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肥満やうつ病にも悪影響?寝室の明るさを調査〝光害〟減らす対策とは
照明といった人工の光が悪影響になる「光害(ひかりがい)」は天体観測だけではなく、私たちの健康にも影響が及びます。実際にどんな影響があるのか、私たちはどうすればいいのか――。取材しました。
白熱電球が発明された1870年代以降、世界の光は増え続け、現代人は夜に人工照明の光を浴びることが多くなりました。その結果、体内時計が乱れ、体に不調をきたす可能性が指摘されています。
奈良県立医科大で疫学・予防医学講座特任准教授を務める大林賢史さんは、「光が動物や植物にどういう影響を与えているかはこれまでにも研究されていましたが、実は、人間への影響についてはあまり研究されてこなかったんです」と話します。
例えば、植物は日が出ている時間やその昼の長さをもとに花を咲かせています。照明の光で夜が明るくなると昼が長くなったと勘違いし、本来咲く時期ではない時期に花を咲かせてしまうことがあるといいます。
人間は昼は太陽の光を浴び、夜はほとんど浴びない生活をして進化してきました。それをもとにして、体内時計のシステムはできています。
しかし、現代人は昼間は建物の中にいて光をあまり浴びず、夜は照明といった多くの人工の光を浴びてしまっています。
夜間に人間が強い光を浴びると、「メラトニン」という体内時計を調節するホルモンの分泌が減るという研究結果もあります。
大林さんの研究チームは、実際の日常生活における光による健康への影響について、2010年から研究を続けています。
睡眠時の寝室の明るさはどのくらいか、外に出ることが多いか少ないか、毎日どのくらいスマホを見るのか、照明や太陽の光の浴び方は人によってさまざまです。大林さんはこれを、腕時計型照度計や寝室に設置した照度計で測って、その人のその後の健康状態を追跡しています。
その一つとして、うつ病との関連性を調べた研究があります。
奈良県に住む60歳以上の男女863人を対象に、2010年〜14年にかけて寝室に明るさを測るセンサーを設置。寝床に入ってから出るまでの明るさを計測し、その後の経過を2年ほど追いました。
結果、寝室が「暗め(平均0.4ルクス)」だった710人のうち52人が、「明るめ(12.4ルクス)」だった153人のうち21人が、新たにうつ症状を発症しました。
ちなみに月明かりは1ルクスほど、一般的な部屋の明るさは100〜200ルクスほどです。
年齢や性別、世帯収入などが影響しないよう調整して分析すると、寝室が「明るめ」の人たちは「暗め」の人たちの2倍近くも、うつ症状を起こしやすかったそうです。
寝室の照明以外にも、寝床に入ってからの読書用の電灯や窓から差し込む朝日の光も、うつ症状に影響している可能性があるといいます。
また、大林さんは肥満との関連性も研究しています。今回は、奈良県の40歳以上の男女2947人を対象に寝室の明るさを調べました。
夜の寝室が明るい人たち(平均照度4ルクス以上)は、暗くしている人たち(0.2ルクス未満)に比べて、BMI(体格指数)、腹囲長、中性脂肪、悪玉コレステロール値が高い値を示しました。
他にも、夜に光を多く浴びることが、睡眠障害、高血圧、糖尿病、動脈硬化などと関連することが明らかになっています。
大林さんは普段から、「夜は暗くして寝る、スマホを寝室に持っていかないなど『原始人のような光の浴び方』をすると健康にいいですよ」とすすめているそうです。
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