「小さく産んでごめんね」。2500g未満で生まれた低出生体重児の母親に取材をしていると、必ずと言っていいほど自分を責めるような言葉を耳にします。早産や妊娠トラブルの原因ははっきりと分からなくても、おなかの中で育ててきた命を思うからこその感情なのかもしれません。NICU(新生児集中治療室)で多くの家族と接してきた小児科医「ふらいと先生」こと今西洋介さんに、母親へ伝えてきたメッセージや、その背景にある大切なことを聞きました。(聞き手:朝日新聞withnews編集部・河原夏季)
<今西洋介さん(ふらいと先生)>
1981年、石川県金沢市生まれ。新生児科医・小児科医、小児医療ジャーナリスト、一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。X(
@doctor_nw)のフォロワーは14万人を超える。3姉妹の父親。著書に
『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)、
『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)。ふらいと先生のニュースレター(
https://flight.theletter.jp/)を配信。現在はアメリカで子どもの疫学を研究している。
ーー低出生体重児の母親の多くが、「子どもを小さく産んでしまった」と自分のことを責めてしまいます。
今西さん:NICUで診察してきましたが、母親から一番多い質問は「私が何かしたからでしょうか」でした。
例えば、「どこかの工場の煙を吸ったから赤ちゃんの肺が悪くなったのか」「妊娠中に何かしたから障害があるのか」というような内容です。
障害や病気の受容では、否定や疑問は大事なプロセスですが、全部が全部お母さんのせいではありませんし、お父さんのせいでもありません。明確に原因が分かっていないことは、「違います」と伝えるようにしています。
これは漫画『コウノドリ』(講談社)でも描かれていたのですが、自責や否定の念が強く、「自分のせいでこうなった」と思ってしまうお母さんは、NICUを訪問する機会が減ってくるんです。面会に来なくなり、母乳も届かなくなってしまいます。
お母さんやお父さんが面会して赤ちゃんにタッチする回数が多ければ多いほど、赤ちゃんの成長速度や体重増加は早いというエビデンス(※)もあります。
面会に来られなくなると赤ちゃんへのデメリットが非常に大きく、退院後の生活にも関わってきます。親が受け止められずに虐待や不適切な療育につながることもあるため、疑念や否定についてはベッドサイドでなるべく時間を取ってお話をするようにしています。
※O'Brien K, et al. Lancet Child Adolesc Health 2018;2(4):245-254
ーーどのように話すのですか?
今西さん:NICUではクベース(保育器)の横にお母さんが座っていますが、必ず目線を同じようにして「お母さんのせいではありませんよ」とお伝えします。
医療者と患者さんではもともと力関係があると思いますし、上から話すと心理的にご家族が聞きたいことを聞けなくなってしまいます。
これは医療の基本で、成人の医療の場合もベッドサイドではイスに座って目線を同じにして話さないと相手に話が入っていきません。
ーー自責の念を抱えてしまうのは、日本人の自己肯定感の低さも関係しているのでしょうか? 例えばアメリカではどうですか?
今西さん:それはあるかもしれませんが、アメリカとは宗教的な考え方の違いもあると思います。
アメリカで信心深い人は特に、「神様がこの赤ちゃんを選んであなたに授けた」と思う傾向があります。キリスト教の考え方が強く、「この子の運命だ」と考えるお母さんが多くいます。
しかし、この考えは日本の医療者にはタブーです。医療者がお母さんに「この子はあなたを選んで生まれてきたのだから、しっかりしないと」と言ってしまうと、それは〝十字架〟になってお母さんを追い詰めてしまいます。
「子どもの障害は母親のせいだ」と押しつけるような考え方は、お母さんのメンタルヘルスにとってよくありません。
ただ、子どもを思う気持ちがあれば、お母さんに自責の念は絶対に生まれるので、必要なプロセスではあると思うんですよ。
ーー自責の念は、自然な感情なのですね。
今西さん:我々は「お母さんのせいではありませんよ」と伝えますが、その言葉でお母さんの気持ちをすべて消そうとは思っていません。自責の念は消えずにどこかに残っているものです。
しかし、我々は専門職として「お母さんのせいではない」と伝える責務があります。
感染症などが原因で赤ちゃんに影響が出てしまうこともありますが、それを「親のせいで」とは言いません。
治療やリハビリで赤ちゃんの状態を良くしていくことが最優先です。愛着形成という意味でもなるべく自責の念を減らせるようにしています。