IT・科学
マラソン大会ランナーの心停止 救う国士舘大の「モバイルAED隊」
![ランナーの救護にあたる国士舘大学のモバイルAED隊。AEDや救護品を背負ってコースを巡回しています](https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/storage.withnews.jp/2025/02/02/d/42/d42f55a1-l.jpg)
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たくさんの市民が楽しんでいるマラソンですが、心停止を起こす人数がもっとも多いスポーツでもあります。国士舘大学の防災・救急救助総合研究所の「モバイルAED隊」は、20年以上にわたってマラソン大会でAEDを背負って救護にあたっている先駆者です。どんな活動をしているのか、現場を取材しました。(withnews編集部・水野梓)
1月19日に東京都北区の河川敷で開かれた、第16回東京・赤羽ハーフマラソン。救護本部テントのそばで、国士舘大学モバイルAED隊のメンバーがリュックの中身を点検していました。
AEDや血圧計、ブランケット、絆創膏やガーゼなどが入っています。
AED隊は救急救命士と国士舘大学の学生の2人1組で活動します。今回は7隊が、1.5キロ間隔で配置につきます。
ミーティングでメンバーがマニュアルを見ながら、配置場所や傷病者が発生した場合の対応について確認します。
ひとりがZoomをつないだスマホを身につけ、自転車に乗ってコース上を巡回し、リアルタイムで救護本部に情報を共有します。
群馬県館林市から参加した救急救命士の小島康志さんは「国士舘大学のAED隊の活動は非常に先進的なもの。私も地元のマラソンの救護活動で活用させてもらっています」と語ります。
街中で開催されるマラソン大会は、陸上競技場のトラックなどと違ってコースが長いため、「どこで傷病者が発生したか」の把握が難しい面があります。
国士舘大学准教授の喜熨斗(きのし)智也さんは「特に河川敷でのマラソン大会は、目印になる建物の説明が難しく、位置情報を把握することが大事です」と指摘します。
AED隊では今回の大会から、日本AED財団が開発した救命スポーツアプリ「RED SEAT」も使い始めました。
配置についたメンバーのスマホの位置情報で、それぞれの位置が把握でき、救護者が発生した場合も位置が分かります。
チャット機能もあるため、救護本部のメンバーから「5km部門がスタートしました」といった情報も発信されます。
今回の大会では、心停止といった重症の傷病者は発生しませんでしたが、喜熨斗さんは「ランナーにいつ起きるか分からないのが心停止です。東京マラソンでは約4万7千人に1人の割合で起きています。特にマラソンの後半に多いというデータがあるので、救護体制を強化する必要があります」と語ります。
2004年に市民にAEDが解禁されてから、AEDを背負ってスポーツ大会で救護活動にあたっているモバイルAED隊。2007年に始まった東京マラソンも、第1回から救護サポートにあたり、心停止に陥ったランナーをAEDで助けました。
喜熨斗さんによると、2024年11月までに380大会で救護にあたり、参加した競技者はおよそ272万9千人。そのうち心肺停止になったのは45人で、約6万人に1人という割合で起きていました。社会復帰率は93.3%といいます。
心臓が止まっていた場合、AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下します。一方で、救急車が119番通報を受けてから現場に到着するまでの時間は、2022年に全国平均で約10.3分となり、初めて10分を超えました。
倒れた人の意識がなく、呼吸があるかどうか分からない場合、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)をして、AEDのパッドを貼ってショックが必要かAEDに判断してもらうことが重要です。
喜熨斗さんは「心停止を起こしやすいのは男性が多く、フルマラソンを3時間半から4時間半で走る競技者が最も危険です」と話します。
活動を続けるなかで、スポーツ現場では「AEDが必要」という認識が広まっていることも感じているそうです。
「東京マラソンでは、モバイルAED隊が到着する前に、観客やランナーが心肺蘇生にあたって、駅のAEDを取りにいってくれて、到着時には呼吸が戻っていたケースもありました」と言います。
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