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#5 #アラサークライシス
26歳「稼げるスキルを持っておかないと」焦り…アラサークライシス
「どういう仕事が向いていると思う?」チャットGPTが壁打ち相手に

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#5 #アラサークライシス
「どういう仕事が向いていると思う?」チャットGPTが壁打ち相手に
もう、仕事はできて当たり前の年齢になったんだ――。20代半ばから30代に陥りがちな漠然とした不安や悩みは、「クオーターライフクライシス(QLC)」と呼ばれます。福岡から東京に出てきた会社員の女性(26)は、20代後半にさしかかったことで、これまでになかったキャリアの不安を感じるようになりました。
「どういう仕事が向いていると思う?」
地下鉄での通勤時間。ベンチャー系のコンサル会社で働く女性(26)は、対話型AI「チャットGPT」にキャリア相談をすることが増えました。
自分の性格や強みをスマホに打ち込んで問いかけると、かえってくるのはあたりさわりのない答え。でも、「自分のやってきたことや強みが、世間一般からどう見られるか、立ち位置がなんとなくわかる。壁打ち相手にはとってもいい」と話します。
「いまのタイミングでちゃんと転職をしないと、自分のキャリアが上向いていかないんじゃないか。いまの会社にいたままでは、成長が止まってしまうんじゃないか。そんな不安で、赤い警告ランプがぴかぴか光っているような気分です」
福岡県出身の女性は、声優の仕事を目指して22歳で上京しました。しかし養成所で周囲のレベルの高さに自信をなくし、眠れない日々が続くように。声優の道をあきらめて仕事を探していたとき、知人に紹介されたのが今のコンサル会社でした。
「自分は大学を出ていなくて、基本的なビジネスのスキルもない。このときはとにかく、履歴書に書ける『正社員』という肩書がほしいと思いました」
まずアルバイトとして採用された女性は、持ち前のバイタリティーで資料作成や役員のサポートをこなし、「自分でも予想以上の成果を出せた」と振り返ります。
約1年で正社員に昇格。プロジェクトの進行管理も任されるようになっていきました。ベンチャー企業らしい激務もありましたが、その分達成感も大きかったといいます。
「最初の2年はとにかく伸びしろがあって、自分の成長が目に見えて、めちゃめちゃ楽しかったんです。成果を出せばみんなに感謝されて、給与にも反映される。社内には有名大学の人もいるなかで、私意外とできるぞ、これだけやれるぞ、と自信もついていきました」
そんな気持ちにかげりが見え始めたのは、会社に入って3年目。26歳を迎えるタイミングで、周囲の反応が変わっていったといいます。
「仕事先とかで年齢を聞かれて答えたとき、25歳までは、『若いのにめっちゃ仕事できるね!』と好意的に受け止めてもらえることが多かった。でも、『26です』ってなったら、反応が全然違うんです。『あー26かー』って」
「『仕事はできて当たり前の年齢』にさしかかったんだなあ、と感じさせられました。世間の26歳には、自分より仕事できる人はいっぱいいるだろうし、その人たちに追いつきたい、という気持ちも出てきました」
同じころ、会社の業績が悪化。先行きの不透明さが高まっていきました。小さな組織のなかで、ひとつの価値観に染まることも心配になってきました。同年代の友人たちのなかにも、仕事を始めて3、4年目で壁にぶつかり、転職を考える人が増えてきたといいます。
転職エージェントに相談すると、感触は悪くなかったものの、「未経験の業種にチャレンジするなら、早いほうがいい」とアドバイスを受けました。
「20代の前半は、『若さ』や『可能性』を評価してもらえました。でもこれからは、自分の実績や能力を定量的に示さないと、評価されなくなっていく。30歳までにきちんと転職できないと、選択肢がどんどんせばまっていくんじゃないかって不安を持つようになりました。カウントダウンが始まっているような」
地元の福岡県にいた20歳のころ、女性がショックを受けたのが、金融庁が公表した「老後の生活費が約2千万円不足する」という試算のニュースでした。
その1年後には、コロナ禍が深刻化し、バイト先の飲食店が休業を余儀なくされ、苦しむ様子を目の当たりにしました。
通っていた声優の専門学校でも、イベントでの司会の仕事が次々なくなっていく実情を聞かされました。
「とにかく自立して働き続けないと食べていけない。それに、不測の事態が起きても安定して稼げるスキルを持っておかないとまずい」という思いが強くなり、「キャリアアップを通じて自分の武器を増やしていかないといけない」といういまの価値観につながっていったといいます。
最近はとあるビジネスカンファレンスの運営に参加し、その活動が表彰されました。「同世代の優秀な人の中でも、ある程度は輝ける実力を私は持っているんだ」と、漠然とした不安がいくらかやわらいだ、といいます。
「今できるのは、こつこつ実績を積み重ねていくこと」。そう考えながら、転職活動に向き合い始めています。
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