「顔のまわりは熱いのに足元が寒い」「リビングは温かいのに洗面所は寒い」。冬の時期に感じる人も多い、そんな“室内寒暖差”の悩みには、どう対策すればいいのでしょうか。エアコンのプロと住環境の専門家に話を聞くと、具体的な風向・風量、タイマーの設定方法や、「ポリカーボネート板がおすすめ」「実は断熱シートの効果は乏しい」など、豊富なアドバイスをもらうことができました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
気象庁の3カ月予報によれば、1月の気温は平年並みまたは低くなり、2月も平年通りの寒さとなる見込みです。
そんな中、三菱電機霧ヶ峰PR事務局が、2024年11月から12月にかけて全国の30~50代の男女600人を対象に実施した調査で、「顔のまわりは熱いのに足元が寒い」「リビングは温かいのに、洗面所は寒い」といった“室内寒暖差”に悩む人が8割以上に上ることが分かりました。
同事務局によれば、冬に“室内寒暖差”が「気になったことがある」「どちらかといえば気になったことがある」と回答した人の合計は80.5%。しかし、その人たちに対策を実施しているか質問すると、57.9%が「対策を実施していない」と回答し、その理由は「対策の仕方がわからないから」がもっとも多い43.7%になりました。
では、こうした“室内寒暖差”には、なぜ発生し、どのように対策すればいいのでしょうか。
実は日本の住宅は「冬にさまざまな“室内寒暖差”が発生しやすい」といいます。国土交通省の資料では、従来の日本の一般的な戸建て住宅は、欧米諸国と比較して寒く、室温を十分な高さに保てていない傾向にあることが指摘されています。
その原因として、調査を実施した事務局は「住宅の断熱(熱の出入りを防ぐ)・気密(空気の出入りを防ぐ)性能が低いこと」や「住宅全体に熱と空気を循環させる工夫が備わっていないこと」を挙げます。
最近では、断熱・気密性能が高い住宅や、住宅全体に熱と空気を循環させる全館空調を採用する住宅が増えてきているものの、「『家全体が均一にあたたかい状態』を実現できている住宅は多くないのが現状」だとします。
住宅の断熱改修や全館空調の導入は、簡単にできることではありません。一方で、原因ごとに、比較的、簡単にできる対策もあると専門家は説明します。三菱電機株式会社空調冷熱システム事業部の久田優美さん、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授の前真之(まえ・まさゆき)さんに話を聞きました。
まず、「顔のまわりは熱いのに足元が寒い」といった「部屋内の寒暖差」についてです。
これは、エアコン暖房の暖気が部屋全体にうまく行き渡らないことや、断熱・気密性能が低いことで住宅の隙間から冷気が侵入し、暖かい空気が出て行ってしまうことにより発生します。また、「暖かい空気は軽く、冷たい空気は重い」という空気の特性も関係します。
例えば、大きなタンスなど家具によってエアコン暖房の暖気が遮られて、まんべんなく行き渡らないことや、暖かい空気が冷たい窓に冷やされて下降し、床付近に溜まること、床まわりの隙間から冷えた空気が侵入することなどが起こり得ます。
そのため、久田さんは「なるべく暖気をまんべんなく部屋に行き渡らせることが重要」と説明します。
風向は下向きに設定し「床を伝って暖かい空気が部屋に広がるようにしましょう」。また、風量が弱すぎると、温風が床付近に届く前に舞い上がってしまうため、「やや強めに設定すると良いでしょう」ということでした。
また、サーキュレーターを併用すると「天井付近に溜まった暖かい空気を部屋全体に循環させることができます」と久田さん。併用する際は、サーキュレーターをエアコンの対角線上に置き、エアコンの吹き出し口に向けて風を送ると良いそうです。
サーキュレーターをエアコンの対角線上に設置できないときは「部屋の中心に置いて真上に風を送りましょう」。床付近の冷たい空気を上昇させることで、部屋に空気の循環を生むことができるのだそうです。
なお、エアコン室内機の真下や、暖房の暖かい空気があたる場所に家具を置かないようにすることも重要。タンスなど大きい家具だけでなく、テレビやソファーなどでも、空気の循環を妨げないように、設置場所を見直すことで、室内寒暖差を解消できるということでした。
対策として注意が必要なのが、窓ガラスです。前さんによると、「窓ガラスは熱の流出が住宅の中でもっとも多く、エアコン暖房をつけていても、無断熱の窓がある部屋では約半分程度の熱が窓から出ていく」そう。外の冷たい空気の影響も受けやすい場所です。
そこで、手軽にできる対策として前さんがおすすめするのが、ホームセンターなどで購入できる「ポリカーボネート板」を貼ること。ガラスよりも優れた断熱・保温効果が特徴のプラスチック素材です。前さんの研究室の実験では、厚み0.4cm、乳白色半透明色で中が空洞構造の「中空ポリカーボネート板」を使用しました。
窓ガラスとポリカーボネート板の間にできる空気の層が冷たい外気を遮断し、室内の暖気を逃しにくくすることで、簡易的な「内窓」をつけた状態になるそうです。前さんの研究室の実験では、ポリカーボネート板を窓に貼ることで、熱の流出量を53%減らせることが分かりました。
次におすすめなのが「断熱性の高いカーテンかハニカムスクリーンをつけること」。ハニカムスクリーンは蜂の巣構造が特徴のスクリーンで、家具店などで一般的に販売されています。
カーテンは薄いものではなく、厚みがあり、裏地がついているものを選ぶことがポイントだそう。ハニカムスクリーンは生地の断面が蜂の巣状になっているため、高い断熱性と保温効果を持つといいます。
ただし、「どちらも長さが足りないと下の隙間から冷気が部屋に侵入してしまうため、窓全体を覆える長さのカーテンやハニカムスクリーンを選ぶことをおすすめします」ということでした。実験では、カーテンにより熱の流出が26%抑えられたそうです。
なお、断熱シートや気泡緩衝材を貼る対策は手軽に行うことができるものの、「あまり効果が期待できないことが分かっている」と前さんは説明します。断熱シートや気泡緩衝材を使った実験では、通常の窓に比べ、熱の流出量をそれぞれ8%、18%しか減らせないことが明らかになったためです。
そして、「リビングは暖かいのに洗面所は寒い」といった「部屋ごとの寒暖差」についてです。
前さんは、日本の住宅の断熱性能不足と特有の間取りのために「簡単に解決することが難しいのが現実」と明かします。これは、日本の住宅はドアや仕切りが多いことに加えて、エアコン暖房がついているリビングから、特に寒さを感じやすい洗面所やトイレなどの水回りの部屋が離れていることが多いためです。
その上で、特に寒暖差を強く感じる入浴前後の洗面所や浴室では、「小型ヒーターや浴室暖房機などを用いてあらかじめ洗面所を暖めておくことをおすすめします」と前さん。
このように、結局は部屋を暖めるしかないとも言えます。暖かい空気を他の部屋に回すことは構造上、難しいため「リビングのドアを開けっ放しにする」といった対策は不十分で、電気代の観点からもおすすめはできない、ということでした。
ちなみに、朝「布団から出るときに寒い」という、ある意味での寒暖差については、太陽が出ていない夜の間に地面から熱が放出されることで気温が下がる「放射冷却」により、深夜から明け方にかけて気温がもっとも低くなることによって起きるもの。日本の断熱性能の低い家では起きやすいそう。
そのため、三菱電機の広報担当者のおすすめは「就寝時にエアコンを一晩中つけておく」こと。設定温度のおすすめは18~23℃で、「乾燥対策をしながら試してみては」と広報担当者は話します。
電気代が気になる場合は、就寝前に「起床1時間前、室温18~23℃」でタイマー機能を設定するのもよいとのこと。「起床のタイミングに合わせて前もって部屋を暖めておくことで、朝、起きて布団から出る際の寒暖差を減らすことができます」と話していました。