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カラフルなダルマ、外国人観光客に大人気 起業家の思い、職人が形に
高崎だるまを世界へ――。
高崎だるまを世界へ――。そんな熱意を胸に抱き、動き出している人々がいます。江戸時代から続くといわれる歴史を現代に担う職人が、若き起業家の思いを受け止め、新しい風を吹き込みました。(朝日新聞デジタル企画報道部・山本悠理)
縁起物としておなじみのダルマ。全国各地で作られていますが、中でも群馬県高崎市は、ダルマの国内生産の8割を占めるとされる、一大産地です。「高崎だるま」は江戸時代にその起源を持つといわれ、鶴の眉毛に亀のヒゲが特徴。現在も、数多くのダルマ工房が市内に軒を連ねています。
4代続く「松本商店だるま工房」もその一つ。工房に入ると、赤く彩色された無数のダルマの中で、鮮やかなカラーリングが目に飛び込んできます。ピンクと青、エメラルドグリーンに白、そして胴部分には、丸っこく大きな「TOKYO」の文字……。
松本商店の遠藤正樹さん(52)、明子さん(60)夫妻がこうした新たなデザインのダルマを作り始めたのは、昨年はじめのこと。きっかけはconcon株式会社の高橋史好(ふみこ)さん(24)からの依頼でした。
高橋さんは23年に会社を設立し、TOKYO LOLLIPOPというインバウンド向けブランドを展開しています。
次の一手として浮かんだのが、地元の「高崎だるま」。祖父の代から交流のあった松本商店へ、自らデザインしたダルマのアイデアを持ち込みました。
色合いもデザインも、長い歴史の中で異例の試み。遠藤さんが制作するにはなかなかの抵抗感があったのではと思いきや、「すごい発想だな」と舌を巻いたそうです。
「赤いダルマもちゃんと作れないのに、という思いもどこかにある。けど一方で、これからの時代はそうじゃないとも思うんです」
全国屈指の産地とはいえ、「高崎だるま」も時代の波に直面しています。「ダルマを作り続けて、頭が固くなっていたかもしれない。若い人の感性に任せてみよう」。遠藤さんは早速、制作に取りかかりました。
2024年の春に商品を発表し、TOKYO LOLLIPOPの店舗にカラフルなダルマを出したところ、外国人観光客を中心に大きな反響がありました。「いくら出しても良いから売ってほしい」という声もあったといいます。
それからまもなく、高橋さんが思いついた企画は、企業から注文を受け付け、各社のロゴに応じたデザインをダルマに施す「カイシャダルマ」。
conconと提携するデザイナーが毎回異なった色合いや模様を図面化し、それを遠藤さん夫妻がダルマで再現していきます。
「高橋さんからLINEが来ると、ヒヤヒヤします。むちゃなお願いばかりくるもんだから」と、冗談っぽく笑う二人。この前は、キラキラ光るラメを使えないかと相談を受け、試行錯誤したそうです。
「受けた以上、職人としていい加減なものは作れませんからね」
高橋さんは24年、フォーブスジャパンの「カルチャープレナー(文化起業家)30」の一人に選出されました。
「ダルマという伝統工芸品を、上から目線で『なんとかしてあげる』のではない。いまの世界にも通用する魅力があるんだということを見せられれば」。高崎だるまを世界の人々にも知って欲しい――。高橋さんは、そう力を込めます。
そんな「パートナー」の姿に、遠藤さんは目を細めます。「鼻高々だよ、自慢したくなっちゃうよ」。明子さんも「犬の散歩で会った人に、『高橋さんがフォーブス出たの』って話しちゃった」。
「ダルマってこんな可愛くできるんだっていうのがまず驚きで、それを自分たちがやらせてもらってるのが、すごく嬉しい」と明子さんは言います。
自分たちのダルマが世界中に羽ばたいていく日を思いながら、二人はきょうも筆を動かしています。
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