『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の「名探偵津田 第3話」がTVer歴代最高となる429万回再生を記録した。これほど注目を浴びることになった理由とは? 放送内容を振り返りつつ、メイン出演者であるダイアン・津田篤宏、番組演出の藤井健太郎氏が制作するコンテンツの魅力を考える。(ライター・鈴木旭)
昨年12月18日に放送された『水曜日のダウンタウン』(TBS系。以下『水ダウ』)の企画「名探偵津田 第3話 怪盗vs名探偵~狙われた白鳥の歌~」がTVer再生数の歴代最高記録となる429万回を突破した。
これは、ビデオリサーチ社が2024年12月18日~25日の8日間で全てのバラエティー番組を対象としたTVer見逃し配信再生数を算出し明らかになったものだ。『水ダウ』は同放送回で累計再生数2億回を突破し、TVer配信番組史上初の記録を達成。記念すべき大台を、新たな人気シリーズ「名探偵津田」で更新した形だ。
とはいえ、この反響の大きさも番組を見れば納得の出来だった。「名探偵津田」は、さまざまな説や企画を検証する『水ダウ』らしく、「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリ、めちゃしんどい説」と銘打ち、ダイアン・津田篤宏をミステリーの世界に引きずり込むというものだ。
2023年の第1弾、第2弾を経て、2024年12月11日、18日と2週に渡って放送された最新回は、津田がプレゼンターとなって登場し、「有名人の卒業アルバム、その地元に行けば意外とすんなり手に入る説」の検証VTRを見守った後、スタジオゲストのアンガールズ・田中卓志が何者かに銃殺される、という衝撃的なストーリーによる幕開けでスタートした。
亡くなった田中のバッグにあった遺品を頼りに、田中のマネージャーとともに新潟のリゾートホテルが主催するオークション会場へと出向く津田。事件の鍵となる絵画「白鳥の歌」が「怪盗ダイヤ」なる人物によって盗まれ、その後も関係者たちが次々と殺されていく。当初はやる気のなかった津田が、ジワジワと物語に没頭し始める展開が痛快だった。
急きょ決まった新潟ロケに何度も「長袖をください」と懇願し、絵画を落札するため預金額を聞かれたタイミングで「ここにおるスタッフとかに何で知られなアカンねん」と牙をむき、深夜の寝室で田中のマネージャーにこんこんと「俺『1』の世界線のままやってんねんけど、そのスタッフさんは『2』で見てる」と、ドッキリと通常の世界を行き来する津田の立場から見た状況を説明するなど、名シーンも続出。
また、直前の検証VTRで登場した野呂佳代の卒業アルバムも実はドッキリの一環で、それによって全貌が明るみとなっていき、そのロケに参加したみなみかわも途中から津田の相棒として調査に協力することになる仕掛けも秀逸だ。映画やドラマでは体験できない、バラエティーならではの面白さがそこにあった。
2018年4月、大阪から東京へと拠点を移したダイアンの滑り出しは比較的、上々だった。同年10月放送の『有田ジェネレーション』(TBS系。2016年~2021年地上波放送終了)の企画でコンビでラップバトルをした際、さっそく津田の面白さが知れ渡っていく。
学生時代に津田の母親がふるまった料理をめぐり、津田は「お前は1回も『ごちそうさん』って言わんかった」と訴え、相方のユースケは「見たことないぐらい大きな卵焼きやった」「あんなんどうやって作んねん」と返す。これに津田が「あれで俺は育ったんや」「頼むから『ごちそうさん』言うてくれ!」と叫ぶ姿は今振り返っても爆笑ものだ。
ただ、前年2017年の『キングオブコント』で優勝し勢いづく後輩のかまいたちと同時期に東京進出したこと、40歳を超えて「ゆるやかな右肩上がり」を心掛けてマイペースに活動したこと、2019年に若手の「第七世代」ブームが到来したことなどが重なり、“売れ切る”までには至らなかった。
2021年5月には、『ゴッドタン』(テレビ東京系)で「もっといけるだろ! 俺たちのダイアン」との企画が組まれ、後輩芸人のさらば青春の光・森田哲矢や鬼越トマホークから尻を叩かれていたのが印象的だ。とはいえ、こうした企画によって津田のキャラは“後輩からのイジり”を助長させ、ますますヒートアップしていく。
2022年に放送の特番『お笑いの日』(TBS系)では、ランジャタイとのコラボネタを披露する中で『ザ・ヒットパレード』(フジテレビ系)のテーマ曲に合わせて「ゴイゴイ~スースス~」と延々と歌わされ、2023年5月から始まったゴルフ番組『ダイアン津田のバーディーチャンすー』(東海テレビ)では共演者であるタレント・モデルの雪平莉左から「ゴ?ゴ?ゴ?」と振られて「ゴイゴイスー!」と言わされたりしている。
周囲は、持ちネタさえ勝手にアレンジし、津田が戸惑い、嘆き、キレる様を見たいと願う。津田自身も儲け話や女性に目がなく、面倒なことが起きればすぐさま表情や態度が一変し、状況が好転すれば再び上機嫌になってはしゃぐ。一方で、テレビ放送に耐えられないような一線は決して越えない。ドッキリ番組がテレビのゴールデンタイムを飾る昨今、まさに津田は時代の寵児と言える存在ではないだろうか。
そして、ひと癖ある芸人たちの猛獣使いとして手腕を発揮するのが、『水ダウ』の演出を務めるTBS局員の藤井健太郎氏だ。
現在、『クイズ☆正解は一年後』、『オールスター後夜祭』といった人気特番を手掛けるほか、『大脱出』(DMM TV)や『KILLAH KUTS』(Amazon Prime Video)といった話題の配信番組で企画・演出・プロデューサーを担当。
さらには、2021年に放送されたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ/フジテレビ系)のエンディング曲「Presence」をプロデュースするなど、局やジャンルの垣根を越えて活躍するテレビ制作者だ。そんな藤井氏のセンスは、過去のバラエティー番組からも垣間見える。
特に「名探偵津田」第3弾の土台になったであろう企画が、2010年~2012年にレギュラー放送されていた『クイズ☆タレント名鑑』の「GO!ピロミ殺人事件」だ。
前半は、番組側で提示したものまね芸人の中から実在する芸人を当てる恒例企画「モノマネ芸人いる?いない?クイズ」を実施。しかし、GO!ピロミが指名されて間もなく大きな音が発生し、幕が開くと本人が倒れていたことから収録は中断される。後半は一気にシリアスな空気となり、番組アシスタントの枡田絵理奈アナウンサーが事件の謎を追うサスペンスドラマが展開された衝撃はいまだ語り草となっている。
「GO!ピロミ殺人事件」の台本は、堤幸彦監督の映画『天空の蜂』(松竹)など数々の作品を手掛けた放送作家・脚本家の楠野一郎氏。「名探偵津田」は、昨今のクイズ番組に引っ張りだこの放送作家・矢野了平氏がミステリー部分を担当。特殊な企画の骨格を、その道のエキスパートに依頼するあたりも含めて、藤井氏には抜け目がない。
『水ダウ』の名物企画を並べても、「MONSTERシリーズ」は安田大サーカス・クロちゃん、「不可避シリーズ」はオードリー・春日俊彰、「電気イスゲーム トーナメント」は岡野陽一、幅広いドッキリ系はパンサー・尾形貴弘など、企画の顔となるキャスティングも絶妙だ。
そんな藤井氏が、満を持して「名探偵津田」をヒットさせた意味は大きい。いまだ年越し番組「笑ってはいけないシリーズ」(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)の企画から派生した特番)を求める声も多い中、「名探偵津田」はそれに近い見応えを感じさせた。今後、どんな形で同シリーズが展開されるのか楽しみだ。
約3年前、筆者が藤井氏に「エンタメの本質とは何か」と尋ねた折、「みんなで同時に楽しめることって大きい」という答えが返って来たのを覚えている。
「例えばアメリカンフットボールの頂点『スーパーボウル』のテレビ中継は、今も視聴率が高い。ハーフタイムショーや番組で流れたCMまで、『あれ見た?』ってメディアを超えて大きな話題になるじゃないですか。こうした話題を作る力は、テレビが得意なところだと思います」<2022年5月5日、朝日新聞社とパナソニック株式会社の企画のもと発行した「未来空想新聞2040」より>
また、同じ取材の中で、YouTubeやインスタグラムなど個人が発信できるプラットフォームが増えたことについて、藤井氏は肯定的な意見を述べていた。
「番組やイベントに携わった関係者がその裏側を語ったり、あるいは視聴者が考察を書くブログが面白かったりもする。少し前なら残るはずのなかった映像でも、今は誰かが発信し、SNSを通して視聴できるようにもなった。そうした変化によって、今後ドキュメンタリー的な要素を生かした新しいエンタメが生まれるかもしれない」
「名探偵津田」では、視聴者が番組の中で同時に事件を目撃し、その重要人物である野呂佳代の居場所が本人のインスタグラムによって特定された。藤井氏は、人間くささ全開のダイアン・津田を通じて、現代らしいエンタメの実験を行っているのかもしれない。