが若手を見届けるネタ番組に近いシステムを踏襲しているように思う。

一方で、『そのコントやってみます』は、アメリカで主流のコメディージャンル「インプロ(improv:即興劇)」を彷彿とさせる。インプロは舞台上の演者が観客からお題をもらい、その場で場所や人間関係、職業などを決め、ピアノ演奏を入れたりして芝居を展開させるコメディーだ。日本でも、インプロのノウハウを生かした吉本興業の即興コメディーショー「THE EMPTY STAGE」をはじめ、ライブシーンで少しずつ浸透しているが、いまだ馴染みのあるパフォーマンスとは言い難い。

気の利いたアドリブとチームワークで観客を楽しませる即興コント。これができるのは、『しくじり先生』(テレビ朝日系)のレギュラー陣を軸とするメンバーゆえだろう。各々が長年培った経験値とつながりの深さが『そのコントやってみます』を成立させていると、第2弾のクオリティーを見て改めて痛感した。

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