連載
#74 イーハトーブの空を見上げて
「あまちゃん」で今も人気の〝まめぶ汁〟甘い、しょっぱい、優しい味
「甘いのか、しょっぱいのか、ちょっとよくわからないですね……」
JR久慈駅前の飲食店でまめぶ汁を食べていた、東京から来たという40代の会社員男性は、連続テレビ小説「あまちゃん」のセリフをまねて、うれしそうに笑った。
劇中に何度も登場する岩手県北の郷土料理を食べてみたいと、提供する飲食店にはいまも県内外から多くの観光客が押し寄せている。
実はドラマの舞台となった海辺ではなく、久慈駅から約20キロ西に離れた山間地の山形地域(旧山形村)に伝わる郷土料理だ。
凶作が続いた江戸時代に「ハレの食事」の麺類の代用食として、小麦粉にクルミの実を包んだ団子を食べたのが由来とされる。
団子が「まり麩(ふ)」に似ていることから「まめふ」と呼ばれ、その後なまって「まめぶ」になったのではないかともいわれる。
煮干しと昆布のだし汁に、ゴボウやニンジン、油揚げやシメジなどを加え、しょうゆで味を調えた後、練った小麦粉でクルミと黒砂糖を包んだ「まめぶ」を入れてコトコトと煮込む。
「あまちゃん」で紹介されたとおり、「甘くて、しょっぱい」優しい味だ。
山形地域の道の駅「白樺の里やまがた」の食堂で忙しそうに働く調理場担当の三上寿子さんは「この地域では、お盆で人が帰ってくると、『まめぶ』の話になる。多くの人に故郷の料理を知ってもらってうれしい」。
寒い日にはなぜかまめぶ汁が食べたくなる。
それは岩手の人の「温かさ」に似ている。
(2023年5月取材)
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