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マラソン大会ランナーの心停止 救う国士舘大の「モバイルAED隊」

ランナーの救護にあたる国士舘大学のモバイルAED隊。AEDや救護品を背負ってコースを巡回しています
ランナーの救護にあたる国士舘大学のモバイルAED隊。AEDや救護品を背負ってコースを巡回しています 出典: 水野梓撮影

たくさんの市民が楽しんでいるマラソンですが、心停止を起こす人数がもっとも多いスポーツでもあります。国士舘大学の防災・救急救助総合研究所の「モバイルAED隊」は、20年以上にわたってマラソン大会でAEDを背負って救護にあたっている先駆者です。どんな活動をしているのか、現場を取材しました。(withnews編集部・水野梓)

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コースを巡回、救護本部に情報を共有

1月19日に東京都北区の河川敷で開かれた、第16回東京・赤羽ハーフマラソン。救護本部テントのそばで、国士舘大学モバイルAED隊のメンバーがリュックの中身を点検していました。

AEDや血圧計、ブランケット、絆創膏やガーゼなどが入っています。

AED隊は救急救命士と国士舘大学の学生の2人1組で活動します。今回は7隊が、1.5キロ間隔で配置につきます。

リュックに入った救護品をチェックするAED隊のメンバー
リュックに入った救護品をチェックするAED隊のメンバー 出典: 水野梓撮影

ミーティングでメンバーがマニュアルを見ながら、配置場所や傷病者が発生した場合の対応について確認します。

ひとりがZoomをつないだスマホを身につけ、自転車に乗ってコース上を巡回し、リアルタイムで救護本部に情報を共有します。

群馬県館林市から参加した救急救命士の小島康志さんは「国士舘大学のAED隊の活動は非常に先進的なもの。私も地元のマラソンの救護活動で活用させてもらっています」と語ります。

マニュアルを手に、メンバー同士で配置場所や体制をチェックします
マニュアルを手に、メンバー同士で配置場所や体制をチェックします 出典: 朝日新聞社

アプリ「RED SEAT」で位置を把握

街中で開催されるマラソン大会は、陸上競技場のトラックなどと違ってコースが長いため、「どこで傷病者が発生したか」の把握が難しい面があります。

国士舘大学准教授の喜熨斗(きのし)智也さんは「特に河川敷でのマラソン大会は、目印になる建物の説明が難しく、位置情報を把握することが大事です」と指摘します。

AED隊では今回の大会から、日本AED財団が開発した救命スポーツアプリ「RED SEAT」も使い始めました。

救護本部。メンバーがコースを巡回するようすがアプリ「RED SEAT」で分かります
救護本部。メンバーがコースを巡回するようすがアプリ「RED SEAT」で分かります 出典: 朝日新聞社

配置についたメンバーのスマホの位置情報で、それぞれの位置が把握でき、救護者が発生した場合も位置が分かります。

チャット機能もあるため、救護本部のメンバーから「5km部門がスタートしました」といった情報も発信されます。

今回の大会では、心停止といった重症の傷病者は発生しませんでしたが、喜熨斗さんは「ランナーにいつ起きるか分からないのが心停止です。東京マラソンでは約4万7千人に1人の割合で起きています。特にマラソンの後半に多いというデータがあるので、救護体制を強化する必要があります」と語ります。

ランナーの救護にあたる国士舘大学のモバイルAED隊
ランナーの救護にあたる国士舘大学のモバイルAED隊 出典: 水野梓撮影

3時間半~4時間半のランナーが「最も危険」

2004年に市民にAEDが解禁されてから、AEDを背負ってスポーツ大会で救護活動にあたっているモバイルAED隊。2007年に始まった東京マラソンも、第1回から救護サポートにあたり、心停止に陥ったランナーをAEDで助けました。

喜熨斗さんによると、2024年11月までに380大会で救護にあたり、参加した競技者はおよそ272万9千人。そのうち心肺停止になったのは45人で、約6万人に1人という割合で起きていました。社会復帰率は93.3%といいます。

コースを巡回するモバイルAED隊のメンバー
コースを巡回するモバイルAED隊のメンバー 出典: 水野梓撮影

心臓が止まっていた場合、AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下します。一方で、救急車が119番通報を受けてから現場に到着するまでの時間は、2022年に全国平均で約10.3分となり、初めて10分を超えました。

倒れた人の意識がなく、呼吸があるかどうか分からない場合、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)をして、AEDのパッドを貼ってショックが必要かAEDに判断してもらうことが重要です。

喜熨斗さんは「心停止を起こしやすいのは男性が多く、フルマラソンを3時間半から4時間半で走る競技者が最も危険です」と話します。

心停止はいつ起こるか分かりません。AED隊のメンバーが見守ります
心停止はいつ起こるか分かりません。AED隊のメンバーが見守ります 出典: 水野梓撮影

活動を続けるなかで、スポーツ現場では「AEDが必要」という認識が広まっていることも感じているそうです。

「東京マラソンでは、モバイルAED隊が到着する前に、観客やランナーが心肺蘇生にあたって、駅のAEDを取りにいってくれて、到着時には呼吸が戻っていたケースもありました」と言います。

ラグビーや大相撲…救護体制をサポート

国士舘大学体育学部のスポーツ医科学科は、4年制大学として、日本で初めて救急救命士国家試験の受験資格を取得できるようにした学科です。

学生だけでなく、卒業生・教員たちが救護チームを結成し、マラソン以外にも、ラグビーや大相撲、サッカー大会などの救護体制をサポートしています。

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多くの市民が参加したマラソン大会。ランナーの安全が守られてほしいと思います
多くの市民が参加したマラソン大会。ランナーの安全が守られてほしいと思います 出典: 水野梓撮影
喜熨斗さんは「関東圏や静岡など各地のスポーツイベントをサポートしていますが、全国をカバーするのは難しい」と話します。

今後、アプリ「RED SEAT」も一般利用ができるようにリリースされていくそうで、喜熨斗さんは「RED SEATやZoomを活用すれば、モバイルAED隊と同様の救護体制は構築できます」と言います。

「大会を開催する側は、AED財団のEmergency Action Plan(心臓突然死を防ぐための危機管理対応マニュアル/https://aed-zaidan.jp/report/20240703.html)を参考にして、心臓突然死を防いでほしい」と呼びかけています。

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