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感染症が流行…そもそも「風邪」とは?意外と難しい診断、大事なこと
![さまざまな感染症が流行しますが、そもそも「風邪」はどのような病気なのでしょうか?](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/storage.withnews.jp/2025/01/17/7/58/7588cc5f-l.jpg)
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コロナへの感染予防策が緩和された後、2023年の夏には米国や欧州で細菌感染症が増えたという報告もあります[1][2]。この冬にはインフルエンザが大流行しました。今回は、「そもそも風邪とは?」をひもといてみましょう。(小児科医・堀向健太/ほむほむ先生)
『風邪』は、悪霊が吹かせる邪悪な風によっておこると昔は考えられ「風邪(ふうじゃ)」と呼ばれていました。
それが明治になって『風邪(かぜ)』と記載するようになったそうです[3]。
そして風邪は、『いくつかのウイルスによって引き起こされる良性の自然に改善する症候群である』と定義されています[4]。
そしてさらに風邪は、英語では『common cold』といいます。『common』というのは広く一般的なといった意味ですよね。
実際に風邪は多くのひとがかかり、そして、大人よりも子どものほうが風邪に多くかかります。たとえば2歳未満の子どもは年間6回、成人では2-3回、高齢者でも年間1回、風邪にかかるという報告があります[5]。
医師は『風邪』のことを、『上気道炎(感冒)』などとも呼びます。
ざっくりいうと、『のどより上が上気道』『のどより下が下気道』です。そのうちの上気道に感染を起こして症状を起こした病気ということです。
『上気道』といっても、のども、鼻も、気管も含んだかなり広い範囲にわたりますよね。
風邪のウイルスは鼻だけでなくのどや気管にも広がるので、『上気道炎(感冒)』と呼んでいるのです。
おおむね『風邪』とは、鼻症状(鼻みず、鼻づまり)、咽頭症状(のどの痛み)、下気道症状(咳、たん)の3系統の症状が「同時に」、「同程度」存在する病態と考えますが、それが理由です[6]。
風邪薬のCMなんて、『のど』『せき』『はな』に効くっていっていますものね。そんな症状がでてくるということです。
風邪の原因は、基本的にはウイルスです。
しかし、細菌とウイルスの区別はおもったほど知られていないようです。
厳密な話をするとむずかしくなるのですが、ここではざっくりその区別の仕方を解説しましょう。
ウイルスって、人間の体に感染して増えていきます。
いかにも『生き物(いきもの)』っぽく感じます。でも、ウイルスは『生物(せいぶつ)』ではありません。
なぜでしょう?
それは、ウイルスは『細胞』を持たないからです。
細胞というのは、例えるならば、住むための部屋みたいなものと考えればいいでしょうか。
細胞をもっている細菌は、自分自身だけで増えていくことができます。しかし、ウイルスは自分自身だけでは増えていくことができません。
ですので、ウイルスは人や動物に感染し人間の細胞のチカラを借りて増えていこうとします。自分自身のチカラで増えることが出来ないウイルスは、生物とはいえないのです。
『風邪』、すなわち『上気道炎』は、基本的にウイルスによっておこる病気です。
そのうち、最も多いウイルスは『ライノウイルス』というウイルスで、100種類以上もいることがわかっています。
『ライノ』というのはギリシャ語で『鼻』を意味します。つまり、ライノウイルスとは『鼻かぜウイルス』ということです。
『ライノウイルス』って、あまり聞いたことがないかもしれませんね。しかしライノウイルスは、症状のある子どもの『風邪』の原因の、24~52%も占めたという報告があります[4]。
『風邪』の典型的な症状を起こすウイルスなので、「ライノウイルス」というウイルスをもう少し深掘りしてみましょう。
風邪のウイルスは200種類以上存在します。
その中でライノウイルスは100種類から160種類もあり、A型、B型、C型にさらに分類でき、多少の差はありますが、症状から区別をするのは難しいです[7]。
9月から10月にかけて流行することが多く、『保育園にはじめて行き始めた年』の山ともいえるでしょう[8]。
ライノウイルスは季節ごとに重症化するリスクが異なり、冬のほうが悪化しやすいことが知られています[9]。
ライノウイルスの流行は春と秋にピークがあるものの、中等症から重症の疾患(moderate to severe illnesses; MSI)は冬のほうが多いことがわかります。
主な症状は鼻水や鼻詰まり、咳や発熱があります。まさに『風邪』の症状であることがわかります。
大人ではあまり発熱はなく、子どもでは発熱することもあります。潜伏期間は一般的に2から3日で、発症する1日前からウイルスが排泄されており、発症後2から4日でウイルス量がピークに達します。
ライノウイルスによる症状の中でも、一般的に鼻の症状が特に強く、最初に喉の痛みが出て、その後鼻水や鼻詰まりが現れます。咳や発熱は子供の3割程度に見られます。症状は大体1週間から2週間続くことが多いです。
ライノウイルスは、飛沫感染や直接の接触により感染します。
コロナウイルスと比較すると、ライノウイルスの感染力はそれほど強くはありません。ですので感染した場所には数時間ウイルスが生存している可能性があるため、共用のタオルなどには注意が必要です。
喘息のない方は、ライノウイルス感染による症状が鼻風邪で終わることが多いです。
しかし、喘息を持っている方は、症状が重くなることがあります。ライノウイルスに感染すると、上皮細胞からの情報伝達物質が増え、喘息の発作を引き起こしやすくなります。
秋から春先にかけては、ライノウイルスの感染が増えるため、喘息の発作も増えるとされています。アレルギー体質を示すIgE抗体が高いと、ライノウイルスに感染した際の発作が増えるとの報告もあります[10]。
治療に関し、喘息を持っている方は喘息の治療が重要ですが、ライノウイルスの風邪症状には特効薬はありません。
ライノウイルスに関する迅速検査、すなわち、コロナやインフルエンザのような鼻に綿棒を入れて検査をするような方法は一般的には存在しません。
ですので、症状の経過から診断することになります。
風邪は、さまざまな原因により起こるのでしたね。そもそも、『原因不明』の風邪も多くあります[11]。
では、そのような状況で、『風邪です』と診断するためにはどうすれば良いでしょう?
たとえば、3歳のお子さんが3日前から発熱、同時に咳、鼻水があって風邪かなと思って受診されたとしましょう。
家族のなかで10歳のお兄ちゃんは5日前から発熱はないけれども咳、鼻水があり、そしてお父さんお母さんは元気だけど、ちょっとだけ喉が痛いかもといった状況だとしましょうか。
クロスワードを埋めるように、相手を推測していくことになります。
例えば、それぞれのウイルスの潜伏期間(病原体に感染してから、体に症状が出るまでの期間)を考えていくとすると…
このようになります[12]。
耳なれない『95%信頼区間』とは、ざっくりいうと、100人の人の感染があったとして、95人はその日数にはいるという意味合いです。
小児科医は、こんなことを頭に思い浮かべながら、推測するための情報をお聞きしていきます。
お兄ちゃんから感染した可能性があって、潜伏期間や症状からはライノウイルスかな…
お父さんお母さんはコロナのワクチンをされているだろうか…
もしワクチンをされていなければ、もっとはっきり症状がでているかな…
インフルエンザは今は周囲で流行はしていないけど、もしかして保育園では流行していないかな、聞いておいたほうがいいかな…
(たとえば流行状況がわかっているとして)RSウイルスは流行中だから、可能性はあるな…RSウイルスだと、もっと小さなお子さんだと悪化する可能性が高まるけど、弟さんや妹さんはいらっしゃらないかな…
なんていうことを考えながら、たとえばアデノウイルスらしい喉の赤みなどはないかどうかを確認していくわけです。
症状のそろい方。
熱の揺れ動き、すなわち熱型。
潜伏期間。
家族の感染がないか。
今までの治療歴は。
過去の病気は。
…などをお聞きしていき、そして診察をし、必要ならば検査をと考えていくのです。検査と同様、いやそれ以上に、この病歴こそが重要になるのです。
では、診断が難しくなるのはどういったときでしょう。
『病歴がわからないとき』です。
診断力が大きく下がってしまうのですね。
現在、さまざまな感染症が同時に流行しています。鑑別をするべき犯人像が、多種多様にあるといえます。
そのようなときにも、診断がむずかしくなってしまいますよね。
思った以上に風邪の症状を診断することは敷居がたかいことがあるのです。
最初に、風邪の定義は『風邪は、いくつかのウイルスによって引き起こされる良性の〝自然に改善する〟症候群である』とご紹介しました。
すなわち、「結果的に」改善したのであれば、風邪だったといえます。
しかし、結果がみえていない段階では、将来どうなるかを予想するためには、情報を共有しながら、診断を的確に考えられるように、患者さんと医療者とで情報を共有する必要性があるのですね。
さて、こんなに偉そうなことをいいながら、私も百戦百勝ではありません。
風邪診療は奥深いです。まだまだ勉強です。
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