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「京佳お嬢様と奥田執事」ヒットの理由 『有吉の壁』根底にある姿勢

もはや「壁」発祥であることを知らない人もいるような、数々の有名キャラクターを輩出してきた番組から、新しいヒットコンテンツが誕生している。※画像はイメージ
もはや「壁」発祥であることを知らない人もいるような、数々の有名キャラクターを輩出してきた番組から、新しいヒットコンテンツが誕生している。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

今年1月、『有吉の壁』(日本テレビ系)で大きな反響を呼び、SNSアカウント開設、 縦型ショートドラマ化にまで至った「京佳お嬢様と奥田執事」。これまでにも「TT兄弟」や「KOUGU維新」といった人気者を輩出してきた同番組が、今もなお新たなスターを生み続ける理由とは何か。まさに時の人である奥田執事ことガクテンソク・奥田修二に取材で聞いた感想を含め、SNS時代に支持され続ける番組の特徴を考える。(ライター・鈴木旭)
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「京佳お嬢様と奥田執事」誕生秘話

1月29日から、「有吉の壁」公式YouTubeや「京佳お嬢様と奥田執事」公式TikTokなどにおいて週1回ペースで更新されている縦型ショートドラマ「京佳お嬢様と奥田執事」(全6話)が好評を博している。

本作は、1月8日に放送された『有吉の壁』(日本テレビ系)の企画「即興男女ユニットの壁を越えろ!おもしろ千客万来の人選手権」の中で、ぱーてぃーちゃん・金子きょんちぃとガクテンソク・奥田修二が披露したコントから派生したものだ。

出演者たちはくじ引きで男女ユニットを組み、ロケ地である東京・豊洲の施設を舞台にキャラとシチュエーションを考える。この自由度の高さが、実に『有吉の壁』らしい。カツラやお面、派手な衣装など、見た目を工夫して笑わせるユニットが多い中、元の容姿とキャラを生かして爪痕を残したのがきょんちぃと奥田だった。

漫画やドラマで誰もが一度は見たことがあるであろう、「じゃじゃ馬のお嬢様とそれに翻弄される執事」という関係性。ここにきょんちぃのギャル要素と、奥田のメガネ、サイド刈り上げの短い黒髪、ダブルのスーツ姿がピタリとハマり、妙なリアリティーを感じさせた。

虚無僧笠を被り、柱の陰から呉服店にいるきょんちぃを見守る奥田。両手に買い物かごを提げた不満たらたらの奥田に、突然プレゼントを渡して感激させるきょんちぃ。困惑する中年夫婦を手助けするきょんちぃに胸を打たれる奥田……。大抵の場合、いつの間にかきょんちぃがその場から離れており、奥田が「あの、おてんば娘~!」などと大声を上げながら後を追ってラストを迎える。

1月14日放送の『喋るズ「橋本・奥田の銀銀学学」』(TOKYO FM)によると、「京佳お嬢様と奥田執事」が生まれたきっかけは、全くアイデアがないまま衣装や小道具のある一室に入り、まずきょんちぃが「寒いから、これ着ていい?」と防寒目的で毛皮を着始めたこと。

それを見て「上品になったな」と思った奥田は、自前のスーツのポケットに、以前、何かで使った蝶ネクタイが入っていることに気付く。そこで「執事とお嬢様……、これで行くしかない」とぶっつけ本番に臨んだという。

ショートドラマの第1話が番組公式YouTubeやTikTokで配信されて間もなく、筆者は後述する取材で奥田にインタビューしている。その際、「20年考えに考えた漫才じゃなくて、2分で考えた執事がバズる世の中なんですね。何があるかわからないですよ」と、しみじみと語っていたのが印象的だった。
 

テレビから動画への連携と熱量の高さ

『有吉の壁』の影響力は絶大だ。前述した企画「即興男女ユニット~」の放送後、すぐにSNS上で「奥田執事」がトレンド入りを果たし、ファンアートやショートストーリーが続々とあふれる事態となった。

この勢いに乗って、1月10日には番組スタッフがX上に「京佳お嬢様と奥田執事」の公式アカウントを作成。4日でフォロワー4万人超え(13日現在、5.6万人)を果たし、投稿されるごとに常に高いインプレッション数を記録している。

すでに撮影が終了したというショートドラマも、順調に再生回数を伸ばしている。奥田が置き忘れた手帳をダシにきょんちぃがからかったり、きょんちぃが「だって、京佳には奥田がいるもん」と口にして先ほどまで怒っていた奥田を涙させたりする内容は、ファン心理をくすぐるものがあるようだ。

ヒットの背景には、半年で5億回再生を突破した縦型ショートコント「本日も絶体絶命。」など人気コンテンツを担当する「QREATION」が制作を手掛けている点も大きいだろう。

同社は、日本テレビの局員時代に『有吉の壁』や『マツコ会議』など数々の人気番組を手掛けてきた演出家・ディレクターの橋本和明氏が取締役兼チーフ・ディレクターとして参画している。

テレビからSNS、ショート動画への展開がスムーズだったのは、これまでの経験値もあってのことではないだろうか。また、橋本氏自身が大学時代にコント集団を結成し活動していたからこそ、高い熱量を持ってお笑いコンテンツの制作に向き合えるのかもしれない。

昨年10月末、『最強新コンビ決定戦 The ゴールデンコンビ』(Amazonプライム・ビデオ)の配信記念イベント終了後、優勝コンビに対し数社のメディアがリレー形式で行う取材記者のひとりとして筆者も参加した。そこに企画・演出を務める橋本氏も同席し、最後までしっかりと見届けていた姿が忘れられない。
 

今の時代にアジャストする番組

「日本のテレビより(筆者注:『ゴット・タレント』をはじめとする)海外のオーディション番組を優先していることが多いですね。『有吉の壁』だけですね。『有吉の壁』を避けてスケジュール取ってる」<2024年7月放送の『情熱大陸』(MBS/TBS系)「芸人 とにかく明るい安村」より本人の発言>

『有吉の壁』は、大勢の芸人がひな壇に座ってトークを繰り広げるバラエティーが全盛だった2015年に深夜特番としてスタート。有吉弘行が前述の橋本氏に「ネタ芸人が活躍できるお笑い番組がやりたいね」と語ったことが番組立ち上げのきっかけになったという。レギュラー出演者が番組に対する思い入れが強いのはそのためだろう。

街や施設を使ってコントを披露するフォーマットは、シンプルに深夜番組でセットを組む予算がないという苦肉の策から生まれている。番組スタッフさえも「どうやったら面白くなるか」を模索しながらロケを決行する中、“理髪店で髪を逆モヒカンに刈る”という安村の思い切ったパフォーマンスがコアなファン層から支持された。

スタジオ収録でのコーナー企画「ブレイク芸人選手権」では、チョコレートプラネットによるTT兄弟が誕生。彼ら自身がTikTokやYouTube、他局のネタ番組などで披露したこともあり、一気に世間に浸透。昨年、米国の人気オーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に「TT Brothers」として挑戦し会場を沸かせたことも記憶に新しい。

そのほか、きつねを中心に結成された“ちょいダサ”が売りの2.7次元アイドル「KOUGU維新」が話題となってテレビ、YouTube、雑誌などメディアの垣根を超えて活躍したり、“どこにも効かないエクササイズ”を披露するジャングルポケットの「ストレッチャーズ」が企業CMに起用されたりと、番組によって注目を浴びた芸人は数多い。

テレビが「オールドメディア」と揶揄される前から、コント番組は減少の一途をたどっていた。さらに言えば、スマホ動画の視聴を習慣とする若年層は、そもそも“じっくりとコント番組を見る”経験がないまま今に至っている。テレビ関係者から聞いた話によると、子どもや若者から支持される人気バラエティーでもコントが始まった瞬間に視聴率がガクッと下がることがあるそうだ。

『有吉の壁』は、この大きな課題に立ち向かっている。大勢の芸人たちが立て続けに短いネタを披露し、あえて今の時代にヒットしそうなものにチャレンジし、「有吉の壁 カベデミー賞 THE MOVIE」のような映画化やリアルライブへと展開させていく。「京佳お嬢様と奥田執事」もまた、番組側が今の時代にアジャストする中で生まれたヒットコンテンツだと感じてならない。
 

「若い頃に東京に来てたら溺れてました」

SNS文化が盛況し、タレントやテレビ関係者も個別にアカウントを持って情報を発信することが珍しくなくなった。これに加え、ガクテンソク・奥田は、東京と大阪でも大きな違いがあると語っていた。

「若い頃にいろんな仕事がある東京に来てたら絶対に溺れてましたよ。大阪はわかりやすいピラミッド形で、ただ上を目指せばよかったけど、東京って立方体の水槽の真ん中に置かれてるようなもので、どっちに行っても頂点があるから目指すべき方向を見失ってたと思う」<『週刊プレイボーイNo.8』(集英社)の「"本"人襲撃」より>

奥田自身が思いついた“お嬢様と執事”とはいえ、『有吉の壁』の放送後にネット上で大バズりし、早々に公式アカウントが作成され、ショートドラマ化に至る展開は予想だにしなかっただろう。

そこが現代らしい面白さであり、幅広いジャンルの業界が交差する東京だからこそ起こり得るシナジー、もしくはカオスなのかもしれない。
 

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