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連載

#27 #令和の専業主婦

「絶滅危惧種の専業主婦です」と卑下…葛藤の末〝これは家族の問題〟

「専業主婦ってそんなに悪いことなのか」

「たまには良いお母さんするぞ!と意気込んで、本気で子どもたちと遊んでいます」という女性=女性提供
「たまには良いお母さんするぞ!と意気込んで、本気で子どもたちと遊んでいます」という女性=女性提供

目次

「いまや絶滅危惧種の専業主婦です」――。
自らが選び、誇りを持って子どもたちの成長を見守っていたはずなのに、周りからの視線を受けて、自身を卑下してしまった。そのことに後悔をしつつ、「専業主婦は悪いことなのか?」と自問自答を繰り返した経験を持つ女性に、その思いを聞きました。

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「お母さんをちゃんとやりたかった」

都内に住む32歳の女性は、個人事業主として働いていますが、4年ほど前までは、専業主婦として生活をしていました。

「粉ミルクの『スプーンすり切り1杯』を正確に計ろうと神経をとがらせ、離乳食もグラム単位で用意するような、まじめな母親でした」

女性が第1子を妊娠したのは25歳のとき。放送業に携わる仕事をして5年が経った頃でした。独立して間もないころでもあり、仕事も立て込んできた時期でした。

当時、フリーランスだったこともあり、育休や産休の保障が十分に得られる立場ではなかったことなどから、同業者に仕事を引き継ぐなどして、専業主婦の道を選びました。

当時、仕事を辞めることに「葛藤がなかったといえば噓になる」という女性。ただ、仕事と母親業を天秤にかけたときに、「お母さんをちゃんとやりたかった」と、納得しての決断でした。

「母親が専業主婦で、出産で仕事を辞めることは普通だと思っていました。それに、持論ですが、子どもが産まれたら家族、とりわけ子どもありきの生活になるので、子育てをがんばる時期にしたらいいという考えです。子どもが手を離れてから、復帰したらいいと考えていました」

子どもたちと拾ったドングリ=女性提供
子どもたちと拾ったドングリ=女性提供

次第に感じ始めた「世間」とのずれ

そして始まった、母親業がメインの生活。
周りには自分と同じように専業主婦の生活をしている女性が多かったといいます。「同じような境遇の人たちと、同じようなタイムスケジュールで生活をしていました。『(子どもが)食べないよね』『寝ないよね』『子育てって大変だよね』と、悩みも共有していました」

第1子と2歳差で第2子を授かりましたが、第1子が幼稚園に入園した頃からは少しずつ余裕が出てきたといい、旧交を温める時間もできてきました。

かねてより仲の良かった友人は、当時仕事がメインの生活。「ママ友」とは違った視点を持っていたといいます。

「私のことを否定こそしなかったものの、『働いていない人』『働いていないから自由に使えるお金がない人』といった価値観を、言葉の端々から感じとった」と女性。「専業主婦でいられることは幸せと思っていたのですが、世間にはそんな見方があるのだと知って、悔しかった」と振り返ります。

「世間」からの視線を感じる出来事は他にも。
子どもたちを預け、外食に出かけたときのことです。客同士で話をするうち、居合わせた人から「専業主婦なんだ」と驚かれたといいます。「かなしいかな、その場を盛り上げようとして『いまや絶滅危惧種の専業主婦です』と自己紹介してしまったんです」

「一馬力の稼ぎで生活が成り立っていて、私は専業主婦として子どもの成長を見守っていられました。初めて立ったとか、歩いたとか、全てを自分で見られるし、自分が作った食べ物で成長していく過程を見られるのは幸せなことだと思っていたんです」と、自身の立場に誇りを持っていましたが、周囲からの視線を受けて、自分の立場を卑下してしまったのだといいます。

「その頃から世間の感覚と自分の幸せがズレていることを知り、葛藤や焦燥感を感じました」

「普段からよく撮る」という子どもたちの後ろ姿=女性提供
「普段からよく撮る」という子どもたちの後ろ姿=女性提供

〝聖母マリア像〟のプレッシャー…息切れ

それらの経験を経た女性は、「自分も働こうかなと『思っちゃった』んです」。

「思っちゃった」の理由を聞くと、「子どもとずっと一緒にいることを、幸せでうれしいと感じなければならない『聖母マリア像のプレッシャー』があったんですよね。そのプレッシャーからいったん離れたいと思った自分は、いいお母さんではないんじゃないかと思った」とし、「専業主婦の矜持を持ってがんばりたかったけど、実際は息切れしたタイミングでもありました」と本音を漏らします。

そのタイミングで、知り合いの飲食店から週1回のアルバイトの打診を受けました。

「たかが週1のアルバイトですが、それまでの数年のブランクを負い目に感じていたこともあり、悩みに悩んで仕事を受けました」

ただ、そこで働き始めたという決断は「すごくよかった」と振り返ります。

「ひとつの世界しかないと視野が狭くなるタイプ」と自分を評す女性は、仕事という軸ができたことで、より家庭を大事にできるようになったのだといいます。

一方、専業主婦だった頃の自分を後悔しているわけではないと強調します。「根詰めてやっていた頃の自分には『よく頑張ったね』と言ってあげたいし、マンツーマンで子どもと向き合ったからこそ得られた自信がある」

「ちいさな体で、いろんなことを考えて、毎日頑張っているんだな…と、妙に愛おしくなります」という子どもたちの後ろ姿=女性提供
「ちいさな体で、いろんなことを考えて、毎日頑張っているんだな…と、妙に愛おしくなります」という子どもたちの後ろ姿=女性提供

専業主婦ってそんなに悪い?

当初は専業主婦としての矜持を持って母親業に邁進。しかし周囲の目線などが葛藤につながり、現在は仕事を再開した女性。いま思うのは、「専業主婦ってそんなに悪いことなのか」ということだといいます。

「ママ友」たちと話している中で、女性がよく聞いたというのが、後ろめたい気持ちがこもった「私、働いてないからさ」「あのお母さんは働いているのに、子育てもしていてすごいよね」という言葉。他にも、「自分のためにお金を使うのはもったいない」と、がんばっているはずの自分の生活を否定するような言葉を何度も何度も聞いてきたといいます。

SNSでは定期的に、女性の働き方について「専業主婦」「ワーママ」をキーワードに意見が飛び交い、時にはそれぞれを否定するような意見対立も見受けられます。

「私が仕事に復帰できたのには、パートナーの働き方も関係してくる。そもそも、家庭のあり方は、子どもの数や年齢、健康状態、頼れる親がいるかどうかとか、その親と仲がいいかどうかなど、外的要因に大いに左右されます」と話す女性。「専業主婦かどうかは、個人の問題ではなく家族の問題。そう考えれば、専業・兼業の論争には、夫婦で立ち向かえる」と話します。

「女性が、専業でいることに罪悪感を抱えたとき、自分は半人前なのかもしれないと悩んだとき、世のママは家庭を回しながら収入も得ていると劣等感にさいなまれたとき、『うちはこれが一番だよ』『うちの幸せはこれだよ』と夫婦単位・家族単位で、認識することができれば、よけいな世間のノイズに惑わされず、自分の幸せを生きることができるのではないかなと私は思います」

    ◇
【#令和の専業主婦】
専業主婦として家庭内のケア労働を精いっぱいしているのに劣等感があったり、「諦めた」なんていう気持ちにさせたりするのは誰なのか? そんな社会を変えていくためのヒントを探したい。どうすればいいか、一緒に考えてみませんか?
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